カイジが帰ってくる――1996年に『ヤングマガジン』で連載が始まった『賭博黙示録カイジ』。借金にまみれ、底辺で生きるダメ人間を藤原竜也さんが演じる実写映画最新作にして最終回「カイジ ファイナルゲーム」が1月10日に公開されます。
9年ぶりの新作は、原作者の福本伸行さんによる完全オリジナルストーリー。国を挙げて盛大に開かれた東京オリンピックの終了を機に景気が急速に失速した2020年の日本を舞台に、原作にない4つのオリジナルゲームがまたしてもカイジを待ち受けます。
今作では、影の総理とも呼ばれる首相首席秘書官役に福士蒼汰さん、大富豪の秘書役で新田真剣佑さん、カイジに協力するヒロインに関水渚さん、そして、カイジが所属する派遣会社の社長で“日本の派遣王”とも呼ばれる黒崎義裕役に吉田鋼太郎さんをキャスティング。
藤原さん演じるカイジとの手に汗握る対決にも注目ですが、気になるのは“ファイナル”の文字。これで本当に終わりなのかとざわ……ざわ……しながら、福本さんに今作について聞く機会を得ました。何という僥倖っ……!
―― 前作「カイジ2」のとき、3があるなら全く違うストーリーを用意した方がよいかもとおっしゃっていましたが、本当に完全オリジナルストーリーになりましたね。
福本 そんなこと言いましたっけ(笑)。多分、そのときは「原作に引き出しはもうない」と感じたんでしょう。(『賭博堕天録カイジ』に登場する)17歩は麻雀を知らない人も多いし、あのころはまだワン・ポーカーもなかったので。
―― 脚本はかなり前に完成していたそうですが。
福本 ええ、ぶっちゃけると、もっと早く映画化する予定でした。だから、脚本に取り掛かった当時は東京オリンピック前の東京をイメージしていたんです。それが2018年の春くらいかな、本格的に脚本を詰めていく段階になって、さすがに「東京オリンピック後の物語だよね」と。
―― オリンピック前か後かはともかく、どんな状況を前提にしたかったんですか?
福本 “不況”。不況でないとこの物語は始まらないので。最初はオリンピック前に不況となり、日本がオリンピックを返還する……みたいなことを考えていましたが、いまさらそういう状況でもないなと(笑)。
―― 過去2作でもメガホンをとった佐藤東弥監督は今作について、「国家と個人」という裏テーマ的なニュアンスで語っていました。
福本 かつて実際にあった預金封鎖のように、国家がいよいよやばくなってきたときの状況を物語に入れたい気持ちは昔からありました。すごく嫌な金持ちがいるからやっつけたい、という単なる個人と個人の戦いでなく、社会のゆがみを一個人のカイジが正すというか、軌道修正する。お花畑的な話かもしれないけれど、圧倒的すぎる国家に個人があらがう物語っていいじゃないですか。
―― 劇中、カイジが社会のゆがみに立ち上がるのはある種、革命前夜的な匂いすら感じました。
福本 そうかもしれませんね。平和で、これといった問題もなければ立ち上がる必要もない。でも、切迫した時代になると立ち上がらざるを得ないというか……。
―― ところで、今作には「バベルの塔」「最後の審判〜人間秤〜」「ドリームジャンプ」「ゴールドジャンケン」という4つのオリジナルゲームが登場します。
福本 ギャンブルとギャンブルで話をつないでいくストーリーの中で中心のギャンブルはどれかと考えると、多分「最後の審判」で、これは映像で表現するのが難しいだろうとは思っていました。あと、ゴールドジャンケンは始まりと終わりを結ぶ「締め」のギャンブルとして重要。言い換えると、バベルの塔やドリームジャンプは当てはめで、別のゲームでもよかったわけですが、映画として「動き」も欲しいし、かつ、単純なモノ、もろもろ複合的に考えました。
―― ゴールドジャンケンは限定じゃんけんのオマージュというか、シリーズのDNAを意識したのかなと思いました。
福本 ジャンケンはカイジにとって、十字架みたいなゲームですし、お客さんはそれを望んでいるのかなという感覚が、僕の中にもあって。でもゴールドジャンケンは勝ち方が結構難しくて、故に特殊なルールになってしまいました。
―― そうしないと困るケースがありますよね。「最後の審判」は美術総予算の7割をベッドし、全撮影日数の3分の1を掛ける考えで臨んだなんて話も聞きます。
