肉弾戦がないのは海外進出のため? 「わんだふるぷりきゅあ!」の海外事情を考える:サラリーマン、プリキュアを語る(2/2 ページ)
20周年を機にプリキュアもさらなる海外進出を考えているようです。
「戦わない」作風は海外を意識したもの?
2024年現在、プリキュアの海外におけるテレビでの展開は韓国、台湾、香港といった「アジア圏」が中心となっています。
欧米では、配信はあるもののテレビ放送では厳しいレーティングが設けられ、「子ども向けアニメーション」としては、女の子の暴力表現や、肌の露出、ミニスカートでの戦闘などが規制の対象になる例が多いようです。
例えば、2016年の日本アニメーション学会第17回大会の基調シンポジウム「子ども向けアニメにおける少年、少女」において、東映アニメーションのプロデューサー・関弘美氏は、「女の子向けアニメは、ミニスカートで足を高く上げる事がNGな国なども多くあり、男の子向けアニメの半数のエリアにしか行っていない」と言及しています。
関 おかげで『ドラゴンボール』は50カ国以上に売れています。私が手がけた『デジモンアドベンチャー』をはじめとする「デジモンシリーズ」も60カ国以上で売れています。
一方で少女もの、『セーラームーン』『おジャ魔女どれみ』『キャンディ・キャンディ』などは、全部合わせても28〜30カ国止まり。
どういうことかというと、みなさんもご存知なように女の子が主人公で、ミニスカートをはいて、足を高くあげてアクションをするという作品が宗教上絶対にNGである国が、世界中にたくさんあるんです。
女性が目しか出せない、黒い頭巾を被らなければならないという宗教もあれば、女の子が男の子に命令するようなシーンがあるのはけしからんと言われる国もたくさんまだまだある。
だから少女ものの作品というのは、これだけ日本のアニメが世界中に行っているなかで男の子ものに比べると半分ぐらいのエリアにしか行っていないのが実態。
日本アニメーション学会 第17回大会基調シンポジウム「子ども向けアニメにおける少年、少女」(PDF)
※強調表現は筆者によるもの
同様に過去のWebインタビュー記事で、「スター☆トゥインクルプリキュア」プロデューサーの柳川氏も「日本の子ども向けテレビアニメは、肌の露出があったり暴力描写があったりして、子供向け作品としては海外のテレビで放送しづらい」と言及しています。
また、欧米の子ども向けテレビの規制については詳しく記された「NHK放送文化調査研究年報 45『子どもに及ぼすテレビの影響』をめぐる各国の動向」(PDF)では、例えばカナダのテレビ番組のランク付けについての記載で、8歳未満の子どもの視聴可能対象は「攻撃的な場面はほとんど含まれない」ものとなっています。
大人向けのアニメであればともかく、「子ども向け」として定義されるアニメーションとしては、女の子、特に児童に見える少女が、肌の露出や短いスカートで足を上げて戦う、パンチやキックをしたりされたり、というのはまだまださまざまな規制の対象になる国も多いようです。
そんな中、「わんだふるぷりきゅあ!」の肉弾戦のない平和的な作風は、これまでは展開できなかった国にも積極的に販売でき、海外進出の大きなメリットになるものと思われます。
かつて米国で作られた「パワーパフ ガールズ」が成功したように、そして何より「セーラームーン」の海外人気を見ても「戦う女の子」の子ども向けアニメーションの需要は欧米諸国にもあるように思われます。プリキュアシリーズもそこに続いていくと良いですよね。
日本独自のビジネス形態も
また、プリキュアを含む日本の子ども向けアニメーションの特徴の一つとして「アニメと流通の密接な関係」があります。児童雑誌で新キャラが発表され、アニメ内で新アイテムの登場と同時に、おもちゃ屋さんにも同じアイテムが販売されるといった「アニメ」「おもちゃ」「流通」が一体となり盛り上げていくムーブメントがプリキュアの強みです。しかし、現状では海外でその施策はとりづらく、どうしても「映像作品のみ」での勝負となっています。
版権によりグッズ展開するコンテンツビジネスも今後の課題のようで、2024年の東映アニメーションの株主総会でも「プリキュアの展開でも、海外で国内と同じような施策をとれるよう検討したい」旨の発言もあり、今後の展開にも期待したいですよね。
プリキュアチームに男の子がいるのも海外を意識?
また、2022年以降のプリキュア作品の特徴の一つとして「男の子」の存在がクローズアップされるようにもなってきました。「デリシャスパーティプリキュア」(2022年)の品田拓海、「ひろがるスカイ!プリキュア」(2023年)の夕凪ツバサ、「わんだふるぷりきゅあ!」(2024年)の兎山悟のように、プリキュアと行動を共にするチームに必ず「男の子」が入っているのも、海外展開を意識している部分があるのかもしれません。
「わんだふるぷりきゅあ!」を足掛かりに
総じて、プリキュアは韓国、香港、台湾といったアジア圏での知名度および人気は高いことがうかがえます。しかし、欧米では子ども向けテレビアニメとしては「表現の問題」「テレビのレーティング」などもあり、配信により一部のアニメ好きには届いているものの一般の子ども層には「プリキュアを知ってもらう」段階であるようです。
クランチロールにより一部の過去作も配信され、欧米での海外進出、認知の足掛かりとなっています。そんな中「わんだふるぷりきゅあ!」の肉弾戦のない平和的な作風は、これまでプリキュアが放送できなかった地域への展開を可能とし、「プリキュアという作品」を知ってもらうためにも重要な作品となっているのではないでしょうか。
(C)ABC-A・東映アニメーション
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