絵を描くだけだったのが、ものを作るようになった 高木正文&BUNBUN&米山舞インタビュー:クリエイターズ・サバイバル アーティストの戦略教科書 第5回「SSS by applibot」(2/2 ページ)
三者三様の人生曲線。
やがて集う才能。それぞれの紆余曲折
―― 本企画で実施している人生曲線、今回もお三方に書いていただいた。なかでも特に激しい浮き沈みをみせるのは高木氏のものだ。
高木 僕の子ども時代はあまり明るいものではない人生だったと思います。高校3年生の頃に友達とゲーム制作をしたこともあってゲームに興味を持つようになり、卒業後就職し、学費をためてから専門学校に通いはじめました。
その後は憧れのスクウェア・エニックスに就職して、「ビフォア クライシス-ファイナルファンタジーVII-」に参加でき、とてもうれしかったのを覚えています。ただ、僕の希望とは異なる3Dモーションを担当することになりました。僕としては絵が描きたかったんですよね。
当時、とても尖がっていたこともあり、1年で会社を飛び出してフリーランスではじめたんですが、1年くらいは全く仕事がありませんでした。
そんなとき、登録していたmixiを通して、なぜか僕のマネジャーをやりたい人が現れました。その方は歴史系ゲームの大御所イラストレーターのマネジャーさんで、その人のお世話になることになり、「デュエル・マスターズ」などのカードゲームのイラストを受けるようになりました。
その後、母校で講師もしたりして少し復調するんですが、そこで知り合った竹安佐和記さんという方と「エルシャダイ」というゲームを作ることになるんです。
―― 「そんな装備で大丈夫か?」などのキラーフレーズを生み出し、ゲームファンを超えて大きな注目が集まった『エルシャダイ』。高木さんははじめてプランナーとしてゲーム制作に参加することになる。
高木 プランナーとして初参加したこともあって、大変すぎて再びドン底に落ちてしまいました。
その後、再びスクウェア・エニックスとご縁があって「ファイナルファンタジー零式」という作品に関わるようになるのですが、そこからは今に至るまで上がり調子です。
前々職の社長に出会ってアートディレクターをやるようになり、DeNAさんにスカウトされてマネジメントに関わりはじめ、そしてアプリボットにスカウトされてSSSを立ち上げました。
―― イラストまで交えて描き上げてくれたのはBUNBUN氏。やがては故郷に像を建てたいという野望も刻まれている。
BUNBUN 所々で気持ちとしては落ち込んだり、絵が乱れたこともあったんですが、基本的に長く引きずらないんですよね(笑)。それは長所でもあると思っています。
SAOに関わってからグッと上がり調子になり、20代の目標として立てていた文庫の表紙を100冊描くということとアニメやゲームの仕事をするということは29歳でギリギリ達成できました。
30代になってからは何か変えようとは思うものの、新しい目標やモチベーションがなかなか見つからない時期が続いていました。単純に仕事は忙しかったのですが、SSSに入ることで意識が変わっていきましたね。
―― 三者三様の人生曲線。アニメーターとしてキャリアをスタートさせた米山氏の転機とは。
米山 20歳でアニメ制作会社のガイナックスに入り、しばらく地道に目の前のことだけに集中していた感覚です。ですので、大きな変化はなく曲線を緩やかに上下させています。
ですがレーシングミク(※2)に関わったときは大きな転機でした。そのときにコヤマシゲトさんにイラストの仕事の受け方をいろいろ教わって、数多くのご相談や案件のチャンスが広がりました。そこで自分はイラストでやっていけるかもと思い始めました。
※2 レーシングミク。「初音ミクGTプロジェクト グッドスマイルレーシング」から登場したレースクイーン衣装の初音ミク。
―― SWOT分析にはアニメーターを経たからこその長所もつづられている。
米山 アニメーター時代は「背中を見て育て」って環境だったので、精神力は鍛えられましたし、何が何でも自分のスキルを伸ばさなきゃと必死で、今より貪欲でした。
必死に前の人の背中を追うんですけど、追いかけているその人も止まらずに進み続けているので一生追い付かないかもしれないと思ってしまうんですよね。そういう挫折感というか、鼻を折られる経験は必要だったのかなと思います。
今は逆にみんなで顔を合わせて作業していて、背中を見て育てという環境ではありませんが、クリエイターとして参考になる刺激はとっても多いです。
―― BUNBUNさんのSWOT分析は「前向き」と書かれている一方で、弱みの項にも多くの言葉が並ぶ。特にインプットについては悩みの種であるようだ。
BUNBUN 10代のインターネットに出会ったばかりの頃は、全てが楽しくていろんなものを見ていましたが、仕事が忙しくなるにつれてどんどんインプットが削られていきました。
それによって仕事の実作業以外の引き出しが増えていないことは実感しています。自分に求められてる仕事は果たせている自負はありますが、その一歩外れたところを表現することがあまりできていなかったんです。
だからこそ、SSSに加入することで、新たな刺激でインプットを促したいという意図もありました。結果的に忙しいですが、メンバーと話したり、教えてもらったことを調べたりすることでだんだんとインプットにもつながっています。
―― 長くゲーム業界に籍を置く高木氏は、現在の業界における脅威として、ソシャゲの開発期間が伸びていることをあげている。
高木 コンシューマー業界では1つの作品に5年くらい関わることも普通なので、成果が見えるようになるまで時間がかかります。だから開発サイクルの早いソシャゲ業界に移り、成果を上げるサイクルを早めたかったのですが、最近ではソシャゲも制作に数年かかるようになってきたため、そういう意味でのうまみが弱くなっているなと感じ、脅威の枠に入れました。
企業とフリーランス、それぞれのクリエイターの在り方
