ミュージアムショップが面白い! 気になるグッズまとめや作り手へのインタビューも充実な同人誌『MUSEUM GOODS PASSPORT』:司書みさきの同人誌レビューノート
「作品に出会ったときの感動を持ち帰る」というすてきな考え方。
先日、照りつける日差しのもとを歩いてイラストの展示会を見に行ってきました。蝉の声を耳にして、アスファルトの照り返しを感じながらなんとか入口にたどりついて、会場で作品の前に立った途端、ふっと暑さを忘れました。作品の力ってすごいですね。そして展示を見て回った後の、グッズのコーナーになると「わっ!」と気持ちが楽しくなって。今回は、そんな美術館や博物館のミュージアムグッズに着目したご本です。
今回紹介する同人誌
『MUSEUM GOODS PASSPORT ミュージアムグッズパスポート』Vol.1 Vol.2 A5 16ページ 表紙・本文カラー
作者:大澤夏美
夏の旅先で出会うのもいいかも! 第1弾は北海道のミュージアムグッズに注目
こちらの同人誌は、美術館の一画で販売されているグッズに着目した内容です。巻頭はミュージアムグッズやショップなどに携わる方のインタビューからスタート。そして世の中にあまたあるグッズからこれは、というグッズの紹介があり、ラストはグッズを作る作家さんにもスポットを当てていらっしゃいます。
Vol.1では作者さんの地元だと言う札幌にゆかりのあるショップ、グッズを中心にされています。例えば巻頭の北海道大学総合博物館のショップ「ぽとろ」は、とってもおしゃれな雰囲気で、本物のアンモナイトから型を取ったというキャンドルアンモナイトもすてき。そしてそんなショップの設立の経緯、学生さんの企画についてなど、ちょっと立ち寄っただけでは分からない、商品の狙いやショップの裏側を読むことができます。背景を知ると、その商品やお店がぐっと身近になりますね。
他にも美術館を中心に文学館や博物館、動物園までを範囲に入れて、さまざまなショップとグッズが紹介されていて、その多様さを知ると、旅先で寄ってみたいな、なんて気分も高まります。美術館や博物館がお出かけの目的になるのはもちろん、そこに併設されているショップもお楽しみの一つに入るなんて、一石二鳥、旅の楽しさ倍増ですね。
インタビューも充実。「作品に出会ったときの感動を持ち帰る」グッズづくり
Vol.2では、全国へと対象を広げてグッズを紹介。またミュージアムグッズの作り手である開永一郎氏(East)にインタビューされていますが、その中の一言にはっとしました。それは、ミュージアムショップ、グッズにおいて大切にしていることは、という問いへの答えで、
(前略)どうしたら作品の良さのほんの一部だけでも持ち帰ることが出来るかとか、どういう方法で作品に出会った時に感じた感動を記憶に留める手伝いができるかとか。その為に、実はとても沢山の工夫をしています”(『MUSEUM GOODS PASSPORT ミュージアムグッズパスポート』Vol.2より)
とありました。作品そのものに敬意をはらうのはもちろん、手にして持ち帰った後にまでその作品の良さを伝えたいという視点に胸を突かれます。
そしてこのように印象に残る言葉がこうして本に残されるまでには、お相手を決め、アポイントを取り、インタビューをしてまとめて……という数々の段階を踏んで形にされた、作者さんのミュージアムグッズへの思いがあり、その情熱がこのご本全体を照らしているのを感じます。
グッズの良さの奥にある、作り手の気持ちに光を当てて
作者さんはミュージアムグッズが好きすぎてコレクションしたグッズは500点を超えるのだとか。大学ではデザインを学び、博物館経営論をベースとしてミュージアムグッズの研究に取り組まれたのだそうです。現在はフリーの愛好家さんとして活動されているそうです。
ミュージアムグッズが好き、ミュージアムショップって面白いですよね! という作者さんの声があふれるようなご本ですが、ただの商品紹介にとどまらず、「なぜこのグッズはこんなにすてきなのか」「手にとってみたくなる魅力はどこにあるの?」と一歩踏み込んで、作り手の気持ちにまで目を配っているのが、読み手の私もぐぐっと楽しい世界の内側にひっぱられるみたいです。
全ページカラー、とってもきれいな写真も豊富、そして程良い厚みで手触りのいい紙に印刷されていて、読みながらページに触れる指先すらもちょっと心浮き立つような。そんな細やかな部分にまで気を配られたご本、それはミュージアムグッズが作品の感動を持ちかえる宝物のかけらだとしたら、このご本は宝へと誘う旅先案内人ですね。
すてきな作品と、すてきなグッズに出会える旅へと、パスポートを握って、みなさま良き夏の休暇をお過ごしください!
サークル情報
サークル名:百物気
Webサイト:http://momonoke.wpblog.jp/
Twitter:@momonokeMuseum
Instagram:@momonoke
現在入手できる場所:ネットショップ、北海道大学総合博物館内ミュージアムショップ ぽとろ(現地での販売のみ)
次回イベント参加予定:「NEVER MIND THE BOOKS 2019」2019年9月1日(日)さっぽろテレビ塔2F
今週の余談
みなさま、夏を満喫されてらっしゃるでしょうか。夏の大型イベント真っ最中! という方も多いでしょうか。手に入れたお宝を、おうちでのんびり眺める至福のひとときを目指して、暑さに負けずに過ごしたいですね!
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 遺跡発掘のボランティア体験を同人誌に 貴重な発見の様子も収めた『2度目のキルギス!遺跡発掘編』
写真とマンガでまとめています。 - 「10年後には朽ちるものを100年後に延ばす」 博物館の裏方描いた漫画が驚きの連続
『ただいま収蔵品整理中!Vol.1』『ただいま収蔵品整理中!金属保存編』をご紹介。 - アフリカで初音ミクのライブをやってみた 一人の教師が実現させた異国の”ミクライブ”
今回は初音ミク愛にあふれた『Miku in Africa』をご紹介。 - 決してひと事ではない? 同人誌『夜10時カギを忘れて家に入れず初めてカプセルホテルに泊まった話』
忘れたと確信したときのドキドキ感……。 - 全国各地の“恐竜像”を1冊に 220カ所ものスポットを紹介した「日本全国恐竜公園ガイド」にワクワクする
そんなところにもいるの!? - こんなの待ってた! アメコミの効果音を集めた辞書がマニアックすぎて心くすぐる
今週はサークル「FANDOMAIN」さんの同人誌「アメリカンコミックス効果音辞典 スーパーヒーロー誕生から70年代まで」をご紹介。 - 国体初のマスコット”未来くん”を小説に 同人誌『古都こと奇譚』は京都を舞台にしたキャラクターたちの物語
皆さんの町にも、人気を博したキャラクターがきっといるはず。 - 炎の揺らめきと溶けた金属 職人自ら撮影した鋳物製造の写真集『滴る金属』
こだわりが詰まってる。 - “お江戸のコミック”を現代語訳 同人誌『黄表紙のぞき』が江戸文化の扉を開く
難易度の高かった「くずし字」を読みやすく。 - これまで撮った「片手袋」の写真は4000枚超 築地に通って約20年、“片手袋研究家”による同人誌が奥深い
趣味、ここに極まれり。 - 理学部生だったあの頃の自分に伝えたい 作者の後悔から生まれた同人誌『理学部生を手伝うイモリ』
イラストはかわいいけど中身はマジ。 - “テレポートするナメクジ”を追った5年間 調査の内容をまとめたレポマンガに興奮を隠せない
104ページという力作。