一年のはじまりの月、今年はどんな年になるかなとあれこれ計画が脳内を巡ります。去年は、今年は、5年後は……と巡る脳内を、今回の同人誌は軽く飛び越え、うーんと昔、縄文時代の表現がもとになった同人誌です。
今回紹介する同人誌
『土偶怪物図鑑』A5 16P 表紙・本文カラー
著者:犬箱
謎×謎。土偶に不思議な力が宿ったら
こちらのご本は、縄文時代の土偶をもとに架空の新しい土偶を描いた同人誌です。作中には土器という名称も出ますが、基本的に器の形をしたものではなく、どれも生き物の形を模した形です。
ページを開くと土偶たちは「土偶兵」「土偶生物」などに分類され、「魔法により土から生み出された土偶兵士」や「土偶なので食べられない」などの特徴がそれぞれに記されています。しかし冒頭から世界観の解説は一切無し! 文をたどると、どうやら魔法がある世の中で、これらは土から作られている怪物らしいというのが分かります。見たことのある形ほとんどそのままに「空に浮いて移動を行う」と解説が添えられているものもあれば、これは発掘されたことありませんよね!? なオリジナリティーのある造形まで、36体が掲載されています。
土偶兵士は何と戦っているのか、その世界に人間はいるのか、そしてこれらの土偶を作ったのは誰なのか……不明です。ですが、不明なのに、「おお、なんかカッコいい」「あっ丸っこくてかわいい」と楽しめてしまう不思議。詳細は分からない、けれどデザイン面白い! これって、土偶そのものと共通する事項のような気がしてきました。
“らしさ”とはなにか。土偶のイメージを楽しむ
土偶が作られたとされているのは縄文時代、その役割や造形が意図するものについてはいまだ諸説あるそうです。ざっくりさかのぼって縄文時代と一言に言っても1万年以上続いていることを考えても、きっちりと確定させるのはさぞ難しいでしょうねぇ、と遠い目になります。
このご本を読んでいると“土偶っぽい”という印象が、たくさんのページから感じられます。使用目的も形の意味も分からないのに、土偶らしいとは? 今まで考えてもみなかった“らしさ”はどこからやってくるのか。限られた色でまとめられた新土偶たちの姿と、謎めいた解説を読んでいくと、不確かな、けれど魅力ある土偶のイメージに漂っているような楽しさを感じます。
縄文時代からやってきた感動をアウトプットする
作者さんは2018年に開催された土器の展示会を見てこのご本を書くに至り、土器や縄文時代を専門にされている方ではないようです。展示会をきっかけにインスピレーションが湧き、自分の想像を加えてアレンジしたものを表現として生み出す。作品は同人誌にされたり、ネットで公開もされています。作者さんがたくさんの土偶たちを考えたこともすごければ、一つの展示から、新しい発想を羽ばたかせて同人誌という表現につながったこともすごいと思うのです。
長い長い時を超えて、縄文時代から現在へと、わくわくする土偶の魅力がリレーされていることもうれしく思いながら読んだのでした。
サークル情報
サークル名:猫箱工場
Twitter:@kadokurayasushi
pixiv:https://www.pixiv.net/users/3136220
次回イベント参加予定:コミティア135(申し込み済)
今週の余談
土器ってクッキーに向いていそうと思って少し調べたら、クッキー型はもちろん、衣類や文具などたくさんのグッズが見つかりました。長い時を経てわくわくさせてくれる形、すごいです。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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104ページという力作。