64年目の敗戦──「WAR PLAN PACIFIC」で太平洋戦争を3時間で追体験する:真珠湾から菊水作戦まで食後にトレース(1/3 ページ)
IT系ゲームメディアというわけで、“64”年後という節目に「あの戦争」を追体験する。とはいっても、主流の“RTS”ではなく“旧態然”のウォーゲームで。
ビックゲーム化は太平洋戦争ウォーゲームの宿命か
「TACTICS」「シミュレイター」を購読し、ウォーゲームをたしなんでいるというだけで「やーい、右翼〜、右翼〜、ミギタリー」と冷笑されていた高校生が、30年を経て、若い世代から「いや、それはあなたの時代に受けた教育の影響ですよ」と左翼認定されてしまうほどに時代が変わってしまった2009年の夏。Wikipediaのおかげで「正式な終戦は9月2日でしょう」という突っ込みもしやすくなった現代だが、やはり、日本人の心としては、8月15日が「敗戦の日」となるだろう。しかし、8月15日も9月2日も遠く過ぎ去ってしまった。せめて、お彼岸に「あの戦争」を振り返ってみたい(早い話が、締め切りを大幅に過ぎてしまったということ)。
太平洋戦争を扱うウォーゲームは、どうしても規模が大きくなってしまう。膨大な部隊が海陸空へ展開していることと、複雑なシステムとなってしまうロジスティックルールが欠かせないことなどがその理由だ。ボードウォーゲームでは、そのコンポーネントの巨大さと精緻なロジスティックルールで伝説となっているSPIのモンスターゲーム「War in the Pacific」(最近ではDecision Gamesから限定版で再販された)を最高峰として、その正統な後継と評されるVictory Gamesの「Pacific War」も、日本家屋ではマップを展開することすら難しいといわれる規模を誇る。3Wの「EAST WIND RAIN」やOMEGAの「CARRIER WAR」、SIMULATION CANADAの「DIVINE WIND」、また、日本人がデザインしたホビージャパンの「Pacific Fleet」やゲームジャーナルの「大日本帝国の盛衰」などは、コンポーネントとルールを工夫して(そのため、ゲーム手順が複雑になってしまう副作用もあるが)、常識的なコンポーネントとプレイ時間を実現したボードウォーゲームだが、それでも、Pacific Fleetは実質24時間、大日本帝国の盛衰も朝から晩までかかって終わるか終わらないかという時間がかかってしまう。
細かいデータの扱いをPCに任せられるPCウォーゲームになると、ボードゲーム以上にゲームデザインは細かく、そして、プレイ時間は長大になってしまう。太平洋戦争を扱うPCウォーゲームは、今流行のRTSや日本で定番の「提督の決断」や「大戦略」シリーズを除くと数は少ない。日本で開発したゲームタイトルでは「太平洋戦記」や「太平洋の嵐」が現役として残っているが、両タイトルとも、登場する艦艇、航空機、戦闘車両などの細かいスペックと搭乗員1人単位、物資1トン単位で管理される細かいロジスティックルールを特徴とする(しかし、その精微なデータが、ゲームで出力される戦闘結果や作戦経過の再現性にどの程度貢献しているかは、別な問題だ)。太平洋の嵐は、1ターンを3日に設定されているもの、フェイズ構成で考えると実質半日単位であるなど、プレイを進める手順も細かく区切られている。そのため、1941年12月から始まって1945年の夏まで続く太平洋戦争全般を戦い抜くには、多大な時間と労力が必要だ。
米国でデザインされた太平洋戦争のPCウォーゲームも現在入手できる現役ゲームタイトルとして確認できるのは、MatrixGamesで扱っている「War in the Pacific」とフリーで配布されている「Pacific War」だけだ。ゲームデザインは日本製の“嵐”や“戦記”と比べて抽象化されているものの、それは、「航空兵力でプレイヤーが管理する単位は“航空隊”だけど、PCが行う戦闘処理では1機単位で扱う」という人間の負担を軽減しつつPCで精密な処理が可能であったり、ロジスティックルールが、「資源はoilとResureceの2種類、物資はFuelとSupplyの2種類」と日本製PCウォーゲームからすれば簡潔にまとめられているが、それでも、ロジスティックに関連する資源と物資を「液体1系統、固体1系統」に“分けてまとめる”ことで、ゲームデザイン上は矛盾することなく、プレイヤーの負担を軽減することを可能にした。
