「暗闇ダンス」第1巻発売を記念して、原作者・須田剛一さんと、コミックビーム・奥村勝彦“編集総長”にお話を聞きました。
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「これマズいぜ」という危機感
奥村 カフカの「城」もそうなんだけど、もう1つ、“狂人が作ったテーマパーク”というのがあったら面白れぇぜ、みたいなところも出発点なのね。そういうのがあったらオレら、金払っても行くよねと。そりゃ浦安には完璧なテーマパークがあるけどさ、そういうのとは違う。
須田 子どもお断りの。
奥村 大人が見に行って「おおっ!」みたいなのをね。まだ今は本当に入り口なんで、これからどんどんワケ分からねえ、気の狂ったことをガンガンやっていけたらいいな、と。

「見た人全員がオーイェーという風にはならない」(奥村さん)
―― 今の時点でもかなりワケ分かんないですよ。
奥村 いやあ、まだまだ。
須田 まだ旅は始まったばかり……いや、まだ始まってないかもしれません。本当の旅は2巻からなので。
奥村 「こういうハナシです」って、すぐ消化できるようなものを出す気はあんまりないんだよね。映画の宣伝とかでさ、若い子が「感動しました!」とか言ってるのあるじゃない。ああいうの見るたびに、「これはイカん!」と思っちゃうわけよ。
―― CMでよくあるやつですね。
奥村 見た人全員が「感動しました、泣きました、わーっ!」とかさ、うわあ、絶対ああいうのだけは作るのやめよう、ってのがどっかにあって。だから「暗闇ダンス」は、見た人全員がオーイェーという風にはならないと思う。でも、そういうのをやってかねえと、これマズいぜ、みたいな危機感はある。
―― マズいぜっていうのは、読者側? 雑誌側?
奥村 両方だな。雑誌はそういうのを載せなきゃいけねえし、そういうのを載せてかないとどうなるかっつーと、ああいう映画のCMみたいな状況になる。想像力はある程度働かせないと、面白いモンってのは絶対に見えないんだよ。その根本がどんどん薄れていくってのは、これはよろしくないよね。
須田 そうですよねえ。のぞきこまないと見えないものにしたいですね。
奥村 でさ、須田さんもそういう思いでゲームを散々作ってる。オレもそういう思いで漫画を作ってる。じゃあ一緒に何かやろうぜ、っつーのはわりと必然的な感じはするわな。
「運がよけりゃバットの芯に当たるんじゃねえかな」
―― ビームの方針と、須田さんの作風って似ていますよね。マーケティングではなく、自分が面白いと思うものが第一にあって、そこに共感する人が自然と集まってくる。
須田 僕はまあ、毎回100万とか、1000万本とか売るつもりで作ってはいるんですけど(笑)。
奥村 ええ、そうなの?
須田 でもやっぱり、頭のいい人が考えるマーケティングとかよりもまず、自分が遊ぶかどうか、自分の中でこのゲームが許せるのか、許せないのか、みたいなのはあります。だから結局自分が作りたいものになっていくんでしょうね。で、それが結果として100万、1000万に届けばいいな、っていう。

「結局自分が作りたいものになっていくんでしょうね」(須田さん)
奥村 でもさ須田さん、ぶっちゃけ、数万、数十万、数百万……この差ってどこにあるのかオレ全然分かんないんだよ。
須田 分かんない。僕も分からないんですよね。
奥村 分かんないよ(笑)。
須田 でも、だからこそ毎回、表現のリミッターみたいなのはなるべく外していきたいとは思ってる。狙ってヒットを出すというのはできる人とできない人がいると思うんですよ。僕はアホなので、狙ってヒットを出せるタイプではないので、そこはあまり考えないようにしてる。
奥村 とりあえず常にフルスイングしとくっていう。
須田 そうですね、フルスイングでやっていく。
奥村 運がよけりゃバットの芯に当たるんじゃねえかな、みたいな。
須田 ホントそうなんですよ。
奥村 でもそれ、正直なとこよ。狙って打てるってことは、それはホームランじゃなくて、それじゃ気持ちよくねえな、という強欲さがやっぱりある。
須田 ありますね(笑)。場外狙ってますから。

「とりあえず常にフルスイングしとくっていう」(奥村さん)
―― 須田さんの場合、須田剛一であると同時にグラスホッパーの社長でもあるわけで、当然商売のことも考えなきゃいけない。そういう中で、マーケティングよりも自分の感性を優先するというのって、かなり勇気がいりませんか。
須田 うーん、僕の場合幸せなことに、そういうことができる環境を用意してもらえているんですよね。今はガンホーグループですけど(※)、そこでも「面白いゲームを作ってくれ」というのがまず大前提で。そもそも森下(ガンホー・森下一喜社長)が「ヒットは狙って出せるものじゃない」って言い切ってますからね。
※現在のグラスホッパー・マニュファクチュアはガンホー・オンライン・エンターテイメントのグループ会社
―― 講演でも言っていましたね(※)。
※CEDEC 2013の基調講演で発言(週刊アスキーの記事)
須田 もちろんゲームにしても漫画にしても、自分たちが作ったものが売れてほしい、っていうのは当然あります。でも、だからといって、売るためのアイデアとか施策だとか、そういうもので塗り固めたところで、そこから生まれるものってやっぱり本質的ではないんですよ。
奥村 俺らは先輩がバカやってるのを見てきていて、それで「気持ちよさそうだなー」って思って、実際やったらやっぱ気持ちよかった、みたいなのがあってさ。だからいつか、年とった時に「須田さーん! オレ須田さんの作ったやつ見てこの世界入っちゃったんすよ」みたいな感じでさ、アホの遺伝子を持った連中が現れてくんねえかな、とは思うよね。
須田 それが数珠つなぎになっていく。
奥村 それなくしちゃったらさ、やっぱ健全じゃねえよな。
須田 僕もまさに、そういう強烈な先輩たちの“毒”をたくさん浴びてきてるんですよ。その毒っていうのは、すっごく愉快で痛快で、自分がそれを啓蒙しようなんてことは恐れ多いですけど、無意識の中で、それが若い人たちにも届いてくれたらいいなとは思ってます。先人の皆さんと同じように、描くべきものを描く、描きたいものを描くというのを「暗闇ダンス」でできればいいなと。
奥村 まあ多分、一生そういうことをやっていくんだろうな。
須田 一生……死ぬまでやっていくでしょうね。
奥村 だって社名がバッタだからね。こう、ピョンコピョンコ……。日頃は草むらにいて、たまにピョーンってさ。
須田 ピョーン(笑)
(2016年1月13日、KADOKAWA社内にて)

(C)竹谷州史(原作:須田剛一)/ KADOKAWA
