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エラいもんを読んでしまった〜〜〜!!! ホラー小説『忌録』がめちゃくちゃすごいから読んでくれマシーナリーともコラム(1/2 ページ)

そもそも誰が書いたのか、ここで語られているのは何なのか。

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 バーチャルYouTuber、マシーナリーとも子による不定期コラム第14回(連載一覧)。今回は夏にちなんで、ホラー小説忌録: document Xがめちゃめちゃ怖い(面白い)からみんな読もう! という話です。


マシーナリーとも子 忌録 阿澄思惟『忌録:document X』(Amazon.co.jpより)

マシーナリーとも子 忌録

ライター:マシーナリーとも子

マシーナリーとも子 プロフィール

徳で動くバーチャルYouTuber(サイボーグ)。「アイドルマスター シンデレラガールズ」の池袋晶葉ちゃんのファンやプロデューサーを増やして投票してもらうために2018年4月に活動開始。前世はプラモ雑誌の編集をしていたとも言われているが定かではない。現在はBOOTHでグッズを売ったりLINEスタンプを売ったりしている。

YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/user/barzam154

ポータルサイト:https://www.machinery-tomoko.com/



※この記事はメッチャ面白かったんだよ! という主張をするために段階的に作品のネタバレをしていくので、読み進めながら「ム! このあたりから結構内容に触れてるんじゃないか!? 先に本を読まないと100%の本質体験はできないんじゃないか?」と思った人はすぐに閉じて本を買って読み始めてください。ネタバレとかあんまり気にしない人はガンガン読んでから買ってください。

※この作品には犬が死ぬ描写があります

※後ほど本文でも触れますが、本稿執筆というか本作品を読み掘り下げるにあたってTogetterの考察まとめに大変助けられ、インスピレーションをバリバリ受けました。各考察班に感謝します。



4つの忌まわしき怪異のオムニバス

 ムラサキカガミ(未成年特攻)! マシーナリーとも子よ。

 こないだすげ〜〜〜ギミックが凝った本を読んだ。2014年に発売された 阿澄思惟の忌録。めちゃめちゃに「すげえ!」って読書体験させられたし、その体験がこれからも姿を変えていくような予感もする、すげ〜つくりの本だ。これはオススメだわ。マシーナリーとも子オススメ!

 『忌録』はKindleで発売されている電子書籍のみの本です。多分Kindle Direct Publishing(セルフ出版)なのかな? 知らんけど。

 ジャンルとしては「ホラー」だと思う。というか何も考えずに読んだらただのホラーでしかない、怖い話集です。なんか含んだ言い方をしてしまっていることについては、後ほど語るとしよう。

 この本は著者が集めた「洒落怖(※)」っぽいお話……忌まわしい、世間から封印された事件についての資料を集めた、という体裁のオムニバスとなっている。収録されているエピソードは4つ。

※編注:2ちゃんねる、オカルト板の定番スレッド「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?」の略称


みさき(神隠し・未解決事件)

 ある少女が神隠しとしか思えない、不自然な失踪をする。どんなに手を尽くしても見つからない娘を探すため、両親は高名な霊能力者に交霊を依頼するが……。

 「カアイソウ」で有名な「三重小2女児失踪事件」をモチーフにしていると思われる話。この話のみWebで全編を読むことが可能(正確には電子書籍版と多少の差異がある)で、Twitterでも「完成度が高い洒落怖」と話題になった(一箇所ビックリ要素があるので注意)。初見の単純な恐怖度だと、この話がいちばん怖いかも。


光子菩薩

 逮捕された眼球くり抜き魔の持ち物から出てきたのは、見たものを昏睡(こんすい)させる力を持つ、謎の光子菩薩の御札だった。次々と警察官が昏睡してしまったのをきっかけに、科学者による御札の解明が始まる。

 一言で言えば「SCPじゃんコレ!」という話。SCP財団を読んだことがある人間ながら、あまりにもSCPっぽくて全然怖くないと思う話。ほかのエピソードがモキュメンタリーっぽいつくりななか、この話のみフィクション色が強いので「文章の」怖さは弱めかも(キモいんだけど)。ただ、最後に読者を巻き添えにするかのようなギミックがあり、背筋はしっかり凍る。また、あまりにもわざとらしくフィクションっぽい内容になにか別の意図も感じずにはいられない作品。


忌避(仮)

 ある幽霊屋敷事件を追ったライターによる原稿、編集者らとのメールという体裁のエピソード。タイトルに(仮)とある通り、どうもこの原稿は記事にはならなかった感じがあるな。

 4編のなかでもっともモキュメンタリー色が強く感じられるお話。私はホラーな映像ってマジでダメなので見たことないんだけど、白石晃士さんの「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」ってこんなノリの話なのかなあって思いながら読んでいた。後述するけど「人のPCでファイルを閲覧している」という体がすっごくうまい。面白いです。



綾のーと。

 ある女子大生? がつづるブログを閲覧するという体のエピソード。電子書籍ながら「スマホでブログを読んでいる」雰囲気を疑似的に体験することができます。また、このエピソードで使われているブログはなんと実在する

