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アニメ評論はなぜ「無いように見える」のか? アニメ雑誌と評論の歩み――アニメ評論家・藤津亮太インタビュー(1/3 ページ)

アニメ評論の歴史について、藤津さんに聞いてきました。

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 アニメ関連の記事を眺めていると、新作情報やクリエイターインタビュー、メイキングなどはちまたにあふれているのに、「評論やレビューはあまり見かけない気がする」――そう疑問に思ったことはないだろうか。

 SNSでは感想ツイートが日々飛び交い、配信全盛となった現在でも放送時刻の前後にはTwitterトレンドがアニメ関連ワードに染まるのも珍しくない。作品を自分とは違う(あるいは同じ)角度で論じた情報へのニーズは確かに存在するのに、なぜ評論記事は「少ない」のだろうか?

 そんな疑問を解消すべく、ねとらぼでは3月21日に「なぜ商業媒体で“アニメ批評”は難しいのか?」をテーマにした特集記事を掲載。メディア各社へのアンケートを実施し、回答のあった5媒体の意見を紹介した。ところが意外にも、各編集部からはいずれも(温度感の違いはあるものの)「作りにくい実感はない」との回答が届いた。



 また、Webメディアからは回答があったものの、残念ながらいわゆる「アニメ雑誌」などの紙のメディアからは回答が得られなかった。そこで今回はアンケート結果を補完し、アニメ雑誌側の事情について理解を深めるために、アニメ雑誌での執筆経験が豊富なアニメ評論家の藤津亮太さんへのインタビューを敢行。

 アニメ雑誌において評論が歴史的にどのような位置を占めてきたのか。また「アニメ評論が成立しにくい背景」と、アニメ評論を今後増やしていくために藤津さんが必要だと考えている“戦略”について語ってもらった。


藤津亮太:アニメ評論家。新聞記者、雑誌記者を経て2000年にフリーに。以後、アニメ評論家としての活動はもとより、インタビュー、レビュー、BDブックレット、パンフレットの構成などで精力的に執筆活動を行う。Webサイト「アニメ!アニメ!」で連載中のコラム「アニメの門V」は、移籍前の雑誌時代を含めると15年以上続く長期シリーズ。著書に『わたしの声優道』『ぼくらがアニメを見る理由』『アニメ「評論家」宣言』などがある。

アニメ評論は「無いように見える」

藤津 いきなりですが、そもそもなぜこの企画をやろうと思われたのでしょうか? 企画意図は分かったのですが、前回の記事が意外にふわっとした結論のように感じました。

――そうなんですよ! きっかけはライターや編集者との雑談からでした。話をしてみると、SNSで感想が流れてしまいやすい昨今だからこそ「評論に価値はある」という共通の認識はある一方で、商業媒体では「アニメ評論は書きづらい」という声が多かったんです。これがなぜなのか、媒体の考えを聞いてみたいというのが出発点でした。

藤津 まず「評論がやりづらそうだ」というイメージがあったわけですね。

――はい。ところが、アンケート結果ではいずれの媒体も「作りづらいわけではない」といった回答で、これはどうしたものかということで藤津さんにお話を聞きにきた次第です。

藤津 「アニメの評論が無いようにみえる」という理由はいろいろありますが、それは第一に映画や小説(を含む書籍)の評論と比べてるんですよ。

 この2つは新聞や週刊誌も含めてかなりの数が取り上げられています。そうすると、映画と比べて「アニメの本数のわりには、評論の数が無いように見える」んですよね。でもアニメって、作られているかなりの作品はテレビアニメなんですよ。産業的な中心はそっちにある。

――そうですね。


2018年のテレビアニメ制作分数は13万3808分であるのに対し、劇場アニメの制作分数は6186分(=約22分の1)/「アニメ産業レポート2019」サマリー版より


藤津 だから、アニメ映画も確かに大量に公開されているけど、テレビシリーズのスペシャル版やスピンオフ的なものも多い。そういう作品は、作品としての独立性の観点から、「評論の俎上に乗せにくい」という扱いになりやすい。

 映画評を基準に考えると、そういう理由で「アニメの存在感に比べて評が少なく見える」ということになります。一方で、映画じゃなくてテレビドラマに関する評論と比べてみたらどうか。テレビドラマ評は「ないわけではないが、映画ほどは多くない」ですよね。そうすると、アニメ評論もテレビドラマと同じくらいにはある、ということは言えると思うんです。

 先回りして結論を言ってしまうと、制作サイドとの関係で生じる難しさも無いわけではないと思うのですが、それ以上に数が増えにくい理由としては、ニーズが無いってところが大きいんです。


アニメ雑誌の今昔

――ニーズの無さですか……。そのあたりは雑誌において、今と昔とでは違うのでしょうか?

