毎秒死にそう……。
不思議ですが、「アナと雪の女王2」制作の裏側にある幾つかの冒険について聞いたとき、こんな気持ちがぴったりだと思いました。ディレクターのクリス・バックが明かしたのは、自身とその他6人のハイレベルなディズニーのクリエイターたちが洞窟に降りたり、氷河を歩いて横断したり、火山の端を歩くなどしたアイスランド、ノルウェー、フィンランドへの調査旅行についてでした。
プリンセス映画を作るための施策としては普通ではないですが、この冒険に同行したチーフクリエイティブオフィサーのジェニファー・リーによると、今回はいろいろと手を尽くしてまわることが必要だったようです。
ジェニファーはカリフォルニア州バーバンクにあるウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオに集められた記者たちを前に、「今回の旅は、ただ世界中で視覚的な刺激を受けるだけではない、別の何かだった」と語っています。「ただ24時間その環境に浸るだけで、私たちの想像力はとても刺激されたのです。そして旅行中にストーリーのアイデアもたくさん展開していきました」。
ロードトリップに疲れた身内同士のように、クリスとジェニファーは2016年に行った船旅の写真をシェアするのにとても興奮していて、底抜けの熱意でおのおの披露していきました。
例えば、魅惑的な秋の森林をインスパイアした葉。予告編でみられる、エルサの心をかき乱す苦境の原因となる暗い海。インスピレーションを与えてくれる山積みの岩の隣にはさらにインスピレーションを与えてくれる木々。なお、後に判明しますが、岩は木と違って劇中で知覚を持つようになります。
「しばらくはこれ、見なかったんです」――ジェニファーは旅行動画のまとめが陰うつな雰囲気になってくると笑いました。「ちょっと感情的になってしまいましたね」。
旅行中、クリスとジェニファーは歴史家、地域文化の専門家、植物学者とも相談しました。家では、スカンジナビアと北欧の神話をたどり、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの作品を細かく調べ、最愛の「アナと雪の女王」のキャラクターたちの未来について思いをはせました。
制作の初期段階では、クリスとジェニファー2人とも、インスピレーションを得るためにキャラクター――ジェニファーはアナとエルサ、クリスはクリストフ――になりきったロールプレイングの心理テストを受けたともいいます。「クリスは私よりももっと長い時間やっていたし、私は2つのキャラクターをやったんですよ!」とジェニファーは回顧しています。
その後のプレゼンテーションでは、クリスとジェニファーのビジョンを形にするアニメーターやデザイナー、ミュージシャンが、舞台裏の悪ふざけで記者たちを楽しませました。
風のキャラクターをアニメ化するのに不可欠な屋内スカイダイビングや、馬の形をした水の精を描くのに必要な乗馬クラブ訪問、最後はエルサとアナの正しい呼吸法を習得するのに必須なstudio-wideのボーカル・レッスン。
「息を吸って吐くこと、それで全てが少しだけ大きく感じられます」――アニメーション監督のジャスティン・スクラーは、背を伸ばして椅子に座り、適切な歌唱法を実演しながらこう話します。「僕たちにとって、呼吸は努力を示し、努力は真剣さを感じさせるものです」。彼が言うように、努力は「不可能な何かが起こるようなアイデアを受け入れさせる」手助けとなるのです。
ジャスティンが言及していたビデオクリップでは、エルサがアレンデールを永遠に変えることができるミステリアスな精神を呼び起こします。ジャスティンとその他のディズニーチームがやっているのはこれと同じことで、スタジオの歴史で最も成功したプロジェクトの1つに続編を付け加えてようとしているのです。これは、「アナと雪の女王」とその続編の魔法を台無しにするあからさまな営利主義の目を覚まさせるほどに、強力なアクションでした。
少なくとも、誰もが恐れていることのようでした。
ディズニーのオフィスには、「アナと雪の女王2」公開が間近であるという兆候がいたるところでみられます。元気いっぱいにその兆候を望んでるようなアナとエルサの石こう彫刻。吹き抜けに座るオラフの等身大フィギュア。クリストフとスヴェンの壁画はスタッフのカフェテリアを牛耳っています。
さらに、ロビーに向かうと魅惑の森にいるアナとエルサの実物大写真があり、何百もの手書きの葉が付いた樹木でいっぱい。その前でポーズを取る順番が来たときには、思わず泣きそうになってしまいました。
プロデューサーでプロダクションのシニア・バイス・プレジデントを務めるピーター・デル・ヴェッチョは、ディズニーが続編をあまり作らないことをマスコミに喚起させます。
