なぜ「キン肉マン マッスルタッグマッチ」は対戦ゲームにおける極めて重大なマイルストーンなのか?:今日書きたいことはこれくらい
ビデオゲーム業界に「キャラ性能差」を持ち込んだのは誰だったのか、という話。
突然で申し訳ないんですが、初代の「ストリートファイターII」で、ザンギエフを使ってダルシムと対戦したことってありますか? あるいは、ザンギエフを使ってガイルと対戦したことは?
ご存じの通り、多くの対戦格闘ゲームには「キャラ差」というものがあります。使用するキャラクターには明確な性能差があって、程度の差こそあれ「強い」キャラもいれば「弱い」キャラもいます。そして、「弱い」キャラで「強い」キャラに立ち向かうためには、並々ならぬ努力と研究が必要とされます。
初代「ストリートファイターII」で言うと、前述のザンギエフは基本的に「弱い」キャラクターとして扱われています。後々研究によって改善された部分もあるものの、動きは遅い、突進技はない、飛び道具はないで、砲台キャラに近づくためには並々ならぬ苦労が必要でした。
当初「終わっている」組み合わせとして取り沙汰されていたのは、主にザンギエフ対ガイルでした。必死に近づいてスクリューを狙うザンギを一生ソニックとサマソで落とし続けるガイル、という光景はどの対戦台でも日常的に見られたもので、ある種のお約束展開、パンをくわえて走る少女が曲がり角で運命の人に衝突するようなものでした。
その後、さまざまな研究によってこの組み合わせは多少マシになったのですが、ザンギエフ対ダルシムの方が実ははるかにキツい、ということがもう少し後になって判明することになります。当時のザンギエフ使いの努力、苦労、そして創意工夫と叡知は、千年の歴史に残すべき結晶だと思います。
「わざわざ弱キャラを使わなければいいじゃん」と思いますか? 「お金を出してゲームするのに、弱いキャラでわざわざ苦労して何が楽しいの?」と感じるでしょうか? なるほど、その通り。全くその通りです。あなたは正しい。何も間違っていない。
けれど、あれは熱かった。誰が何と言おうと絶対に、間違いなく、熱かったんです。
「公平でない」からこその熱さ
「公平でないからこそ熱い」という面白さがありました。弱キャラを研究して強キャラに対抗させるやりがいがありました。努力の果てに弱キャラで強キャラを打ち倒す、途方もない達成感がありました。一方、強キャラに逆に徹底的に突き放される絶望感もありました。いろんな研究によって自キャラの強さが変動する一喜一憂がありました。
そして、強キャラだろうが弱キャラだろうが関係なく、自分の使用するキャラに対する強い、強い思い入れがありました。「俺は〇〇使いなんだ」というプライドがあったんです。
「キャラクター間の性能差」というものが対戦格闘ゲームに持ち込んだ幅というものは途方もなく広く、それは「公平な対戦」という考え方からは決して生まれなかった「遊びの幅」でした。もちろん、それこそストIIのザンギvsダルシムのように、あまりに性能差が大きければ批判も出ますが、それはあくまでバランス調整の裡の話であって、多少の有利不利はあった方が絶対に「遊びが広い」のです。
対戦格闘ゲームブーム以前の「対戦ゲーム」「対戦もできるゲーム」は、その多くが「公平に遊べるように」という理念で作られていました。アーバンチャンピオンしかり。ぷよぷよ、しかり。マリオブラザーズ、しかり。ウォーロイド、しかり。
もちろん、これらのタイトルは名作ばかりです。そこに間違いはありません。
一方、ビデオゲーム業界に「キャラ性能差」を持ち込んだのは、一体誰だったのでしょうか? 公平さをぶっ飛ばして、「どのキャラを選んだかによって明確な有利不利が発生する対戦ゲーム」を作ったのは、一体誰だったのでしょう?