福本 最後の審判からのたたみかけるような展開は突っ走っている感じがあっていいですよね。でも、「最後の審判」はもうギャンブルではないんじゃないか(笑)。要はどっちが金を引っ張れるかというもので、いわば人間力が試されるので。ただ、あれがどう面白くなるかは、人の気持ちなどの要素が重要で、監督は苦労されたことでしょう。
―― 漫画でも数々の魅力的なゲームを生み出してきた福本さんが、今作のゲームをどう発想されたのか、その過程にも興味があります。
福本 どんなことでもゲームになると思うんです。例えばゴミ箱があってそこにティッシュを投げ入れる。そんなのでも金がかかったら痺れるでしょ? で、となると、例えば何か重みのあるものをティッシュで包んで、コントロールをよくするとか……いろいろ策略が生まれる。
例えば、今話したティッシュ投げなら、1回投げたら部屋を一度出なければならないとしましょうか。また部屋に入ると、さっきと全く同じ部屋だけど、実はわずかに縮小されていて、さっきの感覚で投げたら入らなくなるとか。ともかく、いろいろそのゲームを面白くする工夫、攻略法を考えるわけです(笑)。
―― ところで、藤原さんは「カイジでは一般的なレベルの温度の芝居では通用しない」と語っていました。
福本 カイジって日常のリアリティーとはほど遠い話で、ハイテンションで「ふざけんな!!」と怒鳴りあったりする映画で、それをやってくれなきゃ困る。必然、そういう爆発力みたいな演技力が試される。日常の演技じゃないから、普通のテンションでは、厳しい。シェークスピアのように大仰なことを言って、それが的を射ていて心を打つ。全くのフィクションだけど、そこには一片の真実がある……っていうか。
―― 吉田さんや福士さん、新田さんのお芝居はいかがでしたか?
福本 素晴らしかったです。新田真剣佑さんは僕、最初、全く知らなくて、後から聞いたらものすごい人気らしくて(笑)。真剣佑さんの執事はおとなしい役で、抑えた演技だからあれはあれで難しいんだろうなと。ともかくカイジの世界観を、役者の方々や監督をはじめとするスタッフが一生懸命支えてくれましたね。
―― カイジには突き刺さるような言葉も多いですが、今作で最も印象的だったものは?
福本 福士くんが“相殺”って表示するところ。預金と借金をぶつけ合って対消滅させればいいんじゃないかっていうやつ。あれは面白い。今回は、国家も含めてずるい連中がのさばっていますが、福士くんが演じる官僚の言葉は、全てが間違いというわけでもない。
あとは、最後の方でカイジが言うんだけど、国がダメになることは起こるかもしれないが、そのときに逃げ出すんじゃなくて、みんなで泥水すすって頑張ればいいじゃないかっていう言葉。この“皆で頑張ろう”という価値観が日本人じゃないですか。貧しいときは貧しいなりに頑張る。そういう気持ちを持つ国民性であってほしいし、まだ持っていると僕は信じているんです。
―― 完成したものをご覧になってどうですか?
福本 “カイジが戻ってきた感”があります。過去2作と同じ空気・熱があります。
9年間カイジの映画はなかったけど、漫画だったり、ものまねをする芸人さんだったり、カイジというある種のイメージは世の中にずっと流布され続けていて、だから、みんなの友達のカイジが戻ってきたと感じてもらえるんじゃないかな?
―― なぜカイジは長い間愛されるんでしょう。
福本 正義感もあるけどダメなところもあるカイジですが、やっぱり根っこの人柄が好かれているんじゃないですかね。漫画でも映画でも、カイジのそこは信用されている。今で言うと“シブコ”(女子ゴルフの渋野日向子選手)みたいな。彼女は人柄、絶対、いいでしょ? シブコ嫌いな人あんまりいそうもない。
―― なぜ突然のシブコ。しかし今作でも相変わらずツメが甘いところもあってそれもまたカイジですよね。
福本 そうなんですよ! あれはダメだろ〜(笑)。
―― ちなみに、実写が原作に与える影響はあるものですか?
福本 今作は完全オリジナルで、漫画とは違う流れなので影響は、全くないです。漫画の方は今あるストーリーというかアイデアを粛々とやっていくしかないし、映画は映画でこうなっちゃったら、次、仮にあるとしてもオリジナルストーリーだろうな。あるいはワン・ポーカーだけ使うかかなと。ともかく、漫画と映画は、全く別すぎてもはや、影響とかないかな? ともに我が道を行く……というか(笑)。
(C)福本伸行 講談社/2020映画「カイジ ファイナルゲーム」製作委員会
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