「シルバー事件」がDSに移植発表――「パンクは死なない」GDC 2007

GDC最終日の現地時間3月9日、グラスホッパー・マニファクチュア代表の須田剛一氏による講演では、「Punk's Not Dead」と題し、“ゲームは作りはパンクであれ”と推奨。「シルバー事件」の移植についても触れた。

» 2007年03月12日 00時02分 公開
[加藤亘,ITmedia]
グラスホッパー・マニファクチュア代表取締役 須田剛一氏

 グラスホッパー・マニファクチュアは、1998年設立の企画の立案から脚本、グラフィック、サウンドまで手がける総合ゲーム開発会社である。プレイステーション用ソフト「シルバー事件」を皮切りに、「花と太陽と雨と」や、「シャイニング・ソウル」シリーズ、「killer7」などを手がけている。最新作では、Wii用ソフト「NO MORE HEROES」の開発を行っており、発売をスパイク、プロデュースをマーベラスインタラクティブが担い、3社協力の元、制作が進められている。また、ほかにもWii用タイトルを2本抱えている。

グラスホッパー・マニファクチュアは来年設立10周年を迎え、現在まで数々のパンクな作品を生み出している

 グラスホッパー・マニファクチュア代表取締役の須田剛一氏が、今回のGDCに招待され、「Punk's Not Dead(パンクは死なない)」と題したセッションを開くには理由があった。須田氏は当初、ヒューマンに入社し、「スーパーファイヤープロレスリングIII」や「スーパーファイヤープロレスリングスペシャル」、「トワイライトシンドローム」、「ムーンライトシンドローム」に関わり、ヒューマンが倒産する1年前に独立している。その際、前述したとおり企画立案からすべてをこなす総合開発会社としての立ち位置にこだわり、オリジナルゲームを作りたいという思いがあったからだ。

 グラスホッパー・マニファクチュアには3つのスローガンがある。それが、「Call&Response」、「Crash&Build」、「Let's Punk」である。今回は最後の「Let's Punk」=「パンクであれ」について述べようというのだ。

 パンクとは、既存のゲームの概念に囚われない新しいゲームを作る姿勢を差し、それを作り続けるということであると須田氏。現状、多くのビックタイトルがあるが、多くはコピーキャットであり、戦争を主題としたものばかりなのが現状だと嘆く。また、日本のゲームもパンクであると提唱する。昔は日本からパンクな作品が多く輩出されていたが、昨今は環境的にも新しい試みは出ずらいものとなっていると分析。パンクな考えを持つクリエイターがいなくなったわけではなく、市場が縮小していることが要因というのだ。とはいえ、我々は違うと自信をみなぎらせる。日本発の新しいスタイルのゲームを世界に向けて提案できるのがグラスホッパー・マニファクチュアの精神なのだそうだ。

 ここで須田氏は、会社的にデビュー作となった「シルバー事件」と、海外でのデビュー作となった「Killer7」を例に出し、2つの作品の共通点について話し出す。

  • オムニバス:「シルバー事件」も「Killer7」も表と裏の2重構造で脚本が進行しており、両方とも片方の世界からもう片方の世界をうかがい知る構造になっている。
  • カメラと移動のコントロール配置の見直し:ゲームを解体して再生する試みがなされている。というのも、昔は操作に決まり事がなかったが、いつしか画一化していると確信。誰しもが直感的に操作できるように古いアドベンチャースタイルをモチーフにして見直しをはかっている。
  • フィルムウィンドウエンジン:「シルバー事件」はテキストアドベンチャーであり、マップやキャラの顔、テキスト、コマンド表示をすべて概念としてウィンドウの中で管理している。これに音楽が連動しているのだが、このスタイルも少ないスタッフで、時にはプログラマーがグラフィッカーの代わりとなれるよう画策したため。利点はインディーズの人でも実験的にゲームが作れるという点だった。
  • 表現の自由化:アニメーションの導入など、レンダリングだけではなく再生装置としてあらゆる表現手段をゲームに持ち込んだ。このことにより、応用力が身に付き、違う表現メディアとの融合に挑戦するという経験を得られた。
  • 発想の独創性:気が狂っていると思われるほどの独創性を内包している。ドラッグなどしなくても、奇抜なオリジナルゲームは作れるということを証明。

 須田氏は、あくまでも人と同じことをしたくないと繰り返す。誰もしてないことをやるからこそパンクなのだと。こうしてゲーム業界にいる限り、その恩返しの意味も込め、自分しか作れないゲームを世に送り出すことが使命とも思っているというのだ。「一番特徴的なのは仕様書を作らないこと」と須田氏は明言するとおり、スタッフとのフリーディスカッションの中で開発は進んでいくらしい。

 “自分だけのゲーム”という意識は、「Killer7」を製作した際にも育まれたと、プロデュサーの三上真司氏との出会いについて触れる。普段は自分のアイディアを全面的に受け入れてくれていた三上氏に、一度たりともその時までは怒られたことがなかったと振り返る。それは、ゲームキューブ用ソフトとして開発する中で、「Killer7」というタイトル自体がNGとなるかもしれないという自体に陥った時のこと。代案を考える際、安易に三上氏に聞いてみると、「タイトルはディレクターが考えるべき」と一喝されたのだとか。そのひと言は、自分がすべてを背負って臆することなく決めていいということを教えてくれたのだそうだ。

 これは「Killer7」の移動システムがレールタイプであり、フリーランニングが主流の現在、メインストリームではないと、改善を考えた際にも同じだったと明かす。その時も最初の信念を曲げずに行きたいと相談すると、三上氏は温かく受け入れてくれたという。須田氏は仕事は所詮、人と人とのつながりであり、プロデューサーを信じなくてはならないと主張する。あまりにもマジメすぎと判断したのか、「だってそのうちプロデューサーは出世するから、あとでいいことが起きるかもしれない」と冗談も飛ばす。