藤津 結構違いますよ。歴史をざっくり俯瞰すると、そもそも今ほどテレビアニメが増える前は映画評論の1ジャンルとしてアニメの評論があったんですね。森卓也さんなど、主に海外から入ってくるディズニー作品やカートゥーンが好きな人が書かれていました。

――それは『アニメージュ』『ニュータイプ』とかのアニメ誌が出てくるよりも前?

藤津 アニメ誌が成立する以前ですね。当時のアニメの認知としては、「映画のサブジャンル」だったんです。アニメに特に関心を持つごく少数の人が原稿を書いている感じでした。

 その後1960年代に入ると、「鉄腕アトム」(1963年〜)をはじめとする商業アニメの登場によって、テレビアニメをベースにした認知が広がっていきます。そして1980年前後のアニメブームの中で、アニメをずっと見てきた人たちが原稿を書くようになっていった。具体的には1970年代後半に『アニメック』(1978年〜1987年)とか『アニメージュ』(1978年〜)といったアニメ誌が登場します。そこでは作品に対して結構厳しい意見も出たりしていて。

 『アニメック』にはアニメックステーションという時評のコーナーが見開きであり。中島紳介さんとか、後にプロの作家・脚本家になる鳴海丈さん、会川(現・會川)昇さんたちがローテーションで原稿を書いていました。

『アニメージュ』でも時々、新番組総評みたいな企画を行って、ライター陣による座談会を組んでいましたし、池田憲章さんの「いいシーン見つけた!!」というレビューコーナーもありました。パロディー記事等で話題だった『OUT』でも。霜月たかなか(アニメ・ジュン)さんらがいて、評論的な視座のある記事も組まれていました。

 ところが「機動戦士ガンダム」などがけん引していたアニメブームが1984年一杯で終わってしまいます。ブームが盛り上がっていた間はファンと雑誌の間に共犯関係があったので、いろんな記事が可能でした。でもテレビでやるアニメがファミリー向けやジャンプアニメなど、アニメ誌でコアな特集を組みづらいものが中心になったときに、それまでの「こういうアニメが面白いんだよ」と雑誌が提案していた感じと、ファンの盛り上がりがかみ合わなくなってくるんですね。


『アニメージュ』では1984年の本数減を受けて、「放映本数44本から33本へ テレビアニメの“激減”部分をさぐる!」と題した特集を組んでいる。/『アニメージュ』1984年9月号p.129より

特集ではラブコメとロボットアニメの減少に着目。年別作品数の調査、テレビ局編成部の担当者や玩具業界関係者へのインタビューなどを通して、ラブコメ作品の不振と、『機動戦士ガンダム』『超時空要塞マクロス』に続くロボットアニメのヒットが無かったことが作品数減少の要因であると分析している。/『アニメージュ』1984年9月号p.129より

 そのときに当たり前なんですけど、雑誌はファンの目線に寄るんですよ。つまり、「雑誌が提案して価値を打ち出すよりは、ファンが何を求めてるか」を記事にしていきましょうという感じになっていくわけです。

 これ、アンケートで「アニメイトタイムズ」が答えていた「ファンが望まないものを載せるのが良いのかどうか」って議論とつながってくるんですけど。


「アニメイトタイムズ」の回答(抜粋)

 アニメイトタイムズでは、公開されたアニメはユーザーさんのものだと思っています。それぞれの方の「アニメが好きだ」に優越はなく、「100人の方が好きというアニメ」も「1人の方が好きというアニメ」も同じ価値と捉えています。

 主役はユーザーさんのため、編集部発信の「アニメ批評」の必要性は感じていないのではと思います。


――1984年ごろにアニメ誌の雰囲気が一回リセットされたと。

藤津 そうです。たぶんもう少し作品を深く考えたいというニーズはモヤモヤとあったはずですけど、それが出版ベースで形になるのは「新世紀エヴァンゲリオン」の1995年以降だと思います。アニメを字で読むというのは、「エヴァ」という皆が「語りたい」アニメが登場したことで、ぐっと成立していった感じはあります。


1985年の減少の後、テレビアニメの本数は徐々に増加傾向をたどる。/「アニメ産業レポート2019」サマリー版より

テレビアニメの「見通しの良さ」

藤津 かつては、それこそレビューされるまでもなかったという側面もあります。主力であるテレビアニメが無料のため、「見通し」が良かった。そしてファン同士のコミュニティーがあれば、その中でのレコメンドがいち早く行われていました。自分の目で確かめられるから、アニメ批評がなかなか成立しにくかった、という背景があるわけです。

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