「商業媒体で“アニメ批評”は難しい?」 メディア各社にアンケートしてみた(1/2 ページ)
意外にも「難しい」と答えた媒体はゼロという結果に。
商業媒体でアニメの記事を作る上で、画像や映像を引用の範囲を超えて使用するのであれば、版権元への許諾申請が避けて通れません。その中で、素材を提供する版権元への「忖度」が発生し、自由な評論の妨げとなることはないのでしょうか?
ねとらぼ編集部では「商業媒体で“アニメ批評”はなぜ難しいのか?(本当に難しいのか?)」をテーマに、当事者であるメディア各社にアンケートを実施。14媒体の内、5媒体(「ねとらぼエンタ」を含む)から有効な回答がありました。
回答があったのは「IGN JAPAN」「朝日新聞」「アニメイトタイムズ」「KAI-YOU.net」「ねとらぼエンタ」の5媒体。「『アニメ批評』の記事が作りにくいという実感はありますか?」という質問に対して、「ある」と答えた媒体はありませんでした。各媒体の回答全文は次ページで。
このテーマはしばしば議論の対象になってきました。例えば豊島区役所で2019年11月に開催された「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima(IMART)」のトークセッション「アニメのジャーナリズムのこれまでとこれから」では、「制作サイドと二人三脚の誌面作りを歩んできたがために、批評空間を形成しにくくなってしまった」といった指摘もみられました。
結論からいうと、前述の通り回答のあった媒体はいずれも特段記事の作りづらさは感じていないという結果に。これは、本当に主張したいことがあるならば、最悪画像の掲載を見送って記事化するなどの代替案があるためです。しかし一部の媒体からは、画像や映像の参照が不自由であるために、作画面の評論が行いづらい側面もある、との指摘も。どのような回答があったのか、概要をまとめました。
アンケート結果の概要
朝日新聞からは、2007年から続く連載コラム「小原篤のアニマゲ丼」を担当し、IMARTのセッションにも登壇した小原篤記者から回答がありました。小原記者は「情報や素材の提供を受けていることが、新聞における批評を難しくしているとは感じません」とした上で、記事内容を事前にチェックしたいという条件を出される場合は、画像の使用をやめるか、作品に触れている部分の記述を伝えて使用許諾を得るなど、ケースバイケースでの対応が可能だとしました。
IGN JAPANは、アニメ批評の記事は作りにくいか? との質問に「必ずしもそうは思いません」と回答。試写会などでの鑑賞を元に行うレビューにおいても、版元からの記事チェックを受けることはそれほど多くはなく、辛辣なレビューだったとしても「記事チェックをうけることはそれほど多いわけではありません」と回答しました。
ただしその前提として、IGN JAPANがアニメを専門に扱う媒体ではない点も指摘。「アニメ専門誌じゃない媒体がアニメ批評を行えば、業界全体がやりやすくなるのではないか」との意見を寄せました。
一方でKAI-YOU.netは、「版元から情報や素材の提供を受けていることが、批評を難しくしていると感じるか?」との質問に、「そういった側面はありますし、過去に版元に素材の提供を依頼した結果、記事内容の確認が要請されたケースもあります」と回答。しかし、「プレスリリースが送られてこなくなる、版元などから修正や記事削除の要請がくる」などの代償を覚悟すれば、必ずしも「作りにくい」という実感はないとしました。
アニメイトタイムズは回答があった媒体の中で、最もアニメ関連の情報を扱う頻度が高いといえる媒体。それもあってか、他媒体とはやや角度の異なる回答となりました。
アニメイトタイムズでは基本的には「公開されたアニメはユーザーさんのもの」というポリシーの下、編集部発信の「アニメ批評」の必要性はあまり感じていないといいます。加えて、アニメの見え方が広がる批評記事の有益性は認めつつも、「マイナス方向の批評・評論記事は、『それぞれが大切にしているアニメの世界』を壊す場合もあるのではと心配もしています」と、あくまでアニメファンを第一に考える姿勢を強調しました。
ねとらぼエンタは、「経済的理由/記事のレベル/需要」といった諸事情により、「メディアの太い柱に据えるのが難しそうだから」との理由で、批評記事を積極的に作成していないと説明。その上で、経済的合理性をのぞけば、他の記事タイプに比べて作りにくいと感じることはないとしました。
「動画・画像の使用がもっと自由であれば、どのような記事を作りたいか」との質問に対しては、IGN JAPANとKAI-YOU.netが、現状に対する改善の余地を主張。
IGN JAPANは、映像(動画)の使用がより簡単になれば、「アニメ産業に良い影響を与えると思います」と提言。アニメの主要な評論点として“作画”があり、それを論ずるには「映像を参照するのが早いから」と回答しています。
KAI-YOU.netも、「批評の内容を説明するために場面カットを加工したり、1シーンを動画として切り出して使用したりすることで、より作品の価値を伝えやすくなります」と回答。また、「前提として、決して作品や作家、クリエイターを貶(おとし)めようとしているわけではない、ということです。当然、そういった方々へのリスペクトがあります」と訴えました。
朝日新聞の小原記者とねとらぼエンタは、素材使用の自由度によりアニメ批評の記事が作りやすくなるとは思わない、と回答。アニメイトタイムズも「素材が良いから良い記事ができるのでなく、読まれた方の幸福度を上げるため編集部が行動するから良い記事になると思っています」と、現状の制約が必ずしも記事制作の障壁にはなっていないとしました。
「アニメ雑誌」からの回答は無し
今回のアンケートではアニメ系の情報誌、いわゆる「アニメ雑誌」など紙のメディアにも複数(アニメ雑誌5媒体、映画雑誌1媒体)に宛てアンケートを依頼しましたが、残念ながら回答は得られませんでした。
アニメ雑誌は、長年アニメの情報発信を担ってきた重要なメディアであり、こちらからの回答が得られなかったのは企画としてやや物足りなさが残る結果になりました。
そこで本企画を補完するため、アニメ雑誌での執筆経験も豊富なアニメ評論家の藤津亮太さんへの取材を敢行。インタビュー記事「アニメ評論はなぜ『無いように見える』のか? アニメ雑誌と評論の歩み」として3月22日に掲載予定です。
【追記】藤津亮太さんのインタビューを掲載しました
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