単行本累計部数400万部突破、2017年度講談社漫画賞<一般部門>を受賞した週刊ヤングマガジンの人気漫画『ザ・ファブル』(南勝久)が岡田准一さん主演で実写映画化。6月21日に全国の劇場で公開されます。
どんな相手も6秒以内に殺す――。裏社会で“伝説”と恐れられる天才的な殺し屋が、ボスから「殺し禁止」のルールで“佐藤アキラ”という偽名の一般人として“普通の生活”を始めるファブルが一般社会に溶け込む中で“殺しの力”の意外な使い道を見いだしていく姿が描かれています。
実写化にあたっては、岡田さんの他にも多くの俳優陣が出演していますが、一般社会で「プロの普通」を目指すファブルが人生で初めてアルバイトをすることになるデザイン会社(有限会社オクトパス)の社長・田高田(たこうだ)役は佐藤二朗さんを起用。以下では、佐藤さんに同作の魅力や、夢との向かい合い方を聞いてみました。
―― 以前、「あまりの面白さに、ちょっと凄い漫画を見つけた、と呟こうとしたその日にお話を頂いた」とオファーのいきさつをツイートされていましたが、佐藤さんが考える「ザ・ファブル」の魅力を教えてください。
佐藤二朗さん(以下、佐藤) 殺し屋って、現実にいるか分からないじゃないですか。誰も本当の殺し屋なんて知らないし、見たこともない。でも、本当の殺し屋、あるいは裏社会って、「実はこういうものなのかも」という「かも」が全体に行き渡っているのがすごいんです。
「太陽にほえろ!」で松田優作さんが発した有名なせりふで「なんじゃこりゃあ」というのがありますよね。あれ、僕は脚本にはなかったんじゃないかと思うんです。刺されたことのある人も、刺されたのを見た人もほとんどいないでしょうが、確かに刺されたら「なんじゃこりゃあ」と言うかも、という「かも」がある。だから、あれは歴史に残る名シーンになったんだと思います。それと同じように“こうかも”と思わせる力が、「ザ・ファブル」にも随所に感じられるのが一番の魅力。
あとは、笑うシーンや泣かせるシーンが「ほら笑わせるぞ!」「泣かせるぞ!」ではない、ちょうどいいさじ加減なところも僕にはドンピシャでした。
―― 今作で佐藤さんは、ファブルがアルバイトをするデザイン会社の社長である田高田役を演じていますが、出演が決まった際「酒好きのオヤジというところは全く僕と同じ」とコメントされていました。普段の、特にクセの強いキャラクターを演じるときと、田高田のようなリアルにいそうなキャラクターを演じるとき、意識するポイントは違うのでしょうか。
佐藤 演じ分けはあまり考えたことはありません。確かに、タコ社長はリアルにいそうだけれど、仏(「勇者ヨシヒコ」)は実際にはいない……。あ、仏はいるかもしれないけど、「ヨシヒコ〜〜〜!」っていう仏はいないですよね(笑)。
今回僕が意識したのは、タコ社長の内面性。彼は、実は魂がとてもきれいな人なんです。例えば、原作だとクリスマスパーティーでタコ社長がヨウコたちと飲み比べるエピソードがありますが、そのときタコ社長はベロベロに酔っぱらっちゃって。ヨウコはお酒が強いから本当は酔ってはいないけれど、タコ社長に合わせて酔ったフリをしたら、タコ社長はベロベロになりながらヨウコを布団に運んでくれて、自分はそのまま机につっぷして寝てしまう。それをヨウコが家族のことを思い出しながらながめるという、ちょっと泣けるエピソードがあるんですが、そういった、一見いいかげんな人だけど、非常に社員に愛がある人だというのは常に意識して演じていました。
―― 佐藤さんは、主に岡田准一さん、山本美月さんと共演されていましたが、撮影中のエピソードがあれば教えてください。
佐藤 実は僕、岡田くんと共演するの初めてだったんです。だから、撮影がはじまる第一声で「岡田くん! やっと一緒になったね!」と言ったくらい。すごく話しやすくて楽しい人でしたし、作中で岡田くんが唯一ホッとできるシーンだったこともあって、現場の空気もすごく良かったです。
岡田くんと現場で話していたのが、これまでの「永遠の0」や「関ヶ原」を見たあとだったので、洋服が地味、それこそジャージーみたいな服を着ているから「特攻服でも武将の服でもなくて、地味な服着てるね〜」って(笑)。岡田くんも「久しぶりです普通の服着たの」と言っていました(笑)。
―― デザイン会社では広告制作を行っている描写がありましたが、佐藤さんもかつて広告代理店に入社したものの、入社式の違和感と、俳優の夢を諦めきれずに1日で退職された話は有名です。
結果論として佐藤さんは俳優として成功されていますし、夢を追いかけることはとてもすてきなことですが、同時にかなわなかった場合のリスクはあります。何者かになりたくて、夢を追いかけ続けている人も、途中で諦めてしまった人もいますが、佐藤さんなりの夢のかなえ方と見切りの付け方について教えていただきたいです。
佐藤 よく聞かれますが、難しいですよね。結果的に僕は“食えるようになった”けれど、この結果をもって「夢を追い求め続けろよ!」なんて無責任なことは言えないです。
以前、世界的マジシャンのメイガスさんと対談した際、彼も僕と似た境遇を生きてきて、サラリーマンも経験したりもしていたんですが、そんな彼が、自分の夢を「火を完全に消火活動で消し去ったつもりだったのに、その火がくすぶっていた」と表現していて、本当にそうだな、と。
僕も、「役者で飯なんて食えない」と自分を納得させていたけど、よくよく見ると火が消えていなかった。それで僕は諦めずにいまここにいますが、僕の周りにも、火を完全に消してベストな生活をしている人もたくさんいて、その勇気は自分からしたら称賛に値する。
きれい事になってしまうけれど、そういう人たちのことをたくさん知っているので、その人たちのためにも、こっち(俳優)にいった人間は、ちょっとやそっとのことじゃ引かず、進まないといけない、と日々思います。もちろん、諦めた方が良かったのか、諦めない方が良かったのかなんて誰にも分からないのが難しいですけどね。
―― なるほど。ところで、佐藤さんはTwitterでもネットユーザーからとても支持されていますよね。スクリーン越しでは分からない佐藤さんの人となり、特にネットとの関わり方について聞かせてください。
佐藤 自分自身のことはアナロガーだと思っています。ねとらぼの読者のようなデジタラーではないです(笑)。今もガラケーですし。
最初、ネットには偏見を持っていたんですが、Twitterをはじめたとき、有名無名に関わらず、「いい文」さえ書けばたくさんフォロワーが付く、という公平さに感動しました。僕が好きなのは、深爪さんや紗倉まなさん。お二方にお会いしたことはないですが、よい文章や表現を書けば評価されるのが本当にいいですよね。紗倉まなさんの「えろ屋やってます。」なんてすごくいい。
あと、ネット用語って本当にいい表現がたくさんありますよね。最近は、「独り言」を「心のお漏らし」と表現するのを知って感動しましたし。そういう、自由な表現があふれているのが非常にいいと思うので、ネットユーザーの方たちには「これからも注目させていただきます」と伝えておいてください(笑)。
―― しかと胸にひびいた……。最後に、「ザ・ファブル」を楽しみにしているねとらぼ読者に一言お願いします。
佐藤 原作のすごさをしっかり踏襲した上で、見事な映像化をしている作品です。キャスティングも自由さがあり、ここにあの人が? みたいな驚きもあるので、楽しみにしていてください!
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