「ディズニーのアニメではフィルムメーカー自身がアイデアとそれを伝えたいという望みを持たない限り続編は作りません」と到着後に用意されていたプレゼンテーション動画で述べたピーター。「だからこそ、『アナと雪の女王2』は私たちにとって58番目のアニメではありますが、続編としてはわずか4番目に過ぎないのです」。
信じがたいことですが、今のところ、「ビアンカの大冒険 ゴールデン・イーグルを救え!」(1990年)、「ファンタジア2000」(2000年)、「シュガー・ラッシュ:オンライン」(2018年)だけが、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオから出た正当な続編です。同じクリエイティブトリックを2回やってしまうことは周知のとおり厄介なものですし、不可能な場合だってあります。“続編”という単語は「たぶん良くない」と同義でしたし、“パート2”は「期待値を低く設定」するコードでした。
多くのディズニー関係者、クリエイターや広報が「アナと雪の女王2」と口にするのを避けているように見えるのはこうした理由です。代わりに用いられるのは「アナと雪の女王」を受け継いだ“続き”とか“探求”とか“次章”といった単語です。
もちろん彼らは「アナと雪の女王」から距離を取りたいわけではありません。すさまじい成功によって興行収入は12億7000万ドルとなりましたし、神はマーチャンダイジング(グッズ化など)による売り上げがさらにどれだけのものになるかを知っています。言うまでもなく古典的な手法ですから。
しかし厄介な「2」問題はトラブルをもたらすかもしれないという認識はあるようです。大きくて、販売権が今にも壊れてしまいそうなトラブルが。
不安を払うために、ジェニファーは映画を自身や観客ではなく、オラフの目を通して見ようとしたといいます。作品の象徴的な雪だるまであるオラフは、印象的なボキャブラリーを持った3歳の子どもを描いたキャラクターなのだとか。
「私は、子どもたちが問題の核心を真っすぐ切り取る不思議なやり方が大好きです。それに彼らは、あなたが考えもしなかったり許容できなかったりするような事柄を明らかにして、さらしてしまうんです」とジェニファー。「私たちは作品やキャラクターの時代精神について考えるのではなく、立ち戻って再生する必要があったんです。オラフならどう感じて、何と言うかなって」。
ジェニファーは大きな喜びとともに、自己の認識を注意深く見つめていきます。それが、彼女が最良の手を尽くしているということなのか、それともただオスカーを手にして自信たっぷりに歩きまわっているようなものなのか、簡単には言えません。いずれにせよ彼女は自身のプロジェクトを、オラフのひんやりした小さな手にゆだねることに満足しているようです。
私たちが出会ったたくさんのクリエイターたちと同じように、彼女もまたこの物語に心から興奮していました。
舞台美術のプレゼンテーションで、環境部門はバーチャルリアリティーテクノロジーを使って彼らの作った王国を「物理的に」歩くことができる機会について夢中でしゃべっていました。道すがら、アレンデールを交差す彫像を指し示すこともありました。その彫刻は仲間のデザイナーたちをモデルにしたそうで、モデルになった内の1人は、環境部門のアートディレクターであるデビッド・ウォマーズリーです。
「こんなことしてるって知らなかった」と笑うデビッド。「これで僕は不滅になりましたね」。
アナとエルサの制作についてまじまじと見ている間、アーティストたちは、エルサの呪文を唱えるスタイルに舞踏家で振付師の故・マーサ・グラハムによるインスピレーションがあったこと、「アナと雪の女王2」でのアナのお古の衣装の特質について議論していました(紫色のケープとドレスの組み合わせはもともとエルサにデザインされたもの。最終的にはもう少し雪の女王にふさわしく、威厳があって氷をイメージしたものが良いと変更されました)。
続編の新キャラクターを披露するとき、デザイナーはそれぞれ、初めての親がよくそうなるよう有頂天となりました。何百時間もサンショウウオを眺めている女性さえもが――「アナと雪の女王2」では愛らしいサンショウウオが登場する――瞬時に準備できているみたいでした。
(彼の名前はブルーニ。すごくかわいいんです。ディズニーは写真はくれませんでしたけど、スケッチは手に入れましたよ)。
ここに記した内容は全て劇中で見られそうです。保証はできませんが、情報は信頼できる筋から得たものなので。クリエイターたちは約束を守るために一生懸命頑張るもの。もうひとつの心温まる最高傑作が、いてつく北部からやってきます。
「アナと雪の女王2」は11月22日に日米同時公開です。
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