“サメ映画時代”の終焉を告げる? 爆笑ホラー「キラーカブトガニ」レビュー カブトガニがバラエティ豊かに人間を襲うオタクパワーぶちまけ映画(1/2 ページ)
カブトガニに萌えて燃える爆笑ホラー。
映画「キラーカブトガニ」が1月20日から劇場公開されている。キャッチコピーは「サメの時代は終わった」。これは、1975年の「ジョーズ」の大ヒットから現在に至るまで脈々と続いているサメ映画の歴史への挑戦と受け取れるだろう。
大胆な宣戦布告だが、なかなかどうして、80分という短い尺いっぱいに詰まったサービスの数々、映画とカブトガニと日本のコンテンツ(!)への愛がこれでもかと伝わる内容を思えば、そのコピーをつける自信のほどは十分に理解できた。さらなる魅力を紹介していこう。
「グレムリン」のようにやんちゃなカブトガニに萌える
本作のあらすじは、「凶暴化した生物が次々と人間を食い殺す」という、それこそ星の数ほど作られてきたパニック映画の王道である(が、後述するようにそれ以上のサプライズも込められている)。
だが、やはりカブトガニをフィーチャーしたことは斬新だ。これについて、ピアース・ペロルゼイマー監督はこう述べている。
「『どうして誰もカブトガニの映画を作っていないのか?』と、長年疑問に感じていました。僕はひっくり返ったカブトガニの姿を見るたびに『こいつらは人の顔でも食べそうだな』と思っていたんです」
まさにコロンブスの卵。「言われてみたら確かに」と納得せざるを得ないコメントである。劇中では、意志を持つルンバのようにチョロチョロと近づいてきて、「エイリアン」シリーズのフェイスハガーのごとく勢いよく顔に張り付いて血肉をむさぼるカブトガニの姿が描かれる。「これがやりたかったんだな」とほほえましい気持ちになったし、その後も「グレムリン」のごとくやんちゃの限りを尽くすカブトガニたちがかわいらしくも見えてきた。
B級映画やZ級映画ファンであれば「カブトガニたん、いっぱい(人間の血肉を)食べてる! かわいい〜!」と萌えること間違いなし。後述するクライマックスにはとんでもない燃え展開があったり、さらにエンドロールで流れるとある曲が中毒性たっぷりだったりと、観客に楽しんでもらうための要素がてんこ盛りなのが、この「キラーカブトガニ」の何よりの美点だろう。
障がい者の描き方にみる志の高さ
主人公のフィリップが科学オタクの車椅子に乗った少年だということも特筆すべきだろう。彼には車椅子をいつも押してくれる仲睦まじい恋人がいるが、保安官の兄とはギクシャクしてしまうこともある。
そんな彼がどのようにプロムに参加し、人間として成長し、そしてオタク能力を駆使して殺人カブトガニに立ち向かうのか? というドラマもちゃんと楽しめるようになっている。
また、留学生の少年・ラドゥは、空気が読めずに場違いまたは軽率な発言を繰り返し、劇中で明言こそされないが、発達障害の傾向を思わせる描写が積み重ねられる。これにより周りから軽んじられることもあるのだが、そんな彼の意外な活躍も本作の見どころとなっている。
映画に障がい者を積極的に登場させ、それでいてむやみやたらに良い人として描かない作家には「メリーに首ったけ」などで知られるファレリー兄弟監督がいる。この「キラーカブトガニ」も同様に障がいを持つキャラクターを中心に添えながら、同時にありのままの人間性も描いており、多様性が求められる現代のエンタメにふさわしい志の高さを感じさせた。
さらに、主人公の兄である保安官、恋人の母である教師との関係性もなかなかに尊く、「兄弟愛」や「家族愛」の要素も備えていることがうれしい。彼らがどのように結託し、絆を深めていくのか。そのドラマの先にはそれなりの感動があった。あくまでもそれなりにだけど。
ネタバレ厳禁のクライマックス
中盤にて、カブトガニはとある「変身」をする。フリーザの第2形態のごとく激しく姿形を変えたカブトガニたちがさらにゴージャスに人間を襲う地獄絵図はなかなかに気合いが入っており、低予算でもできる限りの血みどろで観客をおもてなししてくれるのがうれしかった。