そろそろ「この記事のどこがキン肉マンマッスルタッグマッチの記事なんだ?」と疑問に思う方が増えるでしょうから、言ってしまいます。
私は、この「キャラクターの性能差」という要素のルーツが、ファミコンの「キン肉マン マッスルタッグマッチ」にあると考えています。
「キャラ差があることによって発生する遊び」のルーツは「キン肉マン」である
「キン肉マン マッスルタッグマッチ」。1985年、バンダイより発売。ジャンプの格闘漫画の金字塔、『キン肉マン』をゲーム化したキャラゲーでして、プレイヤーは8人のキャラクターの中から2人を選び、タッグを組んでCPUと、あるいはファミコン友達と戦うことになります。
登場するキャラクターはもちろんキン肉マンにおける「超人」であって、それぞれ特徴も違えば、使える「必殺技」も違います。
そう、このゲームには「必殺技」があるのです。リング上部、あるいは下部から、ミートくんが投げてくれる「光の玉」をとると、一定時間キャラクターのスピードがアップし、キャラ固有の必殺技を使うことが出来ます。
キン肉マンがキン肉バスターで、アシュラマンは阿修羅バスター。ラーメンマンは空手殺法で、ロビンマスクは当然のタワーブリッジ、ウォーズマンはベアークロー、バッファローマンはハリケーンミキサー。
テリーマンはカーフブランディングかと思いきや実はブルドッキングヘッドロックで、ブロッケンJr.はJrなのになぜか毒ガス殺法でした。この辺は微妙な突っ込みどころです。
そもそもの前提として、マッスルタッグマッチというゲームはシンプルに面白かったんです。パンチやキック、バックドロップといった技の掛け合い、それによる体力の削り合い、ピンチになった時のタッグパートナーとのタッチの要素。
光の玉の奪い合いによる駆け引き、位置関係。ピンチの時の立ち回り、チャンスの時の立ち回り。対戦アクションゲームとしてのマッスルタッグマッチはまさしく「名作」でして、当時このゲームに夢中になったファミっ子はそれこそ無数にいたはずです。
が、それだけの話ではありません。
前述しましたが、このゲームは恐らく、対戦ゲームにおける「キャラ差」および、「キャラ差があることによって発生する遊び」のルーツです。
少なくとも家庭用ゲームおよびアーケードゲームにおいては、「8人のキャラクターから自キャラを選択」し、「キャラクター同士に明確な性能差」がある「対戦ゲーム」というのは、マッスルタッグマッチ以前に一作もないはずです。PCゲーム、同人ゲームにおいて観測できていないタイトルがある可能性は否定できないので、もし存在したら教えていただきたいんですが。
超人の性能差は非常に明確で、足が遅いキャラもいれば足が速いキャラもおり、パンチ力が高いキャラもいればキック力が高いキャラもいました。
そして、遠い未来に「ストII」で起こるような、「キャラの性能差に基づく研究」や「キャラの相性差の変動」も、実はこのころから既に発生していました。
ゲーム発売当初、ファミっ子たちの間で「強キャラ」として認識されたのはブロッケンJr.でした。ブロッケンJr.の毒ガス殺法は、ゲーム中唯一の飛び道具であって、一度当たってしまえば連続ダウンがとられる強力な攻撃です。
当初、ブロッケンJr.をどちらが先に選択するか、ブロッケンJr.禁止などというローカルルールも存在したはずで、これはストII隆盛の折、「ガイル禁止」と筐体に張ったゲーセンがあったという伝説に近いです。今でも、「ブロッケンJr.最強」という認識のまま、このゲームへの印象が上書きされていない人も多くいるはずです。
ところがその後研究が進み、ブロッケンJr.の足の遅さが決定的な弱点として認識されるようになりました。ブロッケンJr.が性能を発揮するためには光の玉を取らないといけないのですが、足が速く立ち回りが強いキャラが相手だと、そもそも光の玉を取らせてもらえないのです。
