iPod touchは携帯型ゲーム機の新たな地平を切り開けるか?:iPodの生みの親に聞く(1/3 ページ)
ちょうど10年前、iPodは音楽プレーヤーとして誕生した。そして今ではゲーム業界でも影響力を持つ携帯ゲーム機に生まれ変わり、さらに輝きを放っている。iPodの生みの親でもある、米AppleのStan Ng氏(スタン・イング)に話を聞いた。
運命の分かれ道だった2001年
iPodは、2011年で誕生から10年目を迎える。ちょうど10年前の今ごろ、2001年1月中旬には、アップルがMacwolrd Expoで、iTunesの最初のバージョンを発表した(キャサディー&グリーンという会社のSoundJAM MPというアプリケーションを買収して作り直したものだ)。
iTunesはリリースから1週間で27万5000本もダウンロードされた、このこと自体も驚きだが、実は最初のiTunesがiPodではなく、クリエイティブ・ラボの「Nomad」シリーズやソニックブルーの「Rio」シリーズ、NikeやNakamichiなど他社製の音楽プレーヤーと連携していたと聞いたらさらに驚かれるかもしれない。
だが、史実はそうなのだ。アップルのデジタルライフスタイル戦略は、まずはこうして他社のガジェットと連携する道からスタートした。ちなみにアップルは、携帯電話も最初は自ら開発せずに、まずはモトローラに作らせていた。しかし、そのうちに他社が作る製品のできに満足ができなくなり、自社開発の道を選ぶ。そうして今の大成功を収めてきた。
アップル社員は、(“鉄の掟”によって)社内での働きぶりを語ることはできないが、これまでいろいろなところに出てきた話を総合すると、10年前の2001年2月ごろ、アップルでマーケティングをしていたスタン・イング氏と、ハードウェアエンジニアのトニー・ファデル氏は、スティーブ・ジョブズ氏をはじめとする重役陣の勅命を受け、アップル自身が音楽プレーヤーを作る必要性があるかどうかの調査を始めた。
2001年4月、2人が出した結論は「携帯型音楽プレーヤー市場に、まだ勝ち馬と呼べる製品はなく、どれも操作が複雑で普通の人が使いこなせるモノはない。アップルは携帯型音楽プレーヤー市場に進出すべきだ」というものだった。
そこから2人は、極秘計画として何のプロジェクトかを明かすこともしないまま、社内から優秀からエンジニアをかき集め、わずか半年という短期間で初代iPodを完成させるために心血を注いだ。
2001年11月、世の中は、まだ9.11の衝撃にうちひしがれ元気を失っていた時期だったが、アップルはあえてこのタイミングでの製品発表を敢行。筆者もアップルの広報に「私のせいで、こんな危険な時期に飛行機に乗るハメになった」とジョークを言われながら発表会を訪れた。そしてその1年後にはWindows版iPodを発表、これがアップルブランドをそれまでのMacユーザー以外にも広げるきっかけとなり、さらに2003年にはiTunes Music Store(現iTunes Store)を立ち上げ、そのおかげで今ではアメリカ最大の音楽販売会社になり、映画やテレビ番組の販売でも大きな影響力を持つようになった。
※記事初出時、一部の記述で誤りがありました。おわびして訂正します。
“iPod以前”は、アップルが優れた工業デザインや最先端技術をつめこんだ製品を作っても「でも、それって(市場シェア3%でほとんど誰も使っていない)Macでしょ」で片付けられ、そのすばらしい仕事が評価されることはなかった。
しかし、iPodがその流れを変えた。やがてはアップルは世界で最も影響力のある携帯電話メーカーになり、ついには時価総額で世界2位の企業にまで大躍進させることになる(関連記事:「過去最高益とジョブズ氏の不在――Appleのこれから」)。
“iPodの父”が、過去10年を振り返る
iTunes/iPod誕生から10年目を迎えた今、iPodの生みの親の1人である、米AppleワールドワイドプロダクトマーケティングiPod担当シニア・ディレクターのスタン・イング氏(Stan Ng)に、改めてiPodについて語ってもらった(聞き手:林信行)
―― 今年はiPod誕生からちょうど10年目になるわけですが、この10年をどう振り返られますか?