なお、本作の完成までにかかった期間は撮影開始から数えて6年。さらに、VFXには「X-MEN:ファイナル ディシジョン」「パシフィック・リム」のジェームズ・オジャラ、「スネーク・フライト」「アクアマン」のダニエレ・ヴェルカントらハリウッド大作に携わるスタッフたちが参加している。一見チープのようでいて、実はしっかり時間をかけて作られているのだ。
そして、何よりの見せ場はネタバレ厳禁のクライマックスである。てっきりカブトガニがフリーザの第3形態的なものになるかと思いきや、まさかの……! こんなバカなこと(超褒めてる)を、しかし全力でやりきってしまう、映画のジャンルすら変わってしまう大胆な挑戦は称賛せざるを得ない。
確かに「そうなる」伏線そのものはちゃんと用意されていたものの、それに至るまでのロジックはまあまあガバガバだった気もしなくもない。だが、作り手のオタクパワーを全てぶちまけたようなとんでもない光景をスクリーンで目の当たりにして「もう全てをゆるす」気持ちになってしまった。
何より、このクライマックスは、とある日本のコンテンツにリスペクトをささげているのがまた素晴らしい。監督はパンフレット掲載のインタビュー(ネタバレ注意)で日本の作品についてたくさん語っており、「やっぱりそれとかあれとかが好きだったんだな!」と大納得できるので、気になった方は読んでみることをおすすめする。掛け値なしに素晴らしい、あのラストシーンが生まれた理由も、きっと分かるはずだ。
立川シネマシティで最高の音響で上映される暴挙(超褒めてる)
さらに注目したいのは、東京・立川市の映画館のシネマシティで「キラーカブトガニ」の「極上爆音上映(以下、極爆上映)」が行われていることだろう。筆者もこちらで鑑賞したのだが、映画館公式の文言は以下のようなものである。
「カブトガニなら、シネマシティ。打撃音も衝撃音も爆発音もまかせろ。ただ、超ハイスペックなサウンドシステムと、音響家による綿密な調整を行って贈るが、作品柄クオリティはさほど期待しないでいただきたい」
なんと正直な宣伝文句だろうか。さらには、以下のような文言もある。
「超大作や人気アニメを大きなスクリーンで、ハイクオリティで上映することなら、どこでもできるし、やっている。
なぜこの国にシネマシティーが必要なのか?
その答えがこれである」
これが答えなのか。確かに、シネマシティは「ガールズ&パンツァー 劇場版」「アイの歌声を聴かせて」「バトルシップ」「バーフバリ」2部作などファンから愛される映画を、最高の環境で届けることに定評のある映画館である。そのサービス精神が行き着いたのが「キラーカブトガニ」の極爆上映だったとは。これができるのはシネマシティだけだろう。これからも通います。
もちろん、シネマシティ以外の劇場で観るのもOK。例えば、神奈川・横浜市の映画館のムービルの公式Twitterでは、スタッフみんながカブトガニに食べられている楽しそうな姿を投稿しており、上映にかける意気込みを感じさせる。
なお、あらためて強調しておくが、「キラーカブトガニ」は“わざわざ映画館まで赴いて観る価値”が十二分にある。
本作はコメディーに振り切った内容でもあるので、かわいいカブトガニたちがバラエティ豊かに人間を襲う様や、クライマックスのサプライズにより観客から笑い(時には爆笑)が漏れる体験を存分に共有できる。特に最後の最後で、とあるカブトガニへの愛にあふれた、段階的に表示されるテロップを見た観客たちからの「ブフッ」「ハハッ」といううれしそうな失笑を聞いた時の感動はプライスレスだ。
「キラーカブトガニ」のタイトルや内容を知り、少しでも「これは見なきゃ!」と思ったごく一部の人は劇場へ急ぐしかない。またとない映画体験が、あなたを待っている。
(ヒナタカ)
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アイデアは良かったのですが。