―― 高木氏は本連載におけるはじめての会社員である。フリーランスと会社員、2つの立場を渡り歩いたからこそ感じるその差異とは。
高木 全部が全部そうではないとは前置きしないといけないですが、スペシャリストとして物事を考えられるのがフリーランスの良いところです。例えばイラストレーターだったらイラストを描くことに集中することで良いパフォーマンスが発揮できます。ただ、仕事は一定にあるわけではなく、仕事の依頼がなければ強い不安に襲われることもありますが……。
対して、企業クリエイターには常に仕事があります。ただ、企業のクリエイターは絵を描くことだけでなく、ゲームに関わるあらゆる業務を求められます。2Dイラストがやりたいのに3Dモーションを担当することもあるでしょうし、なんなら新人指導までしなくてはいけないこともあるでしょう。
ですが、企業の中で何かに取り組むことは、フリーランスの仕事と違って成果物以外の部分でも人に見てもらえるんです。自分自身では気付かなかったことへのチャンスになります。
ゲーム制作に参加する場合、フリーランスが関わるのは作品の一部分であることが多いと思いますが、企業のクリエイターはチームの内部であらゆる業務に総合的に関わることができます。
そこでキャリアを積むことで、やがては1人ではできないレベルの大きなプロジェクトの根幹にまで関わってクリエイティブを発揮できるかもしれない。
フリーランスと企業クリエイター、どちらが優れているということではなく、自分のやり方が合っているかが重要だと思います。僕は1つのことに集中するのは向いてなくて、いろんな変化に取り組むのが好きだったので企業に属することで能力を発揮するタイプかなと感じています。
―― 個人とスタジオ、異なるクリエイティブでの取り組みを経験した2人は、その感触の違いを分析する。
米山 SSSはスタジオとしても特殊で、自分たちが企画を考えられて、全員がプロデューサーみたいな業務までこなすことになります。だからこそ、コンセプトが必要なあらゆるデザインに関われるので、アニメの原作やゲームデザインなど、ゼロからのもの作りに取り組みたいです。
実際に今回の「SEVEN’s CODE(セブンスコード)」では、私はアートディレクターとしてクレジットされているんですが、一般的なディレクターではない関わり方をしていますし、他のメンバーもクレジットされていないものまで色んな関わり方をしています。
BUNBUN 僕らはこれまで活動してきたジャンルは違いますが、皆が「こういう仕事を頼むならこの人」などと、自分自身のブランドを確立しているメンバーだと思っています。
ですが自分の実績や評判などブランドが出来上がってしまうと、今度は逆に仕事の幅が限られてしまうことにもつながります。同じジャンルや、似たような案件が続いてしまいがちです。さまざまな仕事にチャレンジしたいのに、「あの絵の人」として見られることが増えてしまうんです。
ですが、スタジオに所属することで、スタジオ全体の幅でお仕事の相談を受けられ、この仕事を頼むならこの人という前段階から関われるようになります。
実際に、今までやったことないような仕事にも取り組んでいますし、そういう予想外の仕事は刺激的で楽しいです。今後も領域を問わずいろんなことにチャレンジしていきたいですね。
表現を見てもらうための表現
―― それぞれが熾烈(しれつ)な業界を生き抜いてきた三人が語る、これからのクリエイターの生き残り方。
高木 今は個人がフィーチャーされる時代です。フリーランスだけではなく会社員も同様に、個人に目がいく時代だと思います。
SNSのフォロワー数という話だけではなく、数字では表せない業界内の関係者への認知や信頼度もありますし、ここまでフリーランスなど個人が輝く時代なので企業側も優秀な社員を手放さないように、フリーランスよりも勤めていた方がチャレンジができる環境作りをしているところが多いと思います。
例えば僕は会社員のデザイナーの中では珍しく、表舞台に出るのが好きなタイプだったのでさまざまなチャレンジをいただいてきました。
だからフリーランス・会社員関係なく、生き様を表に出すことが大切だと思います。人前で話すのでもいい、絵を描いて発表するでもいいです。アウトプットして人々に届けないと、何事もつながっていきません。自分がどういう人間なのか、何が強みなのかを、届けるべき人に届くよう示し続けるのが生き残るために最低限必要なことだと考えています。
BUNBUN 僕がデビューした頃と比べると、あらゆるところにイラストが使われているので、ライバルも増えたと同時に仕事も増えていると思います。
また、インターネットサービスが発展し、個人でビジネスをまわす仕組みが整い、ニッチなものでも熱いファンがいるなら生きていけるというやり方も成立するようになりました。
そうして細分化した需要が満たされるようになり、細かいフィールドでスターが生まれると、逆にあらゆる需要を包括して受け入れるスーパースター的存在は成立しづらいのかなとも思います。何を求められているのか考え、発信していくサービス精神がクリエイターとしての生き残りにつながるのではないでしょうか。
米山 絵の差別化に限らず、活動の差別化は重要ですよね。最近ではTwitterなどのSNSが台頭してきたので、それを活用したいろいろな活動や工夫の違いが見られますよね。
どんな形であれ、共感してもらったり、興味を持たせたり、印象に残したりと、人の心をつかむことが大事なのかなと思っています。
―― 以上、前編をお届けした。後編では「SSS by applibot」としてデザイン協力した初のゲームタイトル「SEVEN's CODE(セブンスコード)」について伺うとともに、実際のエピソードを追う中で、作品に込められたスタジオとしての哲学を探っていく。
(聞き手・取材:オグマフミヤ / 編集:いちあっぷ編集部)
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