“世界一黒い塗料”を使ってパラパラ漫画を作る動画がYouTubeに投稿されました。
この動画が投稿されたのは米アニメーション会社ライカに勤務するアンディ・ベイリーさんのYouTubeチャンネル「Andymation」(@andymation)。このチャンネルでアンディさんはパラパラ漫画のほか、短編映画やストップモーション映画なども公開しています。
世界一黒い塗料で世界一黒い紙を
今回使用するのは、世界で最も暗い塗料の1つと言われている、光陽オリエントジャパンの水性アクリル塗料「真・黒色無双」。「より光を吸収し、反射を抑える」ためにとても暗くなり、アンディさんは以前この塗料で描かれた絵をみて「まるでシルエットのよう」と思ったとのこと。光を100%吸収するのはこの世でブラックホールのみと言われますが、「真・黒色無双」は可視光を99.4%吸収するのだそうです。
パラパラ漫画は、全部で210ページになる予定。まず、屋外に置いた作業台に210枚の白いカードを並べていき、そこへ黒のプライマーをスプレーしました。
しかし後日戻ってくると、何と雨が降っていてカードがびしょぬれに。そこで屋内へ作業の場を移し、別のやり方を試すことにしました。ただアンディさんは、室内で塗装スプレーを使うのは「よほど良い塗装用部屋とマスクと換気がなければおすすめしない」と助言を加えています。
そして210枚のカード全てにプライマーをスプレーし、乾燥させてから、エアブラシで「真・黒色無双」を塗布。もう一度乾かし、「真・黒色無双」を2度塗りすれば出来上がり。室内で1枚1枚塗っていくのはとても時間がかかったそうです。
ついに完成した“黒の中の黒”カード 描かれる物語は?
こうして真っ黒なカードが出来上がりましたが、さてここにどんなパラパラ漫画を描こうかと考えるアンディさん。「暗闇を怖がる気持ち」について考えるうち、幼いころに初めてパニック発作を起こしたときのことを思い出しました。
それが起こったのは、叔母の家で初めて「シナモントースト」を食べさせてもらいおいしさに感動したあと、夜に母親と車で帰宅していたときのこと。後部座席で満天の星空を見上げていたときにパニックが起こったとアンディさんは回想しました。
そのときのことを思い出しながら制作し、ついに完成したパラパラ漫画。漆黒のような黒い紙に、白の色鉛筆でアニメーションが描かれています。
内容は、まず満点の星空の下に立っていた男の子が突如として不安に駆られ、エドヴァルド・ムンクの「叫び」のような表情に。そして雨に降られ、うずくまり、もうだめかと思われたとき、ふいに現れた「天使」が男の子を繭のように包み込み守る、というもの。不安に駆られ救われる、人間の繊細な心の動きが210ぺージで表現されています。
この動画には、「すごくエモいパラパラ漫画」「泣いちゃった」と素直に感動を伝える人や、「芸術の域を超えている。人間の感情を完璧に描いている」「この“黒の中の黒”はとても美しいけど、恐ろしくもあるよね」「白の色鉛筆がついに最良の使い道を得たんだ」「紙が呼吸をしているよう」などと、作品に心を揺さぶられた人からのコメントが多数書き込まれました。
また「世界一黒い塗料で黒い紙を作る」と「パラパラ漫画のストーリーと絵」の、どちらのアイデアにも感嘆する人が多く、「動画のコンセプトがすばらしい」と絶賛する声も寄せられています。
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