これは興味深い数字だ 同人誌『オタクのメガネ率、調べてみた。』が導き出すイメージの先のリアル:司書みさきの同人誌レビューノート
確かに気になるけど、実際に調べた人がいたとは。
街にクリスマスツリーが突如として出現し、思わず目を見張りました。イルミネーションや、てっぺんに取り付けられた星のきらびやかさももちろんなのですが、とにかく「えっ、もうそんな時期!?」とおののきすら感じる季節の速さです。いつもそこにあるはずの街路樹なのに、飾り付けられて初めてはっとする……今回は、対象への見え方が変わるかも? な、街ゆく人々を調査した同人誌です。
今回紹介する同人誌
『オタクのメガネ率、調べてみた。』 A5 20ページ 表紙・本文カラー
作者:編集・栗野、イラスト・井ノ沢
メガネ率を調べに街へ
オタクとメガネはなぜか結びつけられやすいイメージ……そうなの? それって本当のところはどうなのか? そう思った作者さんは早速街に出てみます。
調査方法は特定の場所を設定し、そこを通行する男女500人、計1000人を街角に立った作者さんご自身がカウントしていく方式。レンズに色がない、または目が認識できる色の薄いレンズをメガネとし、サングラスは含まれません。
さらにこのご本では特定場所を「オタクカテゴリ」と「一般カテゴリ」に分けてその比較を行っています。例えば「オタクカテゴリ」の場所はアニメイト秋葉原店や中野ブロードウェイといった街角や、コミックマーケット、ニコニコ超会議などのイベント開催地を選択。対して「一般カテゴリ」は新宿駅南口、渋谷センター街、表参道ヒルズなどが選ばれています。
イメージはどこからやってくる? 数字と向き合い、リアルと向き合う
こうして調べた結果をオタクのメガネ率として掲載されており、そこからさまざまなランキング、比較が展開されます。例えば「オタクエリアの駅と店舗エリア」では、秋葉原駅前とアニメイト秋葉原店を比較。また場所や性別も分けて分析されていて、結果、調査した中でメガネをかけていた人が最も多かったのは同人誌即売会コミティア127の男性で、その割合は約55%、という結果も掲載されています。
タイトルにもなっているオタクのメガネ率について、作者さんは「なんか思ったほどオタクのメガネ率は高くなかった」と結論を述べていらっしゃいます。「オタクカテゴリ」のエリア最高値でもメガネ率が50%を超えたのは上記の1回だけ。それでも世の中のメガネ率と比較すると高い数値ですが、作者さんは「オタクは半分くらいメガネをかけていると思っていた」とご自身のイメージとのギャップをかみしめます。
掲載された数値と対峙(たいじ)するうちに私のなかにも「あっそうなんだ」と何度も驚きが生まれました。タイトルを見たときから知らず知らず「○%くらいかな?」と予測をしていた、脳内のイメージが覆される面白さを体感します。それは自分の中に作っていた勝手な印象とデータを突き合わせることで発生し、さらにもう一歩踏み込んで「オタクカテゴリ」の場所ってどこかなぁと、人だけでなく街の姿をも考え始めていました。そんなとき各ページには作者さんのコメントが添えられているので、自分のイメージと数値、そして作者さんの気持ちを比べてみることで、「イメージしていたもの」と「ギャップ」について思いをはせることができます。
「完全に思いつきから」……だけど継続力と行動力が光る!
そもそもご本を作るきっかけは、なんとイラスト担当の方となにかしたくて、とにかく「夏コミの評論ジャンルに出る」という目標だけ先に決めたとのこと。そしてこのユニークなテーマは「その時の思いつき」だったそうです。けれど、そのために冬場から街角でカウントし続け、同人誌を作っていかれた……継続力が抜群です!
今回の記事では、オタクのメガネ率そのものの数値だけは作者さんのご希望で伏せています。その心は「自分の足でどこかに出向き、そして出会い、面白さを感じていただきたい」と思っていらっしゃるから。またご本では「悪意でテーマを取り上げたわけでなく思い込みがあることを知ってほしかった」と記されています。ご自身の頭に浮かんだ思い付きを、ただの思い付きで流さずに、自分の足で調べられた行動力の力強さに感嘆するとともに、きっとその体験は作者さんにとってとても面白いものだったのではないかと感じました。このテーマを知って「周りではどうだろう?」「本当にそうかな?」と街を見回す楽しさを知ってほしい!と願っていらっしゃるように思います。
私としては、データを開示し、そこから次の展開へと発展する可能性も見たく、ぜひご本やデータにアクセスできる環境が続くことを切に希望しつつ、自分でも顔を上げてちょっとカウントしてみようかな? と思ってご本を閉じました。
今週の余談
先日、図書館界隈(かいわい)の大きな展示会がありました。最新の設備や道具を見るまたとない機会で、わくわくの会でした。図書館の道具たちも進歩していっているのです。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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