マンションの中に異空間! 畳が光るサイバー茶室に行ってきた千利休もびっくり

茶道はスタイリッシュでした。

» 2013年12月06日 10時15分 公開
[北本祐子,ねとらぼ]

 茶室というと、あまり縁がない人からすれば竹林の奥にひっそりとたたずむわびさび感じるイメージだが、最近の茶室は怪しげなブラックライトに照らされぼんやりと光っているのだとか。ハリウッド映画に出てきそうなこの“サイバーな茶室”、いったいどこにあるのかと言うと……。

サイバーな茶室 ハリウッド映画のワンシーンに出てきそうな茶室

 実は横浜のマンションの1室にある。

advertisement
サイバーな茶室 こうみえて、マンションの中なのです

 ここは、茶人である松村宗亮さんが主宰する茶の湯文化を普及するプロジェクト「SHUHALLY」の茶室。その名前は「守 破 離(しゅ は り)」という千利休が残した茶道の心得から名付けられた。松村さんは2009年の秋よりこの場所を拠点に、「基本を守り、創意工夫を加え、独自のスタイルとして確立する」茶道の場として、独自の茶文化の追求を行っている。

サイバーな茶室 shuhally看板

サイバーな茶室 光る茶室の主がこの人、松村宗亮さん

 先ごろネットでも話題になった光る茶室は、奥にある「小間」と呼ばれる場所。茶室というのは入口から庭など、お茶をいただくまでに通る場所も含めて演出されていく。SHUHALLYもマンションのなかに作られているということを忘れてしまうようになっている。しかし、日本の伝統文化である茶室を怪しく光る黒い部屋にしたのはなぜなのか?

advertisement
サイバーな茶室 入ってすぐにあるお部屋

サイバーな茶室

サイバーな茶室 小間へは庭を通っていく。マンションの5階とは思えない光景が! まるで天空の庭のよう

サイバーな茶室 現代アート作品がそこかしこに飾られている

サイバーな茶室 木戸を抜けて、さらに奥へ。ここマンションですよね?

サイバーな茶室 外でお茶をいただくこともできる設えが

サイバーな茶室 マンションの5階のベランダにあたる部分ですよ。何度もいいますが……

サイバーな茶室 いよいよ光る茶室とご対面

サイバーな茶室 にじり口の引き戸を開けると怪しく光る空間がそこに!

 松村さんによると、もともとの設計時は一般的な畳を使う予定だった。

advertisement
サイバーな茶室

サイバーな茶室 漆黒に塗り込められた世界に黒い畳から光が通り、天井に反射している

「設計も終わり、施工を進めていた2009年のお正月に京都で読んだ新聞で、たまたま光る畳の広告を見つけました」

 使用しているのは「光畳HIKARI-TATAMI」という熊本産業の商品で、もともとは飲食業界向けとして発売されたもの。いぐさと光る繊維素材を組み合わせ、編み上げた畳を内蔵したLEDライトで照らしている。こちらの小間では壁面も黒くしているため、茶室というまるでSF映画のワンシーンのように変化する。

 光らせるのは廊下にあるスイッチのオン・オフで行う。畳のここだけ、というような光らせ方にはなっていない。

サイバーな茶室 部屋の中心にある釜にもアートが施されていてサイバーなあかりを受けて怪しく光っている

サイバーな茶室 床の間にはブラックライトを設置し、ブラックライトに反応する彩色をした陶芸作品など、その場を生かした作品が飾られる。この作品は26歳の若手陶芸家の篠崎裕美子さんによるもの

 異色の茶室の主である松村さんも、お茶の世界では異色の経歴を持つ人物。

サイバーな茶室 松村さんの着物の紋はスカル柄だった

 型破りな人物というと、代々伝統を受け継ぐ家系の人が新しいチャレンジを……というイメージがあるが、松村さんは社会人になるまでお茶の世界に触れたことはなかった。それどころか、子供のころはインターナショナルスクールに通い、友達の家では外国の料理が並ぶ。日本に生まれながら、異文化に囲まれて育ち、学生時代にはHipHop音楽に染まった。その後、大学に進学し、元々あった欧米への憧れから3年生のときにフランスから転々と旅を続けたが、そのなかで感じたのは自分の日本文化に対する理解不足だった。