 一見、いちばん輪郭が捉えづらく、また単純な恐怖度は低い。それでいて電子書籍やインターネットという媒体をもっとも生かしたエピソードでもあり、謎解きの要素が色濃く、5年以上ヒントすらつかめない謎もあるなど今なお読者を苦しめている話でもある。


紙媒体ではやりづらい、電子書籍というメディアを生かした演出

 この電子書籍、単純に「怖い話」としてもとても面白い。さっきも言ったけど「オカ板」「洒落怖」が好きだった人にとってはただ何も考えずに読みすすめるだけでとても面白いと思う。

 ただ、それだけで終わらないのがこの『忌録』のすごいところで……ちょっと話したいことがいろいろあって一度には言えないんだけど、まずは「電子書籍であること生かした構成」に触れたいと思う。私、流しのVTuberになる前は雑誌編集やってたこともあったから(サイボーグも雑誌の編集をしたりすることがある)こういう「物理書籍だとやりにくいこと」されちゃうと舌巻いちゃうんだよね。

 電子書籍って、「手でめくれない」んだよ。疑似的に画面のなかでペラリと本がめくれるようにアニメーションすることはあるけど、実際起こってるのは「スマホやタブレットをタップすると、次の画面が出てくる」ってだけじゃない?

 これってどういうことかと言うと、「読者がページをめくるスピードを制御できない」ってことなんだよね。端末やアプリのあんばいに左右される。で、これをホラーでどう使うかっていうと「いきなり不気味な文章や資料、写真をドン! と見せることが可能になる」ってことなんだよ。これは本当にホラーと相性がいい。読み進めて入れ込みすぎてると、ただ地図や天気図が出てくるだけで不気味にビビってしまうみたいな状態になってくる。これは自分の意志で、やろうと思えば端っこから少しず〜つ少しず〜つめくることもできる物理書籍では、どうしてもできないことなんだよね。読むスピード感をある程度媒体側で制御できちゃうんだよ。

 また、最初の収録作である「みさき」ではさきほど触れた「電子書籍なのでいきなり資料や写真を目の当たりにさせられる」という体験を散々味わわせてくるんだけど、その次のエピソードである「光子菩薩」ではこれを逆手に取った演出も持ち出してくる。Kindleのリンク機能を使って「この次のページ、ちょっとショッキングなこと載ってるかもしれませんけどこのリンクをタップすれば飛ばして次の話読めますよ? どうします?」という選択肢を提示してきやがるんだよ。

 「この次に出てくるものを見て、なにかが読者のあなたに起こっても自己責任ですからね?」と揺さぶりをかけてくる。読者はここで悩む。

 見たい。怖いけど見たい。だけど、見たらなにかあるかもしれん……と疑心暗鬼になる。それに本が誘導してくれているように、リンクをタップすれば安全に次のお話を読み進めることも可能なのだ。

 なんてタチの悪い凶悪なトラップだよ! 著者側からすれば「あーあ逃げ道を作ってあげたのに見ちゃいましたね! 自己責任だよ自己責任!」と責任を回避できてしまう姑息(こそく)な仕掛けとなっているのだ。この外道が!!!!

 このリンク機能は4作品目の「綾のーと。」ではさらに効果的に使われていて、ブログのなかで収録・公開されたYouTubeの動画に、Kindleからダイレクトに飛ぶことができる。本から別のメディアにシームレスに移ることでより効果的な演出を可能にしているってのはすごく面白い試みだ。

 あと、「電子書籍なので文字主体の本でありながら奔放にカラーページを差し込むことができる」っていう良さもある。物理書籍って「折り」の概念があるから野放図にモノクロとカラーを交互に出したりってできないんだよね。まあフルカラーの本なら物理書籍でも可能なことだから、これはそこまで革新的ってわけではないけど「やるなあ」って思ったりした。

 ほかにも「メモ帳の.txtファイルを模しているので印刷のマージンをまったく気にしない、スマホの画面いっぱいまで文字が敷き詰められた、横書きのページ」とかこまかく「ウーン! これは印刷だとなかなかできないな!」という表現があってうなる。


マシーナリーとも子 忌録

 これも好きな演出。これは別にスマホとかならではってわけではないんだけどね。これは「忌避(仮)」の冒頭に示される、フォルダのスクリーンショットと思われる画像。行方不明になったライターの残したフロッピーを読み進むという構成になっているお話なんだけど、漠然と読み進むんじゃなくて最初にこの画面を示すことで「名前順にソートしたファイルを順番に読み進めていく」っていう構成になってるんだよね。面白いなあ。

 ……と、ここで「ン……? 名前順ならなんで最後の写真ファイルはもっと上にいかないんだ?」という違和感に気づいた。マジで執筆中のたったいま気づいたわ。なんで……?

 これも後述するけど、この本の怖いところはこういう「違和感」について「単なるミスか適当に配置しただけでしょう」とは言い切れずに「なんらかの誰かの意図が介在しているのでは?」とゾッとさせられる点。いまゾッとしてます……。


どの語り手も信頼できないことから浮かび上がるアナザーストーリー


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