NICT(情報通信研究機構)が、つらい経験による恐怖記憶を、無意識のうちに消せる技術を発表しました。ATR(国際電気通信基礎技術研究所)やUCLA(カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校)、ケンブリッジ大学と共同で開発したもの。PTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療手段として期待されています。

開発された手法は、被験者が恐怖の対象を見ているときの視覚野の脳活動パターンを、人工知能技術で検出。その脳活動パターンが検出されたときに、被験者に報酬を与える「Decnef(デコーディッドニューロフィードバック法)」という訓練を行うものです。
具体的には、研究者は、健康なボランティアの被験者に、赤と緑の図形を見るたびに微弱な電流を流し、図形を見ただけで恐怖反応(皮膚の発汗と、脳内で恐怖を司る「扁桃体」の活動)が生じるよう、恐怖記憶を形成します。
その後3日間Decnef訓練を実施。被験者に灰色の円を見せて「なんらかの方法で脳活動を操作して円を大きく認識するよう」指示し、大きく認識できれば報酬も増えると説明します。半分の被験者には、視覚野の活動パターンが赤の図形を見ているときのパターンに近づくほど、「大きな円を認識できた」と伝えて多額の金銭報酬を与えました。もう半分の被験者も同様に、視覚野の活動パターンが緑の図形を見ているときのパターンに近づくほど多額の報酬を提供しました。

この仕組みや訓練の目的が恐怖記憶の消去であることは、被験者には伝えられていません。つまり被験者は無意識のうちに恐怖対象である赤い図形を、「報酬が増える」というポジティブな概念に置き換えて克服できることになります。

3日間の訓練を経た翌日に試験した結果、訓練後のデータは訓練前に比べ、訓練対象となった図形への恐怖反応が減少していることが判明。恐怖記憶を消去する効果が認められました。

恐怖記憶を和らげる手法として、従来は患者に恐怖対象を繰り返し見せる、あるいはイメージさせる「暴露療法」がありました。これは効果的ではありましたが、患者への大きなストレスを伴う難点がありました。しかしDecNef訓練ならば、患者はつらい経験を思い出すことなく、無意識のうちに恐怖記憶を克服できます。
研究チームは今後の展望について、今回の訓練は健常者が対象であり、実際に患者へ適用するにはさらなる改良が必要とコメント。ただ、一歩間違えれば洗脳とみなされる可能性もあり、安全性を期して慎重に研究を継続するとしています。
(沓澤真二)
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