利用客激減、大赤字、そして廃線へ? 「地方ローカル鉄道の役目」はもう終わったのか:月刊乗り鉄話題(2022年5月版)(1/4 ページ)
いま、鉄道業界では「赤字路線をこのまま維持していくべきか」が深刻な問題です。「え? あの路線、廃線になってしまうの?」「そもそもなくす必要あるの?」──。そんな素朴な疑問を冷静にひもといて解説します。
2022年は日本初の鉄道開業から150周年にあたります。開業日は10月14日、旧暦の9月12日です。既に4月から記念行事がいろいろ始まっています。JRグループは各地でポスターを展開。4月27日正午にJR東日本と東武鉄道のSLが「汽笛吹鳴」を実施しました。4月28日と29日は京都鉄道博物館で新幹線500系電車とSLが汽笛を鳴らしました。記念グッズとして、JR全駅入場券セット(お値段なんと70万円)も発売されます(関連記事)。記念ツアーも予定されているとのこと。乗り鉄にとって楽しい話題が続きそうです。
その一方で、鉄道業界にとって「赤字路線をこのまま維持していくべきか」が今、深刻な問題となっています。
JR西日本は2022年4月11日「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」という報道資料を公開しました。内容をざっくりとまとめると以下の通りです。
- 沿線の人口が減って乗客も減った
- 道路整備や道路中心のまちづくりによって鉄道が選ばれない
- 鉄道は自動車に比べてきめ細かな移動要望に対応できない
- 鉄道の本来の特性「大量輸送」を発揮できない
- 利用者が少ないため、環境負荷が大きい
- 地域のまちづくりに合わせた利用しやすい地域交通体系が必要
- まずは輸送密度「2000人/日未満」の線区を考えていきたい
併せて、課題解決資料として対象線区の利用者数と収支を公開しました。
JR西日本が公開した在来線の線区別利用状況(2019年度実績)。オレンジ色が輸送密度2000人/人未満の「廃止・転換対象」と位置付ける線区で、30線区ある。なお、これはコロナ禍前の数値のため、2022年現在はもっと悪化していると思われる(出典:JR西日本「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」)
「輸送密度」とは、年間で1日1キロメートルあたりの平均乗車人数です。この数字が大きいほど、利用者数が多く、公共性が高いといえます。詳しくは後述します。
「線区」は路線の一部で、利用度、車両の運用などの都合で区切った区間です。例えば東海道新幹線は東京〜新大阪間の路線名で、そのうちの「東京〜名古屋間」「名古屋〜新大阪間」など一部区間を線区と呼びます。
今回はこの「赤字路線どうする問題」について、「これ、どういうことなの?」「これからどうなるの?」「ここで挙がった線区は廃止決定なの?」など、多くの人が感じた疑問をピックアップして、冷静に解説していきましょう。
Q:JR西日本が発表した対象線区は廃止確定なのですか?
A:廃止と決まったわけではありません。
JR西日本は鉄道事業の会社ですから、現場で働く人々は鉄道を続けたいはずです。国鉄から国民の財産と言うべき鉄道事業を引き継いだからには維持する責任もあります。しかし、民間企業として赤字事業はやめたい/なくしたい。そこで「どうしましょうか」という提案が「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」です。
過去のローカル線問題の決着方法としては、
- 沿線自治体が補助金などの手当てをして鉄道を存続させる
- 沿線自治体が第三セクター鉄道会社を設立して鉄道路線を引き継ぐ
- 鉄道路線として代行バスを運行する
- 鉄道を廃止し、そのあとは自治体がバスやデマンドタクシーに補助するなどで交通を維持する
などがあります。
これらの選択肢からどれを選ぶか、という話し合いが始まります。県や自治体が「どうしてもJR西日本に交通を担ってほしい」と考えるならば、JR西日本は「コストの低い交通手段」つまり、バスの運行を選択するでしょう。
Q:JR西日本のローカル線問題が「いま」急浮上した理由は? コロナ禍と関係ある?
A:ずっと前からローカル線存廃問題はありました。もちろんコロナ禍も関係があります。
ローカル線の存廃問題は長い歴史があります。
1964年に「国鉄」が単年度赤字になり、1966年からは繰越利益も底を突き、赤字の累積が始まります。完全な赤字です。そこで1968年に国鉄総裁が今後の運営方針を問うため国鉄諮問(しもん)委員会を設置しました。諮問委員会は「役目を終えた83路線を廃止またはバス転換すべき」と答申(とうしん)しました。ここから鉄道を廃止したい国鉄と、鉄道を維持したい沿線自治体の闘いが始まっています。
1964年といえば、東海道新幹線が開業した年です。世界的に鉄道の斜陽化が認識された時代に、鉄道の可能性が再認識されました。しかし、それは大都市間に限った話です。
国鉄の赤字は都市部路線への投資が理由の1つです。経済の成長とともに都市部に人口が集まり、通勤需要が急増しました。同時に自動車が普及し、道路も整備されました。地方路線の利用客が減り「役目を終えた83路線」となりました。
当時の赤字路線廃止問題は、国鉄末期に「廃止」「バス転換」「第三セクター鉄道で存続」「条件付き存続」で決着しました。「条件付き存続」は、代替する道路が未整備、冬期など道路が閉鎖する地域の路線です。
しかし、国鉄は赤字路線の整理だけでは問題を解決できず、最終的には分割民営化して現在のJRが発足します。
JRの基本方針は「引き継いだ鉄道を維持する」でした。その後、JR東日本、JR東海、JR西日本は大都市の黒字路線で稼ぎ、赤字路線を補填しました。JR北海道、JR四国、JR九州は経営安定化基金を運用し、路線全体を維持してきました。
しかし、都市の人口集中と地方の過疎化、少子高齢化によって、鉄道の経営環境は変化しました。記憶に新しいところではJR北海道が2016年に公開した文書「当社単独では維持することが困難な線区」で「輸送密度2000人/日未満」の13線区が公表されました。地域との協議が進み、2022年現在、3線区が廃止決定、1線区がバス転換予定となっています。
このように、ずっと前からJRに限らず鉄道事業者のほとんどが「赤字路線をどうにかしたい」と考えています。それでもなんとか維持してきました。「公共交通の担い手として責任を果たしたい」とも考えているからです。
そこに発生したのがコロナ禍です。JR西日本の場合は、収益源である大都市近郊路線や新幹線、特急列車の収益が激減しました。黒字の路線から十分な利益が出なければ、赤字ローカル線を補えなくなります。これが今回、JR西日本のローカル線存続問題が再燃した理由です。
JR九州も路線別収支を発表しています。JR東日本も路線別収支の公開を検討しているとのこと。
今後、このようなローカル線問題が全国レベルで起きると思われます。
芸備線へ筆者が2016年7月26日に乗ったときは乗客4人。夏休みで学生が少なかったかもしれないが、同年12月の夜に乗ったときの乗客は筆者1人だけだった。途中の駅で停車中に運転士さんが私の席にやってきて「寒くないですか」と気を使ってくれたほどだ
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