FitbitのPebble買収に見る、ウェアラブル市場の世代交代(2/2 ページ)
69ドルという価格がつけられた、Pebbleの文字盤よりもやや大きなデバイスは、GPS、3G、Wi-Fi、Bluetoothの無線通信を備え、位置情報付きで緊急通報が行える仕組みを備える。またSpotifyを外出先で楽しむ事ができ、スマートフォンなし、単体でPebbleとの連携を行うことができる。
スマートフォンなしでランニングに出掛けられるウェアラブルホストデバイス、という位置付けだ。ウェアラブルデバイスが3G通信を行えるという点、そしてスマートウォッチの親機になれる点が面白かった。
しかし、このアイデアは、2016年5月にGoogleの開発者会議「Google I/O」で披露されたAndroid Wear 2.0において、LTE通信をサポートするスマートウォッチの姿としてより踏み込んだ機能性を実現していた。
また、Appleは2016年9月に発売したApple Watch Series 2で、GPSを内蔵し、ランニング向けの欠点を補っている。
惜しまれる声と、製造に関する難しさ
Pebbleは、2016年のホリデーシーズン(11月末の感謝祭からクリスマス)に向けて、Pebble 2、Time 2、Pebble Coreという3つの製品をリリースした。これらが感謝祭の前に店頭に並ぶようなタイミングであれば、11月末に会社を売却する判断をしなくて済んでいたかもしれない。
また、Kickstarterで多くのファンを集めてきただけに、Pebbleとしての存続がなくなった点に、残念がる声も多い。
ただ、スマートウォッチの問題は、Pebbleだけの話ではない。現在のスマートウォッチ市場全体が、販売台数面、そして機能面で、停滞期に入っているからだ。
Appleは、Apple Watch Series 2こそ、予定通りに出荷するに至ったが、これをリリースする直前の2016年第3四半期には前年同期比51.6%減と急ブレーキがかかった。2016年10月からの3カ月間、新製品効果も期待されるが、需要が高まるかどうかは不透明だ。
Pebbleを買収するFitbitも、欧米のホリデーシーズンに向けての販売予測を下方修正し、株価はこれまでで最も低い水準に沈んでいる。
当初の発売から6週間遅れ、初回分もすぐに完売してしまったAppleのAirPodsの例もあり、これまでのように購買が最も活発になるホリデーシーズンをめがけた新製品の発売、というサイクルでの製造が、難しい世界になってきたように思う。サプライチェーンマネジメントに定評があるAppleですら、こうなのだ。
ハードウェアメーカーは、世界中のスマートフォンユーザーが顧客となる際、世界的なトレンドに対して、製品の製造が追い付くことも、トレンドが消えたときの急激な落ち込みへの対処も、既にできなくなっている。2017年以降、製造の問題が顕著になっていくだろう。
データか、デバイスか
他方、Pebbleが企業をスタートさせる際に活用したアクセラレータY Combinatorでは、現在、「データ至上主義」の企業が大半だ。ハードウェアの有無にかかわらず、ユーザーからのデータを集め、ここから新たな価値を生み出す、というモデルが流行っている。
例えば、小石のようなマインドフルネス・アクティビティートラッカー「Spire」は、人々の活動とともに呼吸数のデータを1日中取り続け、リラックスや集中力の状態をユーザーにリアルタイムで伝え、トレーニングを提供し、また統計的なデータや分析は、個別の疾患を察知、あるいは改善するために活用されるという。
現在存在しないデータを集めて、データプラットフォームをビジネスの中心にする、というアイデアだ。これは、アクティビティー計測のFitbitにとっては都合の良い未来だ。
しかしPebbleは、Pebble Coreを登場させているあたり、もう少しデバイスとしてのスマートウォッチについて深く考えていく姿勢が見られる。コンピューティングとは何か、身につけたデバイスでの可能性は何か。Pebble Coreにハッカー向けの機能が用意されている点も、そうした思想の表れだろう。
その点で、デバイスからビジネスを組み立ててきたAppleの方が、Pebble買収によって良い未来が描けたかもしれない。ただ、AppleはPebbleを買収しても、Beatsのようには扱わず、すぐに製品ラインからサポートまでをストップさせていただろう。
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