 須田氏は、ディレクターにも2種類あり、職業監督と作家監督がいると説明する。職業監督は世の中に売れるものを忠実に作ろうとするタイプで、作家監督は新しいものを提案するタイプであると分類する。ここで須田氏は、「新しいもの=パンク」であれとしながらも、基本的にはゲームディレクターは職業監督であるべきと語る。それというのも、経験を積み、ビジネスを理解する職業監督を経験してから作家監督になるのはたやすいが、逆は困難であり、市場センスを磨かないと何が求められているかを見失いがちになるからと解説する。また、ディレクターは精神的にタフであれとも。例え罵詈雑言であれ、ユーザーの意見は真摯に受け止め、それを乗り越えアイディアの種として吸収するべきたと説く。だからこそ、インディーズの人たちは早くプロになるべきとも。

「NO GAME NO LIFE」を提唱

 最後に須田氏はこう結ぶ――「映画という文化、産業は批評というジャーナリズムを生みました。そして映画文化を成熟させました。100年の歴史を支えるのは、映画が自己崩壊から生まれたからであり、パンクの精神と一緒だと思います。ゲームは生誕して30年あまりと歴史が浅い。だから、我々はまだ成熟してはいけないと思っています。もっと傲慢に、ゲームに出会った頃の衝撃を忘れてはならないのです。音楽と同様で、数年置きに衝撃を与える作品が出てきてほしい。現状ではまだまだ足りなく、1人では戦えません。だからもっと皆さんにもパンクなゲームを作ってもらいたい。そしてパブリッシャーの皆さんにもパンクなゲームを作らせてほしい。日本でゲームという文化がなくなる危機感を僕は持っています。僕は生涯をかけて、全世界に新しいゲームを提供していきたい」

ニンテンドーDSへの移植が発表された

 セッションでは最後、「シルバー事件」とモバイル版の「シルバー事件25区」をニンテンドーDSに移植することが決定したとサプライズな報告も。

 須田氏は“新たなもの”を生み出すための前提として、まず人間関係の構築と、信じる心を説く。そこからパンクが生まれてくるのだと。閉塞したゲーム業界を再構築するためにも、パンクな精神は無くしてはならないと警鐘を鳴らす。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/29/news009.jpg 天井裏から変な音がする→スマホを突っ込んで撮影したら…… 映った“とんでもねぇ”モノに「恐ろしい」「何これ」と騒然の196万表示!
  2. /nl/articles/2404/30/news021.jpg 11カ月娘、帰宅したママの顔を見た瞬間……! ママ「うれしそうすぎてうれしすぎる」100点満点のお出迎えに「これは可愛いよ」
  3. /nl/articles/2404/29/news020.jpg 亡き父が植えた思い出のモミの木が巨大化→次男が伐採していると兄が現れ…… リアルな庭じまいの記録に共感と応援の声
  4. /nl/articles/2404/30/news129.jpg 「あのおじさん誰?」 お笑い芸人、解散後の激変ぶりにネット驚き「ピスタチオ 懐かし」
  5. /nl/articles/2404/27/news008.jpg 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  6. /nl/articles/2404/27/news009.jpg しぶとい雑草“ドクダミ”を生やさない超簡単な方法が115万再生! 除草剤を使わない画期的な対策に「スゴイ発見」
  7. /nl/articles/2404/30/news049.jpg 1歳女の子に赤ちゃんのころの服を着せてみたら…… 成長感じるほほ笑ましい姿に「プリプリww」「かわいすぎ〜!」
  8. /nl/articles/2404/29/news004.jpg アルミ板に水銀を垂らしたら……? 5000万再生の“衝撃的な実験結果”に「不気味」「一生忘れられない」
  9. /nl/articles/2404/29/news017.jpg 【今日の計算】「37+63×2−1」を計算せよ
  10. /nl/articles/2404/25/news123.jpg 「虎に翼」、「カムカム」の俳優が終盤に登場 急展開の予感に「ホント似合うよね、こういう役!!」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  2. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  3. しぶとい雑草“ドクダミ”を生やさない超簡単な方法が115万再生! 除草剤を使わない画期的な対策に「スゴイ発見」
  4. 天井裏から変な音がする→スマホを突っ込んで撮影したら…… 映った“とんでもねぇ”モノに「恐ろしい」「何これ」と騒然の196万表示!
  5. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  6. 誰も教えてくれなかった“裁縫の裏ワザ”が目からウロコ 200万再生のライフハックに「画期的」と称賛【海外】
  7. 「電車の中で見ちゃダメ」「笑ったww」 実家からLINE「子ヤギがすばしっこくて捕まらない」→送られてきた衝撃姿が320万表示!
  8. 顔の半分は童顔メイク、もう半分の仕上がりに驚がく 同一人物と思えない半顔メイクが860万再生「凄いねメイクの力」
  9. 元「AKB48」メンバー、整形に250万円の近影に驚きの声「整形しすぎてて原型なくなっててびびった」
  10. スーパーで買ったレモンの種が1年後…… まさかの結果が635万再生「さっそくやってみます」「すごーい!」「手品みたい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 庭に植えて大後悔した“悪魔の木”を自称ポンコツ主婦が伐採したら…… 恐怖のラストに「ゾッとした」「驚愕すぎて笑っちゃいましたw」
  2. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  3. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  4. 「歩行も困難…言動もままならず」黒沢年雄、妻・街田リーヌの病状明かす 介護施設入所も「急激に壊れていく…」
  5. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  8. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  9. 築152年の古民家にある、ジャングル化した水路を掃除したら…… 現れた驚きの光景に「腰が抜けました」「ビックリ!」「先代の方々が」
  10. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評