そこで、足が速くブロッケンJr.に有利に立ち回れるキャラとして、ウォーズマン・アシュラマンの性能がクローズアップされていきます。
特にウォーズマンについては、キック力は弱いものの「ベアークローを一発当てればそのままハメることができる」という要素もあり、対戦において猛威を振るうようになりました。同じ理由でバッファローマンの「ツボにはまった時の強烈さ」も認知されていきます。
アシュラマンは、必殺技こそやや使いづらいものの、スピードやキック力がバランス良く高性能で、通常時の立ち回りで多くのキャラを圧倒できました。
一方、ブロッケンJr.と同じく足が遅いものの、テリーマンの必殺技が実はベアークローだろうがハリケーンミキサーだろうがお構いなしに撃墜する鬼性能であることや、ラーメンマンのキック力、ロビンマスクのバックドロップの強さなどもだんだんと知られるようになり、対戦時の相性差は目まぐるしく変動していきました。
こんな中、終始一貫して不動の弱キャラであり続けたのが主人公であるキン肉マンであって、キン肉ドライバーを決めて起き上がりを攻める以外に勝ち筋がほぼないのに、足が遅すぎて光の玉を取れる可能性がほとんどないという残念性能でした。
ただ、そんな中でも、原作通りキン肉マンを使って必死にウォーズマンに立ち向かう、熱いファミっ子も存在しました。私もその一人であって、キン肉ドライバーを決めた時のあまりの爽快感に完全に魅せられてしまっていたのです。
「逆転と超克」のドラマを見事に描いた「マッスルタッグマッチ」
これら全て、本当にこれら全てが、1985年から1986年にかけて、私のすぐ眼前で起こった一部始終でした。「どのキャラクターを選んだかによって有利不利がある」という、そのたった一事が、「キン肉マンマッスルタッグマッチ」というゲームを不朽の名作にし、そして遠く対戦格闘ゲームのルーツの一端としたのです。
原作『キン肉マン』をお読みの方はご存じだと思いますが、『キン肉マン』という漫画は、まさに「逆転と超克」の物語です。
ダメ超人と罵られるキン肉マンが、追い詰められ追い詰められ、最後の最後に大逆転する。それこそキン肉マンであり、そこにこそ熱狂が生まれる。「逆転と超克」は、『キン肉マン』のあらゆる展開の中に刻み込まれています。
そういう意味で、明確に「キャラの立ち位置の差」があり、一方光の玉によるパワーアップという要素でいついかなる時でも逆転が可能なゲームとして仕上がっているマッスルタッグマッチは、確かに『キン肉マン』という漫画のゲーム化として理想的な到達点の一つである、と。
今の私はそんな風に考えている訳なのです。
最後に、私の書きたいことをまとめておきます。
- 対戦ゲームにおける「キャラクターの性能差」は、面白さのための重要なスパイス
- キャラクター性能は公平であればいいというわけでもない
- ビデオゲームにおける「キャラ差」のルーツは多分マッスルタッグマッチだと思う
- マッスルタッグマッチ超面白いですよね
- マッスルタッグマッチにおける最強キャラは多分ウォーズマン
- ところでキン肉マンは今でも連載中だし38巻以降の新シリーズ死ぬほど面白いので読んでくださいお願いしますこの通りです
- ザ・マンVS悪魔将軍の最終戦が熱すぎて死ぬ
以上です。完璧超人始祖編マッッッッッッッッジ超熱いから皆読んでください。マジで。38巻からが旧シリーズからの続編になります。
末筆になりましたが、最後に一言だけ自己紹介させてください。初めてねとらぼ様に寄稿させていただく、しんざき(@shinzaki)というのが私のハンドルネームです。「ダライアス外伝」をこよなく愛するケーナ吹きで、不倒城というブログで15年くらいしょーもないことを書き続けています。認知いただけると幸い。
今日書きたいことはこれくらいです。
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