「『子どもいなくても幸せ』をフラットに捉えて」 “選択子なし夫婦”が抱える世間への「大きな違和感」(1/2 ページ)
Yahoo!ニュースとの共同連携企画「『子どもを持たない夫婦』のいま」の1回目では、その当事者夫婦に取材した。
近年、子どもを意識的に持たない共働き夫婦「DINKS(ディンクス)」をはじめ、子どもを持たない夫婦の形が身近になっている。Yahoo!ニュースとの共同連携企画「『子どもを持たない夫婦』のいま」の1回目では、その当事者夫婦に取材した(2回目はこちら/全2回)。
国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査によると、調査時点で結婚から5年〜9年経過した夫婦で子どもがいない人の割合は、1977年は4.2%だったが、2021年は12.3%と、長期的には増加傾向にある。
DINKSを含め、生涯にわたり夫婦2人だけで生活していくことがめずらしくなくなりつつある現代。その背景にはどのような価値観があるのか。夫婦のありのままの生活と、世間に対する違和感に迫った。
「子どもって絶対に持たなきゃいけないのかな?」と疑問が生まれた
今回、お話を伺ったのは、“子なし夫婦”に役立つ情報を発信するとうたうWebマガジン「DINKS MAGAZINE」を運営する編集長のサトミさんと、夫のケイタさん(いずれも仮名)。
年齢はともに30歳で、今年で結婚4年目。今は夫婦2人の生活を送っており、その時間を満喫している。共通の趣味もあり、食の好みも合う。特段話し合ったわけではないが、年齢を重ねるうちに自然と現在の子どもを持たない生活に落ち着いていった。
「子どもを持たないことにこだわっているわけではありません。ただ、夫婦2人の生活を楽しむ時間が限られてしまうよりは、今の生活が充実しているので、2人の時間を優先しようかな、ということで今はこのような生活を送っています」とケイタさん。
サトミさんは夫の考えに「大部分は同じ考え」としつつ、1つの疑問があったという。
「30歳が近づいて子どもを持つ友達が増えていくにつれて、『子どもって絶対に持たなきゃいけないのかな?』と疑問に思ったんです。それまでは高校、大学に行って就職をする、という大多数が歩む道を私も同じように生きていたけれど、初めて人と違う感覚を覚えました。
ネガティブな理由ではなく、夫婦2人の生活が楽しいし、私の人生をこのまま生きていきたいんだけど、ほかにそんな人はいないのかな、と」(サトミさん)
そんな疑問がDINKS MAGAZINEを立ち上げるきっかけにもなっている。立ち上げ当初に比べると、記事を作るなかで同じ価値観や考え方の人が多くいることを知った。しかし、当時は少なからず、焦りや孤独は感じていたと語る。
「まわりは結婚して1〜2年したら子どもを持つ友だちが多かったです。友だち同士で集まると『子どもを持つか持たないか』の話ではなく『子どもの人数は1人か2人か』という話題で盛り上がっていたので、寂しさはありましたね」(サトミさん)
夫婦2人の生活を支える“共通の趣味”と“別財布”
夫婦共通の趣味であるキャンプには1〜2カ月に1度は行き、普段は一緒にお酒を飲んだり、冬はスキーやスノボーを一緒にやったりする。話を聞いていると2人の生活はとても楽しそうだ。最近も3泊4日で旅行に行ったばかりだという。
「お互いに仕事も趣味もあって毎日が充実している。自分が思った通りの生活を送れるのは、“子なし夫婦”のメリットかなと思います。大人同士なので調整もしやすいですし」(サトミさん)
交際開始から数えると、今年で7年目だという。長く一緒にいればいるほど、会話が少なくなったり、話すことに困ったりするのではと思うかもしれないが、「基本、サトミがよくしゃべるので困ったことはないですね」とケイタさんはほほえむ。普段の会話はそのときどきによってさまざまだが、自然と互いの趣味の話が多くなるようだ。
2人の生活を送る夫婦は共通の趣味を持っている場合が多いと思う。交際時から趣味が同じ場合もあるが、付き合い始めてから互いの趣味に興味を持つことも少なくない。それだけ互いに興味を持ち、コミュニケーションを丁寧に取っていることの証かもしれない。
そんな充実している夫婦の生活で、気になるのは家計だ。聞いてみると、「正直、まったく管理していないです」とケイタさん。