イング 我々は過去を振り返らず、未来にフォーカスすることをよしとする会社なので、あまり語ることはありません。ただ、iPodについて1つだけ特筆すべきことがあるとすれば、それはこのiPodという製品が常に進化を続けてきた、ということでしょう。
最初のiPodは、圧倒的な携帯性と、とてつもない大容量を両立した音楽再生専用機として登場し、人々の音楽の持ち歩き方を変えました。その同じiPodが、今ではメールやWeb、Facetimeまでできる最先端のコミュニケーション機器を経て、世界で最もポピュラーな携帯型ゲーム機器にまで進化しました。
こうした技術とイノベーションの「シフト」こそが、アップルという会社の本分であり、これはiPodを含むアップルの全製品の共通項にもなっています。
―― 今さら聞くのも変な話ですが、10年前にiPodを発表された時、なぜ「iMusic」や「iJukeBox」ではなく「i“Pod”」と名付けたのでしょう(「Pod」とは豆のさやのこと)。やはり、この時から音楽以外の可能性を予見していたのでしょうか。
イング いえ、実を言うと当時は音楽のことだけで手一杯でした(笑)。「iPod」という名前には、何かとても小さくて、それでいて密度が濃くてパワフル、そんな意味が込められていました。残念ながら、それからわずか10年で、この製品が世界でも人気の高い携帯型ゲーム機になるとは、まったく想像していませんでした。
App Storeに8万本のゲームタイトルが出現したことも含め、そこに至るまでの道筋を振り返っても驚くことばかりです。
―― 2009年から、そのiPodシリーズの主力製品が、音楽再生中心のiPod shuffle、iPod nanoから、iPod touchに移り、2010年に至っては、iPodシリーズの出荷台数の半分以上がiPod touchになっています。現行機種のiPod nanoが、機能を大幅に縮小し、半ば音楽再生専門に回帰したのは、その辺りが理由と考えてよろしいでしょうか。
イング そうですね。現行のiPod shuffleとnanoは、より最高の音楽体験にフォーカスしたうえで、より手頃な価格で楽しめるようにするか、タッチ操作や“音楽を着る”楽しみも提供するのか、そういった違いになっています。
iPodシリーズの出荷量の50%以上を占めるiPod touchは、非常に幅広い用途に使えるデバイスで、さまざまなユーザーのニーズに応えてくれます。しかし、例えばこれをスポーツジムにまでは持ち込みたくないと考える人もいるでしょう。そうした人たちのために、音楽再生に特化し、より携帯性を増したiPod nanoやshuffleがあるのです。
――前のiPod nanoで、ビデオ撮影の楽しみを知ってしまったユーザーは、次はiPod touchへ移行をしてほしい、ということですね。イング その通りです。だからこそ我々は、iPod touchにより高精細なHDビデオカメラを搭載したのです。
―― このように用途がシフトしてきたことでユーザー層もシフトしているのでしょうか。例えばゲームが増えたことで、ユーザー層が若くなったとか、ユーザー層そのもののシフトも起きているのでしょうか。
イング そうですね。販売台数のデータを見ると、今や任天堂やソニーと比べても、世界的にみて圧倒的に利用者が多い携帯型ゲーム機になったわけですが、面白いのはそのユーザー層の幅が非常に広いことです。iPod touchは3〜4歳の幼児でも遊ぶことも、逆にかなり年配な方たちが楽しむこともできます。
その理由はやはり、マルチタッチの操作が非常に直感的で簡単だからではないでしょうか。タイトルごとに、X、Y、A、Bといったボタンに、それぞれどんな機能が割る当てられているのかといったことを暗記する必要もありません。
使うアプリケーションごとに、その操作に最適化された最も自然で分かりやすい操作環境が用意されており、とりあえず機器に触れて、画面に触ってみたり、本体を振ってみたりと、いろいろ試しながら、その反応をみて操作を習得していくというプロセスが、操作を獲得するうえで非常に自然で分かりやすいのです。
そして、この簡単さこそがiPhoneとiPadを含むiOS機器を累計1億6000万台出荷するような超人気製品に仕立てた秘密ではないかと思っています。
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