朝、静かな時間帯に鳥の声が聞こえることがあります。あのさえずりの主はどんな姿かな? いつもこの時間にやってくるのかな? とふわりと興味を持ってみても、いつのまにか慌ただしい日常に紛れてしまったり。しかし、今回の同人誌なら! 鳥の姿をたっぷり追っていく旅路をじっくり楽しむことができます。
今回紹介する同人誌
『九州北部 鳥見旅行記 -春のシギ・チドリ・カササギ観察-』A5 40ページ 表紙・本文カラー
著者:のとりや、でこぱち商店
シギチってどんな鳥? カササギはどこにいる? 鳥を見に行く旅に出る
このご本には「シギチ」や「カササギ」を見るために、お二人の作者さんが2021年4月に九州を旅した様子がまとめられています。なお、シギチとは、野鳥のシギ、チドリを指す言葉のことで、渡り鳥であるシギやチドリは春と秋に日本にやってきて、干潟や海岸、河原や田んぼでも見掛けることができるのだそうです。広い干潟を有する九州の有明海には1万羽を超えるシギチたちが来訪、さらに九州北部はカササギの生息地でもある“野鳥天国”なんですって。シギチ大好きなのとりやさんと、カササギ大好きなでこぱち商店さんは、お二人で現地を見に行くことに。
鳥と土地をイラスト、マンガ、写真、テキストで紹介
そういえば、シギとチドリの2種類がまとめて「シギチ」と呼ばれているってことは、よっぽど一緒に居るのでしょうか。姿も似ているのかな? とページをめくっていくと、シギチがどんな鳥たちか説明されていました。ずいぶん遠くから飛んでくるんだなぁ……あっ、シギ科とチドリ科、それぞれいろんな種類がいるんですね!? と、「シギチ」と一言にまとめられていた中の多様さが、愛らしくもすっきりとまとめられたイラストでひもとかれます。
そんな解説を皮切りに、ラムサール条約登録湿地3カ所を巡った様子が紹介されていきますが、干潟で見た具体的な鳥のこと、鳥と出会った時のこと、干潟の性質などなど、見逃せない旅のあれこれがページ内に詰まっているんです。その紹介方法も、写真たくさん、イラストはもろちん、文字での解説もあり、マンガも織り込まれ、さらに来訪した地の周辺の観光スポットにも言及……と、紙面のバラエティーさがとっても楽しいです。お二人それぞれの観点や表現方法が、一冊の中で行き来することで多彩な魅力が生まれるのは、どことなく、いろんな種類の鳥が干潟で共に過ごしているのに似ているような……。そんな印象すら受けるにぎやかさです。
見つける楽しさ、感じる楽しさをほがらかに
とにかく鳥たちがたくさん! とその豊かさを堪能しながら、一方では見られなかったときでも、このご本ではずいぶんと面白そうなんです。湿地を歩いたときの触感、耳にする鳴き声、時にはなんと「お目当ての鳥に出会えなかった」スポットの紹介も。せっかくはるばるやってきたのに、目的のものに出会えなかったらがっかりな気持ちを引きずってしまいそうですが、お二人の足取りは軽やかに見えます。
かわいい鳥がやってくる地を歩き、空を仰ぎ、時に地面に寝っ転がって、その場を体感していく様子は、現地に行ったからこその臨場感。野鳥の愛らしさと同時に、鳥たちがやってくる場所を人も一緒に楽しめる、それってうれしいことなんだなぁという気持ちがふつふつと湧いくるご本でした。
サークル情報
Twitter:のとりや(@notoriyabird)、でこぱち商店(@decop_WC)
入手できる場所:でこぱち商店
次回イベント参加予定:デザインフェスタ(11月19日、でこぱち商店のみ出展予定)、博物クリスマス(12月10日〜11日、両者出展予定)
今週の余談
今回のレビュー本『九州北部 鳥見旅行記 -春のシギ・チドリ・カササギ観察-』は現在のところ在庫に余裕はアリですが、今後の増版予定はナシとのお話でした。ご本の旅の季節は春なので、いま入手して次のシーズンに備えるのも良いかもですね。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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