米作家ポール・オースターが闘病中であることを3月11日(現地時間)、妻で作家のシリ・ハストヴェットが公表しました。現在76歳のオースターは『シティ・オブ・グラス』(1985年)、 『幽霊たち』(1986年)、 『鍵のかかった部屋』(1986年)の総称『ニューヨーク三部作』や、『ムーン・パレス』(1989年)などの作品で知られています。
うつむきがちにほほ笑む夫の額へキスをする写真をInstagramへ投稿したハストヴェットは、その数カ月前から体調を崩していたオースターが2022年12月にがんと診断されたと報告。現在はニューヨークのメモリアルスローンケタリングがんセンターで治療を受けており、彼女はそこを“がんの国(Cancerland)”と呼んでともに暮らしているとのことです。
多くの人がさまざまな立場や状況で国境を越え、そこで暮らしていると伝えたハストヴェットは、がんも人間の身体も1つとして同じものはないとし、「生き延びる人もいれば死ぬ人もいる。これは誰もが知ることですが、その真実に近いところで暮らしていると日々の現実が変わってしまう」と夫の闘病生活に寄り添う日々がどのようなものかをつづっています。
ハストヴェットは「“がんの国”で1人ぼっちになるのは恐ろしいことだろうと思う。がんを患い、化学療法や免疫療法を受ける人と一緒に暮らすということは、接近と分離の冒険です。気力を奪っていくような治療をまるで自分のことのように感じなければならないし、見せかけではない真の助けとなれるほど十分に離れなくてはならない。あまりに共感しすぎると、その人は使い物にならなくなってしまう!」と語っており、夫を支える中で何度も自身に問いかけ、試行錯誤を重ねてきた様子。
そして「もちろんこの綱渡りは簡単なことではないけれど、これこそが本物の愛の仕事です」と困難な日常を通し、そこへ確かな愛を感じていることを明かしています。
また、娘で米歌手のソフィー・オースターも自身のInstagramへ同じ写真を投稿し、「私たちは家族でこの旅路を乗り切っています。どうか私たちのことを思っていてください」とコメントしています。
オースターはポストモダン的手法で書かれた探偵小説『ニューヨーク三部作』で大きく評価され、1992年に出版された『リヴァイアサン』で翌年フランス・メディシス賞の外国小説部門賞を受賞。
世界40カ国語以上へ翻訳されているオースター作品は日本でも人気があり、『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』は柴田元幸さんと村上春樹さんによる翻訳も話題になりました。また、同作を原作とした1995年の映画「スモーク」の脚本でも知られています。
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