プリキュアは16年間、何を歌ってきたのか 413曲の分析から見えたもの:サラリーマン、プリキュアを語る(2/2 ページ)
プリキュアの歌詞は、大人になってから響くものも多いのですよね。
5:コーディングルールに基づく分析
コーディングルールに基づくシリーズの変遷を見てみました。
単語のコーディングルールを、下記のように設定し、シリーズごとに出てくる単語の差をクロス集計図で見てみます。
「夢、希望、未来」:夢など将来に関する語句(夢、未来、希望、いつかなど)
「今の状態」:今に関する語句(幸せ、大好き、元気、今、楽しいなど)
「戦う」:戦いに関する語句(戦う、負けない、必殺、ピンチ、痛み、強いなど)
「わたしとあなた」:自分、あなたなど1人称、2人称(わたし、あなた、YOU,Iなど)
「仲間たち」:なかまに関する語句(なかま、みんな、いっしょ、全員など)
これを見ると、
1:プリキュアの歌が16年をかけてどのように変遷してきたのか
2:シリーズごとに、どんな特徴があるのか?
が分かります。
箱が大きいほど使用されている語句群が多く、色が濃くなるほど「特徴的」である、ということになります。
(結果)
コーディングルールに基づき分析を行うと、いろいろと面白いことが分かります。
- プリキュアソングは全体的に「今」よりも夢や希望、未来といった「将来」を描く描写が多い
- プリキュア開始当初は「わたしとあなた」といった2人の関係性を歌うことが多かったが、それは年々少なくなっていき「みんな、仲間」を歌うことが多くなってきた。「HUGっと!プリキュア」でまた「わたしとあなた」が多くなる
- 「戦い」を歌うことは初代が多く、その後徐々に少なくなっていたが「ドキドキ!プリキュア」「ハピネスチャージプリキュア!」で再度多く描写された
- 最も「今」を歌ってきたのは「スマイルプリキュア!」
- 最も「夢、希望、未来」を歌ってきたのは「Go!プリンセスプリキュア」
- 最も「わたしとあなた」を歌ってきたのは「ふたりはプリキュア(MH)」
- 最も「仲間」を歌ってきたのは「スマイルプリキュア!」
であったことも分かります。
このようにコーディングルールに基づく分析を行うことにより、16年間のプリキュアソングの「流れ」が可視化されていくのです。
6:他アニメとの比較
さて、ここまでの傾向からはプリキュアに特徴的な歌詞なのか、子ども向けアニメであれば普遍的に歌われている歌詞なのかが分かりませんよね。
過去、プリキュア、プリパラ、アイカツ!、アイドルマスターについて同様の分析を行ったことがあります。
(参考:プリパラは3年9か月、何を歌ってきたのか-プリキュアの数字ブログ)
そのときの結果を見ると面白いことが分かります(こちらはデータが2018年のものです。またアイドルマスターはアニメだけではありませんが便宜上アニメと記載しています)。
6-1:特徴的な語句
それぞれのアニメの歌詞に特徴的な語句を調べると、プリキュアは「みんな」が特徴語だったのに対し、プリパラ、アイカツ!、アイドルマスターは「わたし」「自分」が特徴語として出てきました。
アイドルアニメは「自分」を主題に描かれることが多く、これはアイドルというテーマに合致しているものと思われます。対してプリキュアは「みんな」を主題にした歌詞が多い結果となりました。個人に帰結する「アイドル」とプリキュアの「みんなのために戦うこと」との差が歌詞にも表れています。
6-2:対応分析図
対応分析図です。「動詞」について見てみると、ここでも面白い傾向が見えてきました。
プリキュアと他3作品で使われる動詞が異なるのはアニメの性質上当たり前だとして、同じアイドルアニメでも、女児向けの「プリパラ」「アイカツ!」とそれよりも対象年齢が高い「アイドルマスター」とでは使用されている歌詞の傾向が違うことが伺えます。
アイカツ!、プリパラが「踊る」「歌う」「走る」など比較的「具体的な行動の動詞」なのに対し、アイドルマスターは「飛ぶ」「届く」「感じる」など「抽象的な動詞」が特徴となっていました。対象年齢の差が使用される動詞に影響を与えている感じですね。
プリキュアに注目すると、アイカツ、プリパラが「憧れる」「踊る」「歌う」など「自分が行う行為」が特徴的なのに対し、プリキュアは「信じる」「つなぐ」「守る」など「相手に行う行為」が特徴的に出ていました。自分主体なのか、他人への行為が主体なのか。これも面白い傾向だと思います。
アイドル系女児向けアニメが「自分の夢をかなえる」ことを歌う傾向にあったのに対し、プリキュアでは「相手を信じ守る」ことが歌われていた、といえるのではないでしょうか。
6-3:共起ネットワーク図
共起ネットワーク図です。中央にある「世界」「夢」「みんな」「未来」。これらは4つのアニメの歌詞に共通して出てくるワードです。プリキュアに限らず多くのアニメで普遍的に歌われている歌詞といえるのではないでしょうか(「輝く」「自分」という単語で「アイカツ!」と「プリパラ」つながっているのも面白いですよね)。
