「商業媒体で“アニメ批評”は難しい?」 メディア各社にアンケートしてみた(2/2 ページ)

» 2020年03月21日 12時00分 公開
[福田瑠千代ねとらぼ]
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アンケートの質問

1, 貴媒体では批評・評論記事を掲載していますか?

2, 「アニメ批評」の記事が作りにくいという実感はありますか? 理由も合わせてお答えください。

3, 版元から情報や素材の提供を受けていることが、批評を難しくしていると感じますか?

4, 版元の記事チェック・画像チェックはどのような形であってほしいですか。

5, 動画・画像の使用がもっと自由であれば、どのような記事を作りたいですか。

※Web、雑誌、新聞など14の媒体にメールアンケートを実施。5つの媒体から有効な回答があった。


各媒体の回答

IGN JAPANの回答

1, 劇場版アニメのレビューなどは掲載しています。

2, 弊誌としては必ずしもそうは思いません。

 劇場版アニメに関しては試写をまわせていただいており、スチル素材もいただけてます。レビューは点数付きで辛辣なことを書くことはありますが、記事チェックをうけることはそれほど多いわけではありません。

 もちろんいくつかのケースにおいて、重要な項目(多くはネタバレに関する部分)を制限されますが、評論、批評の重要な項目で修正を依頼されることはほとんどないです。

 むしろ声優さんが出られるステージイベントやレポートのチェックは厳しいと感じます。

3, 資料を提供いただくと、記事チェックが発生することはあります。逆に言えば、特に資料はお願いせずに書くぶんには、表現の自由に守られているため、問題ないと思います。

 とはいえ、素材がないと記事を構成するのは難しいですね。ただ画面のキャプチャは我々は引用の範囲で行えると思っています。

 もちろん、前項含め、これらは弊誌がアニメ専門誌でないことが大きな特徴でしょう。逆にアニメ専門誌じゃない媒体がアニメ批評を行えば、業界全体がやりやすくなるのではないかと思います。

4, 基本的に用語等のチェックに限らさせてもらっています。そのためのガイドラインは弊誌でも受けています。ネタバレ等はあくまでも版元様の要望を聞くという態度です。批評においてはネタバレをせざるを得ない場合がありますので。

5, 特に映像(動画)に関してはもっと使用が簡単になれば、非常にアニメ産業に良い影響を与えると思います。というのは、アニメの主要な評論点は作画にあり、作画を評するには映像を参照するのが早いからです。


※IGN JAPAN:国内最大級のゲーム・エンタメ情報サイト。北米版「IGN」からスタートし、アメリカ以外にも22カ国で展開。本家IGNの翻訳記事にとどまらず、レビュー、インタビュー、コラム、動画番組など日本版独自のコンテンツにも注力している。


朝日新聞「小原篤のアニマゲ丼」小原篤記者の回答

1, 掲載しています。実写を含めた映画評の中で、アニメ映画も取り上げています。最近の例では「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」がありました。また、朝刊「文化・文芸」面でも随時、注目作について論評を掲載しています。最近の例では「天気の子」がありました。

2, アニメ批評の記事が作りにくいという実感はありません。

3, 情報や素材の提供を受けていることが、新聞における批評を難しくしているとは感じません。

 新聞にとってアニメ作品にかかわる情報や素材を提供していただ<相手は、多くの場合、映画の製作会社・配給会社・宣伝プロダクション、テレビ番組の放送局です。これは、映画なら公開時期に、テレビなら放送期間中に、作品紹介を兼ねて批評を紙面に掲載することが多いからです。内容面について条件を出されることはほとんどありません。

 過去の作品のスチル写真を使いたい時は、アニメスタジオや出版社、レコード会社などいわゆる「版元」に提供していただく場合もあり、記事内容を事前にチェックしたいという条件を出されることはあります。その場合の対応は、画像の使用をやめるか、あるいは、作品に触れている部分の記述を伝えて使用許諾をいただくか、など、ケースバイケースです。

