仮面ライダー最大の敵「ショッカー」の戦闘員、怪人、科学者、幹部、そして首領。彼らの正体は何なのか? なぜ悪の組織の一員となったのか?
1971年テレビ放送の「仮面ライダー」によると、ショッカーのメンバーは近未来のバイオテクノロジーで改造されて異形の存在となった。しかし、組織やメンバーの過去を詳しく説明するエピソードはなく、モヤモヤした視聴者も多かっただろう。
この謎に答える作品がついに出た。2022年12月から『週刊ヤングジャンプ』で連載中の漫画『真の安らぎはこの世になく-シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』だ。2023年3月17日公開予定の映画「シン・仮面ライダー」(庵野秀明監督)の前日譚となるスピンオフ作品で、漫画脚本を山田胡瓜、作画を藤村緋二が担当。テーマはずばり、ショッカーの過去だ。
石ノ森章太郎漫画版を受け継ぐ作品
『SHOCKER SIDE』に登場する科学者・緑川弘は、秘密結社「SHOCKER」に勧誘され、バイオテクノロジーの研究に没頭する。組織の研究所であげた成果は、「人類の持続可能な幸福」という名目で軍事利用され、世界中の紛争地域で実戦投入される。それは緑川にとって不本意なことだったが、夢の新技術を使えば、意識不明の重体となった妻を救えるという希望を抱いていた。しかし緑川の努力むなしく、命のタイムリミットは容赦なく迫っていて……というのが物語の導入部だ。
つまりこの漫画では、SHOCKERの一員といえども、最初から「悪」や「怪物」だったわけではない。元はどのキャラクターも、家族や恋人がいるような「普通の人間」として描かれる。
実は石ノ森章太郎の漫画版『仮面ライダー』(1971年)で、改造手術を受けたあとも、人間の心を失わなかった怪人が登場する。ふたり組で行動する怪人・コブラ男とへび姫メドウサのエピソードを紹介しよう。コブラ男はライダーとの戦闘中に致命傷を負い、メドウサは悲しみに暮れる。かつてふたりは恋人同士だった。そして人間だったころの名前を互いに呼び合い、コブラ男は息絶え、メドウサは後を追って自害する。この悲しき悪役はなぜショッカーに入って改造手術を受けてしまったのか? 想像が膨らむ傑作エピソードだった。
そんな石ノ森漫画版のDNAを受け継ぐのが『SHOCKER SIDE』である。本稿執筆時点で第8話が公式アプリ「ヤンジャン!」で配信中。ここまでで登場した主なキャラクターは、先述の緑川博士と10歳の息子・イチロー。緑川をリクルートしたイワン博士。「強化人間」のクモとサソリ。それぞれの過去や、恐るべき改造手術を受けた経緯が少しずつ明らかになる。そして物語は、SHOCKER内部の血みどろの派閥抗争へ突入。「これからどうなっちゃうの!?」という先の読めない展開になっている。
「エヴァ」的な展開に胸熱
『SHOCKER SIDE』は庵野監督の映画へつながる作品だけあって、アニメ「エヴァンゲリオン」シリーズをほうふつとさせる展開になっている。研究に明け暮れる緑川博士の姿は、「エヴァ」の碇ゲンドウと重なる。ゲンドウは亡き妻・ユイと再会したいという思いを胸に、特務機関「NERV」を創設する。そして汎用人型決戦兵器「エヴァンゲリオン」をつくりあげ、息子のシンジを駒として利用するという極悪非道ぶりを発揮しながら「人類補完計画」を遂行する。
振り返れば、「エヴァンゲリオン」は過去にとらわれてゆがんでしまった男の物語だった。このアニメの最終的な悪役は、使徒という謎の「怪物」ではなく、心に深い闇を抱えた「人間」だ。シリーズ完結編「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の後半部で、ゲンドウは幼少期から現在までの心情を独白し、悲痛な叫び声をあげる。やがて彼は過去と決別し、敵対していた息子との和解へと向かう。そんなゲンドウの魂の救済を描くのに、1997年のテレビ放送から「シン・エヴァンゲリオン」の公開まで、24年もの歳月が費やされた。
庵野監督は2004年のインタビューで、脚本を考えるうえで敵側の心情まで描いていると、相対化してしまって収拾がつかなくなると語っていた。だから、庵野監督自身が手掛ける映画本編と、山田胡瓜らのスピンオフ漫画の2つの作品をとおして、緑川博士をじっくり描き、再び高いハードルに挑んだと思われる。
ぼくが興味があるのは、何かが来る、それに対するリアクション、つまり防衛組織だけです。侵略する側の話はどうでもいいやって感じです。敵側まで描いていると相対化してしまって収拾がつかなくなる
「庵野無法地帯 第1回」(『特撮エース』2004年3月号から)
果たして緑川博士の魂は救われるのか? 映画「シン・仮面ライダー」の公開を心待ちにしているファンなら、『SHOCKER SIDE』は必読だ。今すぐアプリで読むもよし、3月10日発売の単行本第1巻を買うのもよし。ぜひチェックしてほしい。
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