「何でもありの境目ギリギリを突いていく」 『テニスの王子様』連載開始から22年、原作者・許斐剛がファンの想像を超え続ける原動力(2/2 ページ)
アニメ、ミュージカルと多方面に展開される人気作。
「『新テニスの王子様』へつながる伏線があちこちに含まれている」 数えきれないほどのイースターエッグ
―― 記者自身20年来のテニプリファンです。試写ではせりふや小物に、オールドファンならピンとくるアレコレに震えました。
許斐 細かな小ネタはかなり入れています。今まで『テニプリ』を見たことがない人たちに見てもらいたい映画として作っていますが、同時に連載開始から22年間応援してくださったたくさんのファンの方たちも、ものすごく喜ばせたい。ですからファンが見たかった要素を、この映画にいろいろ突っ込んでやろうと。
桜乃と一緒にリョーマが冒険するのは、私たちにとっても冒険です。タブー扱いでなかなかできなかったことが映画だからこそできる、挑戦したいという側面もあって。その中にファンの方にしか分からないことを、さりげなく入れ込んだりしています。
―― 個人的に、教会のシーンは「20.5巻(2003年発売のファンブック)からの伏線だ!」と感動しました。
許斐 詳しいですね(笑)。そこは私もこだわったポイントで絶対入れてほしい要素でした。リョーマのせりふにかぶせて汽車が通って声がかき消されるなど、イメージが全部あったので、監督に伝えてできる限りストーリーに落とし込んでいただきました。
2人のデュエット曲「peace of mind〜星の歌を聴きながら〜」に出てくる歌詞にも『新テニスの王子様』に登場する桜乃のせりふが隠されています。今回の映画は『テニスの王子様』最終回後のストーリーで、『新テニスの王子様』へつながる伏線があちこちに含まれています。ちょっとした発見とか気付きを楽しんでもらえるとうれしいですね。
「誰かさんに似てきたなと思いながら見ています(笑)」 負けず嫌いが『テニプリ』を育てた
―― アニメだけでなく、実写映画や中国での実写ドラマ化、そしてミュージカルと多方面でのメディアミックスに成功。特にミュージカル版は2.5次元舞台というトレンドの火付け役になりました。歌って踊るという意味で今回の映画には、「ミュージカル『テニスの王子様』」からの影響が感じられます。
許斐 ミュージカルやアニメには今回のプロジェクトに限らずいつも刺激を受けていますし、負けないようにという思いが強いです。アニメやミュージカル、各メディアの関係者がそれぞれ「原作に負けないように」と作ってくださって、相乗効果で「もっといいものを作ろう」とどんどん高まっていくのが『テニプリ』です。お互いライバル関係を楽しんでいるというか、みんな負けず嫌いなんです。
原作が頑張っていたらアニメも頑張るぞ、ミュージカルがこんな新しいことをやったなど、みんなサプライズ好き。誰かさんに似てきたなと思いながら見ています(笑)。
でも、一番刺激を受けているのは私なのかな。とにかく原作が負けたらダメ、私は絶対誰にも負けてはダメだという思いは常に持っています。原作が面白くなければ発展していかないですし、作品が終わってしまう。誰よりも働こうと思っています(笑)。
―― 2021年6月に出演した誕生日記念の配信中に「睡眠時間を削れば何でもできる」とおっしゃっていました。そこまでやれる原動力は?
許斐 ファンの方々が喜んでくれるものを作ること。もうそれしかないですね。自分が喜ぶ漫画を描いたことはない。自分のためには一切描いていませんし、読んでくれる人が喜んでくれるものをとにかく作りたい。
映画やライブも、「じゃあこの漫画をもっと読んでもらうためにはどうすれば?」と考えたとき、新しい試みがきっかけで気になった人が漫画にきていただければいいと挑んでいます。そうしていろんなアプローチをやっていくうちに、いつの間にかハッピーメディアクリエイターという肩書がつきました。
―― いつも驚かされっぱなしです。映画でいえば、一作目「劇場版 テニスの王子様 二人のサムライ The First Game」の終盤に恐竜が出てくる展開とか……。
許斐 あれはすごかったですね!(笑) 試写会で見たとき、リアクションを抑えるのが本当に大変で。隣で見ているお客さんに気付かれないように必死でこらえていました。でも恐竜を滅ぼしているし、「なんだこれ!?」って(笑)。
「二人のサムライ」も製作には初期段階から関わっていました。キャラの設定やストーリー展開、テニスシーンの細かい演出。でも恐竜の話は一切出ていませんでしたし、事前に聞いていませんでした。さらに水中でもテニスしていましたね。「すごいな、これ」って驚かされました。
これも負けず嫌いが生んだ産物だったんです。アニメのキャストさんたちも一切漏らさず、「先生へのサプライズ」「先生を驚かしてやろう」とあのシーンに取り組んでいたみたいで。それではこっちは恐竜に負けないように、何を滅ぼしてやろうかと刺激になりました(笑)。
―― 『テニプリ』らしいエピソードですね。
許斐 だけど漫画として、越えてはいけない壁というか一線はあります。そこを超えてしまうと、一気に全てのリアリティーがなくなってしまうので、ボールとラケットはまず持っている、これが大前提です。このラインを超えたら「もう何でもあり」という境目ギリギリを突いていくのがプロだと思っています。このバランスを楽しめたら、もっと『テニプリ』を好きになってもらえるんじゃないでしょうか。
『テニプリ』ってある意味で劇薬のような漫画。その楽しさを知ってしまったら、普通の漫画じゃ物足りなくなると思っています。そうやってどんどん上がっていく読者のハードルの、さらにその上を越えていきたいのです。
『リョーマ!The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様』
9月3日(金)全国ロードショー
制作・配給:ギャガ 製作:新生劇場版テニスの王子様製作委員会
(C)許斐 剛/集英社 (C)新生劇場版テニスの王子様製作委員会
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