4, 版元の記事チェックは原則として「なし」が望ましいと考えます。画像チェックについては、複数の画像をコラージュに近い形で組み合わせたりするような特殊な使い方をするケースを除いて、やはり原則的に「なし」が望ましいと考えます。

5, 上記の通り、現状で批評・評論記事を作りにくいとは考えていません。


※小原篤(おはらあつし):朝日新聞の東京本社版夕刊で「アニマゲDON」(1999年〜2003年)を月刊連載、朝日新聞デジタルで「小原篤のアニマゲ丼」(2007年〜)を週刊連載中。2012年に日本評論社から『1面トップはロボットアニメ 小原篤のアニマゲ丼』を刊行。/Twitter:@botacou


アニメイトタイムズの回答

1, アニメイトタイムズでは、「たくさんの人にアニメを好きになってもらいたい。アニメの好きな人には、もっとアニメを好きになってほしい」という方針でサイトを運営しています。必要であれば、方針に沿って「批評・評論記事」も掲載しますが、「批評・評論記事」を目的に記事を作ってはいません。

2, 「アニメ批評」を目的に記事を作っていないので、記事が作りにくいという実感はありません。

 アニメイトタイムズでは、公開されたアニメはユーザーさんのものだと思っています。それぞれの方の「アニメが好きだ」に優越はなく、「100人の方が好きというアニメ」も「1人の方が好きというアニメ」も同じ価値と捉えています。

 主役はユーザーさんのため、編集部発信の「アニメ批評」の必要性は感じていないのではと思います。

 アニメの好きを共有している仲間たちとの批評や評論は、アニメのひとつの醍醐味かと考えます。ユーザーさん発信の「アニメ批評」であれば、ぜひ形にしたいと思います。

3, アニメ専門サイトであり、「批評・評論記事」を目的に記事を作っていないため、質問のような難しさはありません。

 批評・評論記事で、アニメの見え方が広がるような記事は、世の中にたくさん存在すると良いなとは思います。ただ、マイナス方向の批評・評論記事は、「それぞれが大切にしているアニメの世界」を壊す場合もあるのではと心配もしています。バランスの問題は編集部としても気にしているところです。

 新聞や一般報道の方にとっては、「伝える義務や責任」があるのかもしれませんが、アニメメディアのアニメイトタイムズとしては「ファンの方が大切にしているアニメの世界にも耳を傾けてほしい」と思っています。新聞や一般報道の出すアニメ関連情報が、気づかないところで「アニメファンの大切な何か」を傷つけているのではないだろうかと考える部分があるからです。

4, アニメメディア目線ですが、現状、大きな問題はありません。

 取材を受けるキャストやスタッフの方々や版元、そして私達メディア、そのバランスの中で記事が作られていますので、しっかりと回る構造になっていると思います。

5, 素材が良いから良い記事ができるのでなく、読まれた方の幸福度を上げるため編集部が行動するから良い記事になると思っています。

 サイトの根本にあるのは、「アニメから勇気や希望を! そして、もっとたくさんの人にアニメから生きる力を」です。

 どんな記事を作りたいと聞かれれれば、目標は、そんな読後の記事です。たとえ制限があっても、知恵を絞って考えようといつも思っています。

※アニメイトタイムズ:アニメグッズ販売店でおなじみ、アニメイトグループが運営するアニメ系メディア。アニメ・声優関連の公式情報、ニュース速報、インタビュー、イベントやライブレポートまでを幅広く手掛ける。


KAI-YOU.netの回答

1, 掲載しています。KAI-YOU.netではレビューやコラムというかたちで、ライトなものからマニアックなものまで記事を掲載しています(参考記事:1234)。

 また有料版のKAI-YOU Premiumでは、より対象に深く切り込んだ批評記事を展開しています(参考記事:123)。

2, 「作りにくい」という実感はそこまでありません。なぜなら、批評によってアニメを楽しむための視点や切り口が充実するものと考えているからです。ただし、記事の内容によってはその代償(プレスリリースが送られてこなくなる、版元などから修正や記事削除の要請がくる等)もあると思います。

