パチンコを題材に、ほんわかした絵柄でギャンブル中毒をシビアに描き、2020年のネット上で大いに話題になった怪作『連ちゃんパパ』。その作者であるありま猛さんは、漫画家あだち充さんの兄であり自身も漫画家だったあだち勉さんの弟子であり、そして赤塚不二夫さんのフジオ・プロに所属して腕を磨いたという、昭和漫画史の証人でもありました。
そのありまさんの新作が、『あだち勉物語 〜あだち充を漫画家にした男〜』。サンデーうぇぶりで連載され、このほど第1巻が発売となりました。かつて発売された、あだち勉さんを描いた漫画『あだち充物語』になぞらえたタイトルから分かる通り、この作品はありまさんの記憶にあるあだち勉さんの破天荒なエピソード、そしてフジオ・プロをはじめとする当時の漫画家や編集者たちの姿をコミカルに描いた群像劇です。
というわけで、この単行本発売に際してありまさんへのインタビューを再び敢行! 破天荒ながら漫画好き以外にはなかなか伝わってこなかったあだち勉さんの人となりを、あらためて語ってもらいました。一体「あだち充の兄」は、どのような人物だったのでしょうか……。
インタビューがきっかけで世に出た『あだち勉物語』
――『あだち勉物語』が始まるまでの経緯を、あらためて教えてください。
ありま 勉さんが亡くなった後も、勉さんを知っている人たちで集まって定期的に飲んでいたんです。だいたいみんな昔のフジオ・プロのアシスタントとかなんですけど、「俺もあのいたずらをやられた」とかそんな話ばっかりしていて。つまみがいらないくらい勉さんの話だけで間が保つ(笑)。そういう話をしてる時に、誰かに「これ、漫画にしたらどう?」って言われたんです。
――そこがこの作品の原点だったわけですね。
ありま そうです。それじゃあ……とどんな漫画にしようか考えてみて、最初の2話分くらいのネームを作ってみたんですよ。その頃に『連ちゃんパパ』がネットで話題になって、ねとらぼさんがインタビューに来て、そこでぽろっと勉さんの話が出たことで今回の連載に結びついたんです。棚からぼたもちというか(笑)。
――あのインタビューでも話題になっていましたが、漫画を読むと改めて勉さんの破天荒さがよく分かります。しかし、『あだち勉物語』に描いてあることってどこまで実話なんでしょうか……?
ありま ほぼ実話です。そのままでは漫画にならないから脚色も多少はしてますが、例えば3話に出てくる牛乳のいたずら(牛乳と嘘をついて原稿修正用のホワイトを水で薄めたものを他人に飲ませる)とかは実際にやってましたね。あれ、トキワ荘の人たちの間では定番のいたずらだったようで。勉さんはそれは知らなかったみたいだけど、赤塚先生はいたずらだって分かってて飲んだんじゃないかな。
――すごい……。
「迷惑な人」あだち勉とギャンブル
――早くも強烈なエピソードの数々ですが、勉さんってどんな人だったんですか?
ありま 一言で言うと「迷惑な人」ですね! 人が困るのが大好きだから理屈をこねて他人を困らせるし、相手がうろたえればうろたえるほどうれしいんだけど、特に困らないで平気だと逆にむくれちゃう。
あと、寂しがりやでもありました。そのへんは赤塚先生にも似ていたと思います。赤塚先生もいざとなるとシャイな人で、テレビの取材を受けたりすると照れ屋だからお酒を飲んでから行ってました。「緊張してしゃべれない」と言ってましたけど。だから赤塚先生と勉さんはウマが合ったんだと思います。
――お酒といえば、勉さんはお酒はどうだったんでしょうか?
ありま それが、赤塚先生と知り合うまでは全然飲まなかったんですよ。どうやらお父さんがけっこう飲む人で、何があったのかは知らないですが、それを反面教師にして飲まなかったようです。その後赤塚先生と知り合ってからは飲むようになって、「俺は自分で下戸って言う奴のことは信じねえ」とか言ってました。
――へー! 意外ですね。
ありま だから『あだち勉物語』の1巻のあたりの時点では、本当は全然飲んでないんですよ。酒も飲まずによくあんな馬鹿騒ぎができるもんだなと思いますけど(笑)。その後、充さんのマネジャーをやるようになってからは、もう朝起きたら飲んでるような感じでした。編集者と飲みに行ったりという用事もあって、「飲まないわけにはいかない」って言ってました。
――お酒以外の遊びも、ありま先生はいろいろと勉さんに教えられたりしたんでしょうか?
ありま 教えてもらうというより、逃げられないんですよ。「必ず来い」「いくらお前が独立して単行本を出そうが偉くなろうが、師匠は俺だ」「選んだお前が悪い」っていう理屈ですから。だからもう、いろんなところに引きずり回されました。やっぱり麻雀が一番多かったですね。フジオ・プロで麻雀を広めたのも勉さんだし、1人でフリーの雀荘行ったりしてましたよ。夜中に緞帳張ってやってるような、ヤミの雀荘とかも付き合わされましたね。
――おお、それはまたアンダーグラウンドな……。
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