日本新聞協会は、京都アニメーション放火殺人事件後に実名報道に関するさまざまな意見が寄せられたことなどを受け、同協会の考えを一問一答形式で公表しました。
そもそも、「なぜ事件の犠牲者を実名で報じるのか」。この問いに対してはまず、「誰が被害に遭ったのか」という事実は、その核心に当たるとしました。
同協会は、「被害に遭った人が分からない匿名社会では、被害者側から事件の教訓を得たり、後世の人が検証したりすることもできなくなる」と強調。殺人事件を例に、被害者の情報が「女児」だけだった場合に比べ、具体的な名前も公開されれば、犠牲者がより身近に感じられ、再発防止に向けた制度改善などの議論を促す力になると主張しています。
「実名の報道は報道側の利益のためではないのですか?」という問いについては、「名前は、個人が群衆の中にいる『ワン・オブ・ゼム』ではなく、唯一の存在であることの証です。報道には、そのことを社会で共有するという役割があります」と回答。
実際に遺族から、「報道で娘の死が伝えられ、たくさんの人が葬儀に参列してくれた」「事故の悲惨さは実名があることでより具体的に伝わり、共感を得ることができる」「名前は個人を識別する重要なものであり、次男は大勢の中の一人ではない。次男は11歳で命を奪われたが、彼なりの人生があり、その人生が抹殺されてよいわけがない。『少年』などと書かれれば、豊かな人生がなかったことにされる」という声が寄せられたと記しました。
一問一答ではその他、遺族の思いを尊重したうえで実名の必要性を事件ごとに判断しており、当初は実名でもその後に匿名にする場合もあるなどとも回答。SNSなどネットの世界でデマや間違った情報が拡散されているなかで「犠牲者や遺族を誹謗中傷したり、尊厳や名誉を傷つけたりする言説は、ネット上だけでなく、いかなる場所であっても許さない姿勢を明確にし、是正に役立つ報道に努めています」と表明しています。
この声明に対しTwitterでは「簡単な問題じゃないことをなんとか丁寧に短く伝えようとしている」と理解を示す意見のほか、「被害者の遺族の意思より重要なものって、何ですか?」という批判も多く見られました。
また、京都アニメーションの代理人を務める桶田大輔弁護士はTwitterで、「当職の個人的な見解です」とした上で、「(声明を)一読して悲しみ、そして憤りに近い強い違和感を覚えました」と批判。京都アニメーションが志をつなぐため今なお必死に戦い続けている事実を「一顧だにすることなく、軽々に同社の名前を含んだ事件名を挙げた」ことなどに「想像力に欠けた非礼なふるまいをされたことについて極めて遺憾に思います」とつづっています。
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