宝くじのイラストに注目してみませんか? ハズレくじだってお宝だ、新たな価値に気付かされる同人誌『たぬきくじ』:司書みさきの同人誌レビューノート
きっかけは父から譲り受けたハズレくじでした。
もうすっかり秋ですね。歩いているとふわっとお花の匂いがしてきました。頭の上からも? と思って見上げたら、背の高いキンモクセイの木が花盛りでした。花の香りが降るような気がします。夜更け、空を見たらぽっかり月が出ていました。さて、今回は一緒にお月見をしそうな(?)タイトルの同人誌です。
今回紹介する同人誌
『たぬきくじ』 A5 24ページ 表紙・本文カラー
作者:ほうこ
たぬきにしてたぬきにあらず。たぬきくじとは?
たぬきくじとはハズレのくじを指し、本物のたぬきとは関係ありません。ハズレくじを「空(から)くじ」と呼ぶことから転じ、宝くじから「た」を抜いたくじ→「た」ぬきくじ→たぬきくじ……といわれるようになりました。その言葉遊びから生まれた語は、ちょっとしたユーモアを交える温かみと、たぬきのほんわかしたイメージと重なって、ハズレくじをただの残念な紙にしてしまわず、なんだか憎めない印象にしている気がします。
このご本には、そんなたぬきくじの昭和50年代(1975年〜1984年)のものを中心に、国内で発売されたもの、およそ40種類の実物写真が載っています。取り上げられているのはどれも図柄が大きく印刷されたタイプで、やさしい童画もあれば、大人っぽい美女もおり、各地方の風景画、動植物、名所などなど、宝くじにさまざまな絵が使われてきた、その多様性にまずは驚きです。
古すぎず新しすぎずのちょっとレトロ感がたまらない絵柄がぞくぞくと
いまではおなじみの“ジャンボ宝くじ”の名称が使われた第151回全国自治宝くじ(1979年)の、空に浮かぶ極彩色の数字の中でキューピッドが矢をかまえる様子は、なるほど、大きな夢を射止めたい雰囲気にぴったりです。また、東京都宝くじで東京の名所が描かれたシリーズには、東京都北区の飛鳥山公園の今はなき回転式展望台が描かれており、時代の流れも感じます。
今からおよそ40年ほど前の宝くじは、印刷の具合からか、どことなく色合いがやわらかになっていて、それがなんともレトロでかわいいんです。ものすごく古くもなく、かといってぴかぴかの最新でもない……その絶妙な「ちょっと前のレトロ感」が、たぬきくじのほんわか雰囲気と合致してます!
掲載された宝くじには、いつ、何の宝くじかに加え、作者やモチーフとなった場所などの情報が添えられています。さらに宝くじの歴史や、複数枚で1シート扱いの宝くじがあったことなどの短いコラムも一緒に載っており、「どうしてこの絵柄なのかしら?」と眺めながら、もわもわと想像が膨らみます。
やわらかな紙のご本をゆっくりとめくると、色鮮やかな図柄がさまざまに楽しめ、宝くじの形に合わせたような横長の装丁になっているのもうれしいです。
父との思い出を並べればハズレくじもまた楽し
実はこのコレクション、ご自身で購入されたものではなく、作者さんのお父さまから譲られたものとのこと。熱心な宝くじファンだったお父さま。それ故にハズレくじもたくさん……それを処分しようとしたときに、切手収集や絵画鑑賞が趣味になっていた10代の作者さんに譲られたものだそうです。
当たりを目指して購入している人には、外れてしまえばただの紙くずのハズレくじ。それなのに、ハズレくじを並べるという着目点の鋭さと、あらためてご自身で宝くじについて調べ、分類、整理してコツコツと仕上げた作者さんの力で、当たらなくてもこんなに楽しめるなんてすごい! という、なんともお得な気分になれる、そのギャップも楽しいです。
ご家族との思い出を同人誌に生かされたエピソードもほのぼの、レトロ感もほんわかと……けれど実は買い続けた亡きお父さまと作者さんの時を超えた共同作業で、ほんわかだけではなく、ぐぐっと魅力的に作られたご本です。
サークル情報
サークル名:見学日和
Twitter:@kengakubiyori
次回イベント参加予定:
11月3日、4日:路上探検者たちによる展示即売会“路上探検フェス(路探祭)”(湘南モノレール湘南江の島駅で開催)
11月24日:コミティア130
いずれも、サークル名「美か和団地自治会」で参加
今週の余談
各地で水や風の被害が大変なことになっています。備えをしていてもそれを越えていく自然の力にただただ驚くばかりです……。各地が早く復旧するよう願っています。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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104ページという力作。