「基本的に、家賃など家にかかる費用は僕が払っていますが、多分、僕にいくら余剰があるのか妻は知らないし、逆に妻が普段どれだけ稼いでいるのかは僕も知りません。お金についてあまり気にしたことがないですね」(ケイタさん)
「家計や貯金は夫婦で別々」というのは、DINKSにはよく見られる特徴と言って良いだろう。このことについてサトミさんは「子どもがいないから把握しなくてもいいかなと思う」と話す。
「子どもを産むとなると、女性はどうしても仕事を休むことになりますし、もしかするとスムーズに復帰できないかもしれません。そうなると、夫の収入次第で子どもを持てるかどうか、持つとして1人か2人なのかなども変わってくると思います。子供を持つなど家族計画を立てるときに、夫の収入を把握したいと感じるのではないかと思います」(サトミさん)
“選択子なし夫婦”が抱える世間への「大きな違和感」
一方、“選択子なし”について世間の目はさまざまだ。少子高齢化は喫緊の課題とされるため、“選択子なし”に対してネガティブな声が上がることも少なくない。また、経済的な理由で子どもを持たない選択をしている若者もいる。
そんな現状だからこそ、夫婦2人だけの生活を続けていくにあたり、サトミさんのように孤独や不安にぶち当たる人もいるはずだ。子どもを持たないことについてのメディアでの取り扱い方に、サトミさんは違和感を吐露する。
「どうしてもメディアでは経済的な理由だったり、特に女性側がキャリアを中断しなければならないことだったり、『子どもが欲しいけど、持てない』という点ばかりがクローズアップされがちです。『子どもがいなくても幸せ』というポジティブな意見はあまりメディアでは目にしないんですよね」(サトミさん)
少子化対策という面から考えると、確かにポジティブな意見を取り上げづらいのは事実かもしれない。では、サトミさんやケイタさんの身近な人たちの声はどうだろうか。
「私の周囲の子どもを持つ友だちは、割とDINKSに理解がある人が多いです。“選択子なし”という生き方もいいと思うって、1つの生き方として捉えてくれます。20代前半で子どもを持った友だちは『結婚したら子供を持つものだと思っていたから、当時はそんな選択肢があるとも思わなかった』って。
子どもが欲しくて持った人でも子育てが苦しい瞬間があると聞くのに、子どもが欲しくないのに持ったら子育てに耐えられないんじゃないかと思うし、“選択子なし”という生き方があると知ることで救われる人もいると思います」(サトミさん)
「僕のまわりでは、絶対に子どもが欲しいわけではないという友達がほとんどですね。子どもが生まれたら生まれたで、やっぱりかわいいよとは言われますが。ただ、子どもを持つ・持たないそのものが重要なのではなく、自分の人生をどう生きたいかにフォーカスして、子どもがいる幸せも、子どもがいない夫婦二人での幸せもあるという捉え方になっていくと良いのではないかと思っています」(ケイタさん)
確かに、さまざまな価値観への寛容性は高まっていると思われるものの、いまだに子どもを持つ・持たないという状況ばかりに注目が集まり、当事者たちの人生の幸せについては忘れられがちだ。一部では子どもを持たないことに対してネガティブな声も見られるが、その「幸せ」をどのように捉えるのかは、時代やそのときの当人たちの価値観や状況によって変化していくものなのだろう。
サトミさんは一方で、「身体的に子どもを産むのが難しくなる年齢までは、子どもの有無はあくまで“暫定的"だと思います。私自身、自分が『DINKSだ』と強く自覚して生きているわけではありませんし、数年後には子どもが欲しくなっている可能性もあります。まわりからも『まだ子どもがいない』とだけ捉えられていると思いますし」と補足する。
子どもを持たないことは「選択」と思われがちだが、サトミさんにとっては「今現在の状況」という表現のほうがしっくり来るという。そんな揺れ動く思いを抱えつつ、サトミさんはその発信のあるべき姿をこう語る。
「多様性が認められる時代になってきたので、子どもを持たない夫婦も1つの家族の在り方として認められるようになり、称賛もされなければ批判もされない、フラットな考え方で広く受け止められるようになってほしいと思います」(サトミさん)
(取材・文:ふくだりょうこ 企画・編集:上代瑠偉)
※この記事は、アイティメディアとYahoo!ニュースの共同連携企画です(協力:DINKS MAGAZINE)
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