岩本ナオさんの漫画を原作とする劇場版アニメ「金の国 水の国」が1月27日より全国公開中です。
同作は、100年にわたって敵対する2つの国を舞台としたファンタジー。豊かな水と緑に恵まれた“水の国”随一の賢さを誇る家族思いの建築士・ナランバヤルと、水以外はなんでも手に入る“金の国”のおっとり者にして第93王女・サーラが、「偽りの夫婦」を演じることから始まる“奇跡”を描いています。
神谷浩史さんが“金の国”左大臣のサラディーン役を担当する他、戸田恵子さん、沢城みゆきさん、木村昴さんらベテランのキャストが脇を固める同作。主演を務めた賀来賢人さんと浜辺美波さんの2人に、ナランバヤルとサーラという個性豊かなキャラ、2つの異なる国を舞台にした作品世界の魅力をうかがいました。
2人から見た主人公たちの魅力とは?
―― 最初に出演オファーを受けたときにどのようなことを感じましたか?
賀来賢人(以下、賀来) 物語がとにかく壮大、かつ大人から小さい子どもまで楽しめるエンターテインメントで、それこそ政治的な部分や国同士の争いなどの側面もありつつ、テーマがすごく普遍的。
なので、幅広い人に見てもらえる映画になるんじゃないかなと思いました。あとはナランバヤルとサーラという主人公たちがとってもすてきだったので、すぐに「やります!」とお返事しました。
浜辺美波(以下、浜辺) 岩本ナオ先生の(最新作である)『マロニエ王国の七人の騎士』は読んでいたのですが、『金の国 水の国』は存在を知ってはいたものの、オファーをいただく前は読んだことがなくて。初めて読ませていただいたときに、1冊の中に壮大な物語が全部入っていて、本当に感動しました。
「映画になったらとても面白いだろうな」と思いましたし、私自身も(原作を読んでいて)温かさに包まれたので、そんな幸せを届けられる作品に携わることができたら光栄だな、と思ってお受けしました。
―― 今出てきた『マロニエ王国』にはどんな感想を抱きましたか?
浜辺 作品の世界観が大好きで。お姫様と騎士の設定にすごく引かれたのと、物語が一貫してドロドロせずに柔らかいタッチで、心に負荷なく読み進められました。
―― お2人が演じた役についての印象や好きな点など教えていただけますか?
賀来 ナランバヤルは、普段だとちゃらんぽらんというか、なんか抜けているようにみえて、でも非常に知的で頭の回転も速い人。
あと彼のセリフが結構好きで。ちょっと哲学的なのに、無理せず形にしているというか、自分の中にスッと入ってくるのがとっても魅力的だなって。その分、毎回演じる際に大きなプレッシャーを感じていた記憶があります。
―― ちなみにご自身が作中で好きな言葉は?
賀来 言ったのではなく言われた側なんですけど。サーラがナランバヤルに語り掛ける「いつでも、難しい方の道を選んでください」というセリフはめちゃめちゃ響きました。「はい! 分かりました!」って(笑)。
―― (笑)。サーラについてはいかがでしょうか?
浜辺 サーラは、自分にとって最善だとしっかり判断してから行動する部分が、すごく賢い人だなとずっと感じていて。
かつ“おっとりしている”性格上、登場するだけで周りが柔らかくなるような空気感を持っているところに、原作を読んだときから癒されていました。
―― お2人は実写映画でも幅広く活躍されています。アニメ映画と比べた際、演じ方で異なる部分はありますか?