プリキュアは「明日」「一緒」「信じる」などが他アイドルアニメにはない特徴的なつながりとなっていました。「今」が共起するアイドルアニメに対し、プリキュアは「明日」など未来志向の歌詞が多い傾向であることが分かります(どちらが良いという話ではありませんよ)。
7:最も「プリキュアっぽい」曲
プリキュアソング頻出上位150ワードから「もっともプリキュアっぽいOP曲」を出してみました。(※オールスターズ曲を除く)
もっとも多数の頻出ワードが使われていたのは「Yes!プリキュア5GoGo!の主題歌「プリキュア5、フル・スロットルGOGO!」でした。
この曲がプリキュア16年間の中で「最もプリキュアっぽさを感じる曲」といえるのではないでしょうか(実は2年前に調査したときと同じ結果になっています)。
(頻出150語は赤で強調)
子どもたちの夢がふんだんに詰まった素晴らしい歌詞ですよね。
「夢みてるつぼみはあきらめない」や「今あなたがわたしがめざす未来があるから」などはプリキュアを象徴するようなステキな歌詞ですよね。
昨今のプリキュアは「魔法は超たのしい!(※9)」「フレフレ☆ススメ(※10)」「ムゲンダイイマジネーション(※11)」など、作品テーマに合わせて独自の単語を使う傾向にあるため、ここまで大量に頻出ワードが出てくる歌は少なくなっています。個性の時代です。
8:まとめ
テキストマイニングによりプリキュア16年分の歌詞を分析してみたところ、
1:プリキュアが16年間、歌ってきたものは「プリキュア」だった
2:プリキュアが16年間、歌ってきたものは「みんな」「夢」「笑顔」「未来」
3:シリーズに共通していた歌詞のつながりは「みんなの笑顔を守る」こと
4:時代とともに歌詞は変遷し、「ふたり」→「みんな」→「個性」へと傾向が変わってきている
5:「信じる」「明日」「守る」はアイドルアニメでは少ないプリキュアの特徴的歌詞
6:アイドルアニメが「自己」に言及するのに対し、プリキュアは「他者」に言及する傾向
7:プリキュアの歌詞は「未来志向」な傾向にあった
8:「プリキュア、フルスロットルGoGo!」が最もプリキュアっぽい曲?
などのことが見えてきました。
「ふたりはプリキュア」の時代には「ふたりの関係性」を歌っていたのが、時代が進むにつれて「仲間との関係性」を歌うようになり、「世界」と視野が広がった後に「個性」に回帰するようになっていることなどは面白い発見でした。
またプリキュアソングに「あした」「夢」といった「未来志向」の歌詞が多かったことは、この先無限大の未来が待っている子どもたちへの力強いメッセージへとなっているのではないでしょうか。
分析して見えてきたことは、プリキュアソングにはずっと歌われ続けている「みんな」「夢」「笑顔」「未来」といった普遍的な歌詞と、それぞれの作品テーマや時代に合わせた歌詞の2種類があることです。
この伝統と革新、相反する2つの要素をうまく取り入れることこそがプリキュアが16年ものあいだ子どもたちに受け入れられ、そしてプリキュアソングがずっと子どもたちの間で歌われ続けてきた最大の要因なのではないかな、って思います。
プリキュアソングには青木久美子さん、六ツ見純代さん、只野菜摘さん、藤本記子さんをはじめ、たくさんのステキな作詞家さんたちが参加されています。すばらしい歌詞を紡いでくれていることに感謝しつつ、今後は作詞家さんによる歌詞の傾向なども調べていけたら面白いかなって思います。
※1:プリキュア5、フル・スロットルGO GO!
作詞:只野菜摘 作曲:間瀬公司 編曲:家原正樹
※2:HUGっと!未来Dreamer
作詞:ミズノゲンキ 作曲・編曲:睦月周平
※3:Let's go!スマイルプリキュア!
作詞:六ツ見純代 作曲:高取ヒデアキ 編曲:籠島裕昌
※4:この空の向こう
作詞:利根川貴之 作曲:Dr.Usui 編曲:Dr.Usui・利根川貴之
※5:ハピネスチャージプリキュア!WOW!
作詞:青木久美子 作曲:小杉保夫 編曲:大石憲一郎
※6:夢は未来への道
作詞:マイクスギヤマ、作曲・編曲:石塚玲依
※7:手と手つないでハートもリンク!!
作詞:青木久美子 作曲:岩切芳郎 編曲:籠島裕昌・亀山耕一郎
※8:ラブリンク
作詞:利根川貴之 作曲:Dr.Usui 編曲:Dr.Usui&Wicky.Recordings
※9:Dokkin◇魔法つかいプリキュア! Part2
作詞:森雪之丞 作曲:奥村愛子 編曲:中村博
※10:We can!! HUGっと!プリキュア
作詞:藤本記子(Nostalgic Orchestra)、作曲・編曲:福富雅之(Nostalgic Orchestra)
※11:キラリ☆彡スター☆トゥインクルプリキュア
作詞・作曲:藤本記子(Nostalgic Orchestra)、編曲:福富雅之(Nostalgic Orchestra)
「ヒーリングっど プリキュア」
毎週日曜8時30分より
ABC・テレビ朝日系列にて放送中
(C)ABC-A・東映アニメーション
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