「出会う人たちに日本のことをたくさん聞かれるのですが、日本っぽいことをやらないまま育ってしまったため語る言葉を持っていなかった。フランスに行ってからようやく、オヅ(小津安二郎監督)やクロサワ(黒澤明監督)の作品を観たぐらいで……」

 日本人として、日本の文化を語れるものを持っていない自分を痛感。帰国後、不動産関連企業での仕事をしながらいくつか始めた日本文化へのチャレンジの1つが茶の湯だった。

「茶の湯には日本文化のエッセンスが詰まっています。茶席ではお花が生けられ、お香を焚き、書が飾られ、着物で席につく人がいて、焼き物の椀でいただく。茶室の建築や庭もです。その他金属や木製の道具や日本料理等。1つのことを理解すると、他のことにも関心が深まり茶の湯への理解も連鎖的に深まっていきます」

 本格的に学ぶために、京都のお茶の専門学校で3年間弟子入りのように茶の湯の文化について学んだ。卒業後には茶室作りのため、知り合いや茶室の国宝や重文の茶室などをまわって研究を重ねた末作ったのがSHUHALLYだ。お茶というのは、日常からのトリップ。茶室に向かうまでの道筋も別世界に旅立つ過程となる。

「マンションの扉を開けるといきなり和室があるというシチュエーションは、どこかフィクションっぽい。最初のアプローチは竹をたくさん使い、藪の中を抜け、扉を開けて入る物理的な制限があるものの、奇をてらわず、お茶室の枠にあるものを作っています。

 光る小間の広さは、千利休さんのお孫さんである宗旦が作った又隠(ゆういん)と同寸法、形式は超クラシックです。四畳半という広さは歴史的、思想的背景もあり大事にしたく、これらの寸法を変えるとデザインに走ってしまい茶の湯ではなくなってしまう、という危惧がありました。しかし、一般には屋外にある立派な木材や土壁によって構成されている数寄屋建築をマンション内に入れ込むのは自然ではないのではないか、と思いまして。むしろ僕が子供の頃から慣れ親しんでいる素材、ガラスや金属で構成したほうが今の自分にとってはより自然に感じることができました。また陰陽といった茶の湯にある思想を現代の技術で体現したいと思っていた時にちょうど出会えたのがこの光る畳でした」

 前代未聞の光る茶室は話題となり、2010年にグッドデザイン賞を受賞。茶の湯の世界に新しい風を起こした松村さんは、どこか遠く感じている茶の湯の文化をもっと広めたいと思っている。

サイバーな茶室 グッドデザイン賞の証

「そもそも利休さんが始めた当時のお茶というのは、アバンギャルドでパンクなものでした。僕のようなお茶の家に生まれたわけではない、ただの兄ちゃんだった者が同世代や下の世代に、このお茶の素晴らしさを伝えられたら。

 茶の湯が長く続いてきた文化であるのは、その時代時代でお茶が好きな方がいたからだと思うのですが、茶の湯の元々の姿勢は新しい美を創造したり、既成概念を打ち崩したものでした。ときにはその時代の流行を取り入れて現在の形になっています。いま日本には各流派のお茶が発展していて、それぞれに詳細な型がありその素晴らしさは歴然としていますが、利休さんの時代には個々の茶人がそれぞれの茶の湯のあり方を模索していました。流派の茶の湯をしっかりと習得していく過程に終わりはないのですが、その中に個人個人がその人の考え方や美意識、哲学などを体現していけるのが、茶の湯の楽しみの1つだと思います」

 2013年は活動を海外にも拡大。独自の茶の湯のスタイルをニューヨークやパリ、ポーランドなどでも披露する機会を持った。SHUHALLYでは若手の現代アートの作家の個展を定期的に開催する活動も行っている。

「僕もまだまだ修行中ですが、いずれは自分の価値観が反映されたお茶を体現したいし、そうじゃなければいけないと思っています。いまの生まれている価値観を自分のフィルターを通してお茶の世界に取り込んでいきたいですね。現代アートの作品を茶の湯のコードにのせて、お客様に提示して、新しい文化を若い芸術家の方たちと作っていければ。

 海外の方たちにお見せする際、『クールジャパンだよね』と言われがちなのですが、いやそうじゃない。ホットジャパンなのだと。熱い日本の文化で海外の方たちも巻き込み、海外の文化から学んだ自分が日本の文化を発信することで恩返ししていきたいですね」