賀来 どちらも“表現する”という意味では一緒なんですけど、やり方が全く違いますね。お芝居だと表情や演技で補える部分が、アニメの場合は声のスピード、高さ、音圧など、テクニック的な部分がより必要になってきます。
だから毎回打ちひしがれるんですけれど、音響監督さんに納得いくまで指導していただき、テイクをかなり重ねて徐々に精度が上がってきました。完成した作品を鑑賞したとき、「自分の声なんだけどキャラに乗ってるな」と感じられたので感動しましたし、ちょっと自信にもつながりました(笑)。
浜辺 私もそう思います。プロの方のお仕事をそばで見ていて、役作りから全くやり方が違っていて、技術職に近い要素が半分以上を占めているんだなと。
声のお仕事に関しては、毎回リセットされてイチから学び直している感覚が常にあるため、すごく難しい印象があります。
アフレコ中には難事も「息が吸えなくなって」
―― ナランバヤルはちゃらんぽらん、サーラはおっとりした一面を持ちつつ、大事な部分は決して譲らないという芯の強さがあります。複雑な面を持つキャラで演じるのに苦労されたと思いますが、特に難しかった点は?
賀来 (しばらく考えて)「ここは大事なセリフ」なんだと思えば思うほど難しかったですね。「ここは物語上大事なポイント」「お客さんにちゃんと一番届かせたいポイント」ってあるじゃないですか?
そうした箇所をうまく演じようと意識すればするほど、喉がどんどん締まっていく感じ、どんどん窮屈になっていく感じがかなりありました。
―― プレッシャーで発声がうまくいかない、と?
賀来 なんでしょうね? こうした困難をどうやったら克服できるかという戦いがアフレコ途中で始まって。
―― 音響監督からはその点について、なにか指示やアドバイスは?
賀来 僕が一貫して指示されたのは「流れるように言ってほしい」。しゃべり方はもちろん、声に乗せる気持ちもテンポも「止まらずに流れていく感じ」を意識してほしい、と。そこは感覚的にいつも意識していました。
―― 浜辺さんが難しく感じた箇所はどこだったでしょうか?
浜辺 サーラはおっとりとしたキャラで目立つ動きがない点に悩みました。キャラに動きがあれば口調などとりわけ意識しなくても、しぐさなどで見ている側に十分伝えることができるのですが、声だけになってしまうと本当に難しくて。アフレコでは、想像していたより3倍ぐらいゆっくり言ってほしいという指示があって、何回もテイクを重ねました。
自分がちょっと焦りがちの性格なところもあって、思っているよりも少し早く読んでしまうので、そのクセをまずそぎ落として慣れていきながら、緊張をほぐしていきながら……という感覚でした。
先ほど賀来さんがおっしゃったように、緊張すると喉が固くなりますし、同じ部分を何度もやり直すうちにだんだん酸欠状態になって息も深く吸えなくなってくる悪循環に一瞬陥ったこともありました。
―― なおさら焦ってしまいそうです。
浜辺 そうなんです! 高まっている気持ちのままでいきたいので、「このままお願いします」と言うものの、呼吸が苦しくなってしまって。自分では余裕をもって演じていると思っても、逆に息が続かなくなってしまうこともあった気がします。
―― 大変でしたね……。お互いのキャラ、声の印象もうかがえますか?
賀来 僕のイメージするサーラ像と、浜辺さんの声がピッタリすぎて「ヤッベェ!」って、汗が急にどっと出た記憶があります(笑)。そのぐらいハマっていたので、「うまいなぁ……」と思いながら聞いてました。
―― 賀来さんがイメージするサーラ像はどういったものだったのですか?
賀来 上品で優しさがあるだけでなく、強い。いろいろな要素が混ざっているんですが、一番は王女が持つ“品”に集約されるのかなと。浜辺さんの「ちゃんと品がある」声ってすごいですよね。だから「ヤッベェ!」って(笑)。
―― (笑)。
浜辺 私はアフレコ時にとっても苦戦していて。苦手な無音状態の効果も相まって、「まだこの空間に慣れない!」という思いから、「あ、ダメ、ヤバいかもしれない」「この作品大好きなのに……」とぐるぐるよくない考えが独り巡っていました。
けれど、賀来さんがスタジオでナランバヤルを演じたときに、ずっと目にしていたキャラそのままで、かつ地に足のついた真っすぐな声がすごく刺さって緊張が軽くなりました。ホッとしたという安心感の方が近いかもしれません。作品イメージも一挙につかめたので、本当にありがたかったです。
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