3, 版元からの情報提供が批評を難しくしている、そういった側面はありますし、過去に版元に素材の提供を依頼した結果、記事内容の確認が要請されたケースもあります。極端なことを言えば、思い切った批評を展開するためには、版元の情報・素材提供に頼らないことなのかもしれません。

 当該記事(アニメ!アニメ!ビズ!朝日新聞)のように、読者のニーズとしても、版元からの情報だけで十分という層はいます。ただ、逆にそれだけで満足できない人たちも一定数存在すると考えており、きちんとしたニーズがあるという意味では、「批評が難しい」とは感じていません。

4, 理想は記述の事実確認のみです。記載された思想や論理、見解に対してはノータッチであってほしいですし、実際に事前チェックが必要な場合は、そのように依頼しています(が、そうはいかないケースも少なくありません)。

5, もっとわかりやすく、読み応えのある記事が作れますし、作りたいです。アニメで具体的にいうと、批評の内容を説明するために場面カットを加工したり、1シーンを動画として切り出して使用したりすることで、より作品の価値を伝えやすくなります。「ここのシーンで」という記述が減るぶん、余分なテキストを削ることもできると思います。

 前提として、決して作品や作家、クリエイターを貶めようとしているわけではない、ということです。当然、そういった方々へのリスペクトがあります。その上で良い点・悪い点を指摘するのは、メディアの役割として必要なことではないでしょうか。

 さらに言えば、良い点・悪い点を越えて、作者や版元も意図していなかった作品の新たな価値を発見するのが批評の役割だと考えています。もちろん、版元が伝えたい情報をきちんと伝えるのも必要な役割の1つです。

 ただそればかりになってしまうと、作品に触れられる導線が限られてしまう。KAI-YOU.netが掲げる「POP」とは「そのジャンルを好きじゃない外側の人にも届きうるコンテンツ力のあるもの」です。私たちが取り上げるものはジャンルを超える力のあるものだと信じています。そしてそれは、批評や評論といった記事であっても同様です。限定的な盛り上がりになりがちなアニメだからこそ、独自の視点を用いた記事が必要だと考えています。

※KAI-YOU.net:「ジャンルの垣根を越える」ものを「ポップ」と定義し、国内外の文化・コンテンツを横断的に、ポップに発信するメディア。


ねとらぼエンタの回答

1, 例外はありますが、基本的には消極的掲出のスタンスです。積極的になれない理由は経済的なものであったり、記事のレベルであったり、そもそもの需要であったりといくつかありますが、総じていえば、「メディアの太い柱に据えるのが難しそうだから」という理由に依るものだと思いました。

 批評自体を否定するものではないので、強い意志があったり、懐具合に応じて出したりすることはあります。どちらかといえば、世の中に散在する批評のポイントを整理した上で、それを制作側に直接ぶつけて反応を引き出すアプローチが好きです。

2, 感想ではなく、多角的かどうかなど記事の質をどう上げ得るか、というのは常に悩んでいますが、制作が困難かという意味であれば否です。商業メディアとしての経済的合理性をのぞけば、他の記事タイプと比べても作りにくさを感じることは特にありません。

3, 素材提供を受けているから批評が難しい、というのは真ではない気がします。2.でも触れたように、そうしたものの提供がなくても回避して批評を制作すること自体は可能だからです。

4, 理想を言えばノーチェックなやさしい世界だとよいのでしょうが、現実的には、明らかな事実誤認などファクトチェックにとどめてほしいなとは思います。

5, 批評記事も含めてさまざまな記事タイプがより目を引く形で出していけるでしょうが、個人的には上述した通りの理由で、これにより批評/論評記事のみが増えるイメージがいまひとつ湧きません。

※ねとらぼエンタ:ネット上で話題になっている、もしくはこれから話題になりそうなエンタメ情報をいち早くキャッチし、幅広く届けるエンタメ専門情報サイト。



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