 この茶室は、アートの作品展やお茶の教室時には一般の方も入ることができる。

関連キーワード

お茶 | 芸術 | デザイン

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2502/11/news012.jpg 最初に軽く結ぶだけで…… 2000万再生された“マフラーの巻き方”に反響「これは使える」「素晴らしいアイデア」【海外】
  2. /nl/articles/2502/15/news032.jpg 163センチ、63キロの女性が「武器はメイクしかない」と本気でメイクしたら…… 驚きの仕上がりに「やっば、、」「綺麗って声でた」
  3. /nl/articles/2502/16/news086.jpg 年の差21歳で「夫は娘の同級生」 “両親大激怒”で結婚は猛反発されるも……“まさかの行動”で説得
  4. /nl/articles/2502/16/news005.jpg 1歳双子の姉が退院日、妹と再会する“瞬間”が「涙出ちゃった」と大反響 あれから約9カ月後……現在を聞いた
  5. /nl/articles/2502/15/news002.jpg 山で発見したサワガニ、「どうやって生きてきた!?」と目を疑う状態で…… 連れ帰った後の“驚きの行動”に「泣いた」「これは目が離せない」
  6. /nl/articles/2502/16/news039.jpg スーパーで買ったロブスターを、アワビと一緒に育てたら…… 「スゴすぎ」“予想外の展開”が150万再生「感動しました」
  7. /nl/articles/2502/14/news121.jpg 「14歳でレコ大受賞」 人気アイドルがセクシー女優に転身した理由明かす 家族、メンバー、ファンの“意外な反応”
  8. /nl/articles/2502/16/news009.jpg 「これすごい」 飛行機のエコノミークラスに搭乗→“まさかの機内食”に思わず二度見 投稿者に話を聞いた
  9. /nl/articles/2502/16/news050.jpg 穴が開いたユニクロのカシミヤニットを“いったん解いて”リメイクしたら…… 息をのむほどの仕上がりへ「びっくりした!」「人間ってすげーな」
  10. /nl/articles/2502/14/news033.jpg コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
先週の総合アクセスTOP10
  1. パパに抱っこされる娘、13年後の成人式に同じ場所とポーズで再現したら…… 「お父さん若返った?笑」「時止まってる」2人の姿に驚き
  2. 古いバスタオルをザクザク切って縫い付けると…… 目からウロコの再利用に「すてきなアイデア」【海外】
  3. 14歳のとき、親友の兄と付き合うことになった女性→13年後…… “まさかの結末”に「韓国ドラマみたい」【海外】
  4. リンゴを1年間、水の中で放置→顕微鏡で見てみたら…… 衝撃の実験結果に「これはすごい」「息をのみました」【海外】
  5. 海釣り中、黒猫に「ちょっと来い」と呼び出された釣り人 → 付いて行くと…… 運命のような保護から2年、飼い主に話を聞いた
  6. “駐車場2台分”の土地に、建築家の夫が家を建てたら…… “とんでもない空間”に驚き「すごい。流行る」
  7. 「なんだこの暗号は……」 マクドナルドの“大人だけが読めるメッセージ”が410万表示「懐かしい~」「読める人同世代w」
  8. 着陸する戦闘機を撮ったはずが…… タイミングが絶妙すぎる1枚に「一部の専門家には貴重な一枚」 投稿者に話を聞いた
  9. ズボラ母が5人分サンドイッチを爆速で作ったら…… 目からウロコの時短テクと美しい仕上がりに「信じられない」
  10. 【今日の計算】「7-2×0+9」を計算せよ
先月の総合アクセスTOP10
  1. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  2. 「配慮が足りない」 映画の入場特典で「おみくじ」配布→“大凶”も…… 指摘受け配給元謝罪「深くお詫び」
  3. 母「昔は何十人もの男性の誘いを断った」→娘は疑っていたが…… 当時の“モテ必至の姿”が1170万再生「なんてこった!」【海外】
  4. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. 市役所で手続き中、急に笑い出した職員→何かと思って横を見たら…… 衝撃の光景が340万表示 飼い主にその後を聞いた
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  9. 「こんなおばあちゃん憧れ」 80代女性が1週間分の晩ご飯を作り置き “まねしたくなるレシピ”に感嘆「同じものを繰り返していたので助かる」
  10. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議