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ファンタジー? いえいえ、現実です 毎日が楽しくなりそうな同人誌『マンドラゴラの育て方』元司書みさきの同人誌レビューノート

タイトルからして興味がそそられます。

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同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 暑さぐんぐん緑が茂る盛夏をやっと超えましたね。強い日差しと入道雲に目を細めながらも、もう少ししたら涼しい季節が……と空を見上げます。秋になれば植物も実りの時期。けれどこの収穫は命懸け……!? 今回は園芸の同人誌です。

今回紹介する同人誌

『ひとのかたちのつくりかた〜マンドラゴラの育て方、1年目〜』B5 16ページ 表紙・本文カラー

著者:ミトマヒノキ


同人誌『ひとのかたちのつくりかた』
人型の気配がします

魔術に使える? マンドラゴラ育成レポート

 マンドラゴラという名を聞いたことはおありでしょうか。魔法や呪術が出てくるファンタジーな創作世界で登場することのある植物です。物語の中ではよく魔法薬の材料とされ、「引き抜くときに大きな悲鳴を上げ、その声を聞いたものは死んでしまう」という逸話が特徴的ですが、実はマンドラゴラは現実世界でも学名を与えられた実在するナス科の植物なんですね。

 ご本の作者さんはマンドラゴラの名が付く3種の種を同時に入手したことがきっかけで、このご本を作ることにされたそうで、それぞれの種の特徴や発芽、育成の様子を文章と写真でまとめて、全ページカラーで掲載されています。

同人誌『ひとのかたちのつくりかた』
これが実物のマンドラゴラ……!

マジックアイテムを手元で育てるわくわく感

 まずは、マンドラゴラが現実世界に実在していることに驚き、また種類もさまざまにあることにも「そうなの!?」と驚きました。そして、ご本ではそれが当たり前に鉢に植えられており、そこに魔法や魔術めいたものはなく、ごくごく日常で……このギャップが、ご本を読んでいるとじわじわと面白くなってきました。伝説を持つ植物が葉を伸ばしているのに、名札として添えられているのはチャック付きのポリ袋です。

 ご本の本文ページのデザインも飾り枠が美しく、厚みがある紙の手触りの良さも楽しみながら、そこに載っているコメントではプラスチックの鉢や市販の害虫薬に言及されています。ファンタジー世界には登場しない現代のアイテムを賢く使った方法ですね。そうです、現代で育てているのですから、そのままのリアルが参考になるのです。

 ご本の中で「本書では毒を持った植物が登場しますが、全て園芸として楽しむことを、目的としたものです。『毒草を食べてみた』『毒草の毒で誰かに危害を加えたい』などの目的での購入、使用は一切お断りします」と記載されているように、空想と現実では取り扱いが違います。その違いを踏まえつつ、遠くの世界の不思議アイテムだと思っていたものを、リアルに見守り、手を加えられるとは、二次元と三次元のはざまにいるようではありませんか。異世界の魔術師たちも鉢の水はけの良さを気にしたりしたかしら……。異世界と同じ体験をしていると思うと日常が楽しくなりそうです。

同人誌『ひとのかたちのつくりかた』
現代の使えるものはちゃんと活用して育成されています

種を蒔き、成長に寄り添う暮らしの素朴な楽しさ1年目

 ご本はマンドラゴラの育成本とはいえ、マニュアル本とも違った趣です。例えば種植えの方法について記載されていますが、どのような時期に行ったかの説明はありません。使用したアイテムの説明もある程度の園芸知識を持っていることを前提にされているようです。発芽から育成の様子はご苦労された点や気付いたポイントを押さえて、根っこの形成についてはあっさりめの解説となっています。

 育成をするというのは何でも手間が掛かるものですが、そこをくどくど語らず、さっぱりとまとめられています。これから育ててみたいなという方には最初の道しるべとして、園芸に慣れた方には特有さを知る参考に、そしてご本の特色としては何より植物を育てていく飾らない素朴な楽しみが紙面からにじんでいるように思います。

 マンドラゴラ育成1年目ということで、根っこを人型にする方法についてはまだまだ研究中でらっしゃるようです。ファンタジー世界のように、悲鳴をあげそうなマンドラゴラが量産されるのでしょうか? 一緒に育成を見守りたくなるようなご本です。

同人誌『ひとのかたちのつくりかた』
ポイントを押さえて解説されています

サークル情報

サークル名:ひのきぐらし

X:@mitomahinoki

次回参加イベント:コミックマーケット103


今週の余談

 晩夏になって、通り雨や雷雨に遭遇する機会が増えたように思います。雲のドラマチックさに目を奪われています。夏、おつかれさまでした……!

みさき紹介文

 公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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