「妊娠中でも寿司が食べたい」をかなえる「加熱寿司」 3分で完売し日常用バージョンも登場、開発の背景を聞く(2/4 ページ)
「妊娠中でもお寿司が食べたい」という思いから始まり、進化し続ける「加熱寿司」。
クラファン成功も、一般販売では「ゼロベースで練り直す」こだわり
Twitterで呼びかけた渡邊さんは、当初、働いていた食品会社に提案しようと考えていたそうです。しかし、会社では他に優先するべき業務が多く、主に扱っている商品が寿司ではなかったため、実現不可能か、とてつもなく時間がかかるように思えたと話します。
「大きな会社なので人やお金といった資源は豊富にあるのですが、その分スピード感には欠けることになる。今待っている妊婦さんに届けられないのが嫌だったので、スピード感優先で自分でやることにしました」(渡邊さん)
出産後、幼い子どもを育てながらクラウドファンディングをしていたときは、「初めての育児で知らないことばかりで、不確実な子ども、不確実な事業、2つ両手に抱えていた」と余裕のないものだったそうです。クラウドファンディング成功後、退職し個人事業主「加熱寿司」として一般販売を目指します。その際、好評だったリターンの加熱寿司を、押し寿司から握りずしにするなど大きく改良を加えています。
「すべて改良したと言っていいくらい、まるっと、本当に別のものですね。クラファン時に得たノウハウやいただいたご意見をもとに、ゼロベースで練り直す、みたいなことをしました」(渡邊さん)
寿司については、シャリ酢や米の配合にこだわり、冷解凍後のシャリの品質向上を目指しました。冷凍には液体急速凍結機「凍眠(とうみん)」を新たに採用し、菌の繁殖が盛んになる10℃〜60℃の温度帯を早く通過させるなどして、安全性を高めているといいます。さらに「凍眠」で素早く冷凍することで、鮮度・味・見栄えといったクオリティを高く保っていると渡邊さんは説明しています。
「外側のお洋服と言うか、パッケージ、資材に関しても、加熱寿司の体験をより理想的に、より良いものにするために、さまざまな試作を重ねました」(渡邊さん)
お客さんが撮影した写真のなかにお寿司が崩れて見えるものがあったので、配送時に崩れない専用のトレーを金型からデザイン。また、箱を木箱にして高級感を演出しました。
目標金額の1113%を達成し、成功していると言えるクラウドファンディングですが、どのようにしてこれだけの改善点を見つけたのでしょうか。
「お客様からの意見にはネガティブなものはなかったんですけど、それはクラウドファンディングという、応援してもらえる、下駄をはかせてもらえる状態だから。それを理解していたので、ネタがどうだったか、シャリがどうだったかなど、インタビュー形式で積極的に聞きに行きました。お客さんの声だけでなく、私自身がやってみて、もっとこうしたい、もっとこうすべきだ、というところを追い求めていった部分もありました」(渡邊さん)
魚の目利き・寿司づくりには寿司職人、液体急速凍結機「凍眠」では「テクニカン」、専用トレーでは「廣川」などの企業からの協力を得て作られた「加熱寿司」。個人による事業にも関わらず、さまざまな人や企業からどのように協力を取り付けたのか。大手食品会社勤務で得たノウハウが生きたのか尋ねると、渡邊さんは「そういったこともあるけれど、ごく一部」だと答えました。
「前職で営業や海外駐在、マーケティングと幅広く経験させていただいたのと、社会人大学院の経営学修士で得た知識で、最低限の商品を世に出すためのフローというか、商品開発から販売までに何をすればいいかはだいたい分かっていました。だから、心理的なハードルも低かった。そういう意味では役立ったと思います。一方で、お寿司という『畑』や、会社ではなく個人で事業化させていく体験においては、完全に初めての経験だったので、その2つの意味では前職の経験が生きる、なんてことはなく本当にチャレンジだったなーと感じております」(渡邊さん)
店舗や企業からの協力を得るための戦略的、効率的な方法はなく、行動あるのみだったようです。
「例えば資材業者の場合、何百社も問い合わせして、断られたり、無視されたりの連続が当たり前で、その中で1社、『協力します』って言ってくれたところと一緒にさせていただいているんです。もちろん自分なりに仮説をもって考えながら動くというのが前提ですが、動かないとどんな良縁にも恵まれない。良いものを届けることで妊婦さんが喜び、我慢から解放され、パートナーから妊婦さんにギフトとして送っていただくことで夫婦関係がより良いものになって、子育てに向けて良い時間を過ごしていただければと、その一心で動いていました」(渡邊さん)
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