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日本一ソフトウェア株価が-17%の急落 「MSワラント」による資金調達発表で売られる

資金は主に人件費に充てるとのこと。

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 2019年5月20日の株式市場で、ゲーム開発の日本一ソフトウェア(東証JASDAQ)が急落。前営業日比で269円安(-17.05%)の1309円で取引を終えました。前営業日に、「MSワラント」の発行という手法で資金調達を発表したのが要因です。

 午前の取引開始から売り気配でスタートし、取引終了間際には下げ幅が拡大しました。MSワラントの発行による株式の希薄化などが嫌気されたためです。終値ベースの株式時価総額は約67億円に落ち込んでいます。

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3月のリリース直後からメンテナンスに入ったままの「魔界戦記ディスガイア RPG」。4月中旬の時点で、再開には3カ月以上かかるとアナウンスされている
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日本一ソフトの株価推移。「ディスガイア RPG」ローンチのつまづきで急落していた(Yahoo! ファイナンスより)

 前週末(17日)の発表では、同社は6月3日を割当日として、37万5000株の行使価額修正条項付新株予約権(MSワラント)を発行し、約5億7364万円を調達。希薄化率は発行済み株式数に対し7.34%になります。割当先は大和証券。

 資金調達の理由として、同社は「新規IP(知的財産)創出のための開発資金、既存IP活用のための開発資金として、開発を行うスタッフの人件費、開発の一部を外注することで生じる外注費、ソフトウェアなどのシステム開発を含む設備投資などに充てる」と説明しています。

 同社は今後、新規タイトルの複数機種同時発売(家庭用ゲーム機、PC、スマートフォン)と多言語同時発売を掲げるほか、3D表現やオンライン技術の研究開発を進める考えで、調達資金はこうした計画に活用するという説明です。

 ただ、希望する規模での資金調達ができなかった場合、開発スタッフの人件費への充当を優先し、不足分は借り入れで充てるとしています。

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開発資金の使い道(IR資料より)

 日本一ソフトウェアが発表した2019年3月期の連結決算は、売上高が前期比4.5%減の45億2300万円、本業のもうけを示す営業利益は35.2%減の4億2600万円、純利益は42.3%減の2億9300万円と、大幅な減益。3月19日に配信スタートした、人気シリーズのスマホアプリ版「魔界戦記ディスガイア RPG」は、リリース直後に不具合などから長期メンテナンスに入ったままになっており(関連記事)、この期の収益貢献はほとんどなかったと考えられます。

 3月末の現金及び現金同等物の残高は20億4600万円(前年同期比4億5000万円増)でした。

「MSワラント」って?

 MSワラントは正式には「行使価格修正条項付新株予約権」です。新株予約権(ワラント)は企業に新規株式の発行を要求できる権利ですが、これに権利を行使する額を株価の変動に応じて修正できるという条件が付いたものです(「MS」はMoving Stirkeの略)。

 MSワラントはその時点の株価より常に安い価格で行使できるので、発行された株式をすぐに売却すれば利益が得られることになります。また引受先は、その会社の株を借りて空売りし、下がった株価をベースに新株予約権を行使し、発行された株を借りた株の返却にあてることで、株価が下落した分を利益にすることもできます。このため、引き受けるのは大量の空売りができる証券会社であることが多く、今回は大和証券です。

 一方、既存の株主にとっては、新株予約権の行使で株式総数が増えることで、保有株式の1株当たりの価値が減る(「希薄化」)上、株価が下がればダブルパンチになります。一般的に、MSワラントは既存株主に歓迎されないので、この日の取引で日本一ソフトウェアの売りが相次いだというわけでです。

 日本一ソフトウェアは、新株予約権による発行株式数は一定であり、希薄化率も7.34%で固定されていること、不要になった新株予約権を買い取ることができることなどを挙げ、機動的な資金調達方法として今回のMSワラント発行が最良と判断した、と説明しています。

 企業の資金調達方法は銀行借り入れや増資などさまざまですが、投資家にとってはMSワラントと言えば“一か八か”的なバイオテクノロジー関連企業や経営難に陥った企業などがとる手段という印象です。後に刑事事件に発展した旧ライブドアも、同様の条件の転換社債(MSCB)を使った手法が“錬金術”などと呼ばれて良くも悪くも名をはせ、現在は規制が強化されています。

 一方で、MSワラントによる資金調達は(1)短期間かつ低コストに行える、(2)通常の「借金」に比べ、財務上の悪影響が少ない──というメリットを指摘する意見もあります(西村あさひ法律事務所の杉本健太弁護士の見解)。近年、MSワラントによる資金調達実績は増えているとのことです。

 また、調達した資金を投じて業績を拡大できれば株価の維持・上昇も可能というロジックは成り立つので、それならば既存株主も我慢できるかもしれません。日本一ソフトウェアも、調達資金を開発資金に充てることで「当社グループの業容の拡大につながり、今後の収益性の向上や企業価値の向上に寄与することから、既存株主を含めた株主全体の利益につながると判断している」と説明しています。

 ただ、5月10日に日本一ソフトウェアが発表した今期(20年3月期)の業績予想は、売上高が前期比25.4%減の33億7300万円、営業利益が32.7%減の2億8690万円、純利益が37.7%減の1億8290万円と、大幅な減収減益です。ローンチにつまづいた「ディスガイア RPG」の収益貢献も未知数で、少なくとも現時点では市場は評価していないようです。

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