ただ、プレイヤーの負担を少なくするようにゲームデザインがなされていたPacific WarやWar in the Pacificでも、プレイ時間が長いことに変わりはない。ターンのステップは1週間とされているが、戦争後期になって登場する部隊の規模が大きくなると、索敵や戦闘処理に時間がかかるようになるのが原因で、まっとうな社会人がゲームに費やせる現実的な時間では「1日1〜3ターン」程度しか進められず、1941年12月の開戦から1945年夏まで戦うのに、半年から1年間はかかってしまう。
複雑怪奇な太平洋戦争を3時間で再現する「WAR PLAN PACIFIC」
かつて、第1期シミュレーターにボードウォーゲームのゲームデザインの基本を解説した短期連載が掲載されいたが、そのなかで、(対人戦を前提とした)ゲームの適切なプレイ時間として、3〜4時間という基準を示しめされていた。なるほど、休日の午後のひとときや秋の夜長の夕食後に一戦、となると、3〜4時間程度がちょうどいい。その3〜4時間で太平洋戦争を最後まで戦いぬけるPCウォーゲームとして、2009年の初めに登場したのがSharpnel Gamesの「WAR PLAN PACIFIC」(WPP)だ。同社のWebページからダウンロード版が39.95ドルで購入できる。
ターンのステップは1カ月、マップはPoint to Point式で東は米本土西海岸、東はセイロン、北はアリューシャン、南はオーストラリアという広大な太平洋戦域に、ざっくりと29カ所のポイント(=基地)が配置されている。艦船ユニットは空母、戦艦、重巡洋艦、軽巡洋艦が1隻単位で登場するものの、駆逐艦と潜水艦は省略される。航空ユニットも、空母に搭載される艦上戦闘機と艦上爆撃機、艦上攻撃機、基地に所属する陸上攻撃機と陸上攻撃機に分けられるだけで、型式の区別はない。また、陸上ユニットは用意されず、上陸船団のユニットが登場するだけだ。このほか、戦線に補給物資を送る輸送船団ユニットがある。なお、WPPには生産ルールはなく、史実のスケジュールに沿って建造される艦船(連合軍は英本国艦隊も)が増援として登場する。上陸船団や輸送船団、艦上機や陸上機の補充などはランダムに決定される。
プレイヤーは侵攻する敵基地に上陸船団を含めた艦隊を編成して投入する一方で、敵の侵攻が予測されたり、上陸作戦が成功したものの戦闘が継続していたりする基地には、制海権を確立するために、やはり艦隊を編成して投入する(戦闘が継続している基地や拡張工事を行っている基地に輸送船団を送り込むと、陸上戦闘の終結や拡張ペースが早まる)。
1つの基地で双方陣営の艦隊が遭遇すると戦闘が発生する。まず、航空兵力と海上兵力のあいだで海空戦が行われ、その結果を受けて水上戦闘が行われる。戦闘における目標決定はシステムが自動で解決し、プレイヤーが関与できるのは、敵との間合いの決定と海空戦において航空兵力を攻撃隊と上空直衛に振り分ける指示だけだ。
WPPでは、1つの基地で複数の艦隊を編成したり、複数の艦隊を1つの基地に送り込むことができるが、1つの基地に投入されたすべての艦隊は、戦闘処理において1つのまとまった兵力として扱われる。1つの基地を巡る戦いは、一方の兵力が撤退するか戦闘で全滅するまで行われ、ほとんどの場合、敵を排除した側が基地を占領(もしくは防衛)して制海権を確保することになる。しかし、敵が激しく抵抗すると、敵兵力を排除しても上陸作戦が失敗することも少なからず発生する。
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