先週の「テレフォン人生相談」(ニッポン放送・月〜金曜11時〜 radiko)は加藤諦三ウイーク「誰にも言えない」。
妻と娘がいるのに同性のパートナーと関係をもっている男性。娘が自殺未遂してしまったという母親。両親と同じ寝室で、日々、夫婦生活の気配を感じながら寝ており、さらにその様子を祖父がのぞいているという地獄な環境で育った女性……などなど、確かに人にはちょっと言いづらい相談がめじろ押しだった。そんな中、今回ピックアップしたのは4月15日(月)放送回。
10年ほど前から女装をするようになったが、妻や娘に対して罪悪感があるという65歳男性からの相談。

パーソナリティ:加藤諦三(評論家)、今井通子(作家・登山家)、ドリアン助川(作家・ミュージシャン)、柴田理恵(女優・タレント)
5年の準備期間を経て、満を持して女装をスタート
子どもの頃から身体が小さく、女性のような体形をしていたため、両親から「男らしく育って欲しい」と言われてきた相談者。
おおむね普通の家庭で育ち、普通に結婚をし、普通に子どもを育ててきたのだが、50歳前後で友人をふたり亡くしたことで、「人生は一度しかないから、やりたいことをやって終わりたい」と思うようになったという。その時に頭に浮かんだのが「女性になってみたい」だったのだ。
女装のための道具をそろえたり、女装をすることで法律的な問題が起こったりしないのか……など5年間かけて調べ上げ、10年前に満を持して女装をスタート。
女装をするのはお酒を飲みに出るときだけだが、女性として扱ってもらえることに喜びを感じ、非常に楽しんでいるようだ。
「女性になってみたい」という願望は持っているものの、同性愛というわけではなく、女装をはじめてからも妻との関係性に変化はないという。
だったら、誰に迷惑がかかるわけでもないし、趣味は趣味として自由に楽しんでやればいいじゃないかとも思うのだが、「妻や娘に対する罪の意識をどう処理したらいいのか」という悩みがあるようだ。
さすが、女装をはじめるにも5年間の準備期間をおくほど慎重なだけはある。

マドモアゼル・愛(おじさん)のはんぱない説得力とすさまじい好奇心に圧倒される イラスト/北村ヂン
「ちょっとおかしい」ぐらい思われてもいいんじゃないの?
この日のアドバイザーは、心についてのエッセイスト・マドモアゼル・愛。
女装をしていたり、オネエ言葉を使っていたりするわけではないが、女性名なのに、見た目は思いっきりおじさんというマドモアゼル・愛。相談者もそうだけど、愛先生が女装に対してどんな意見を持っているのかも気になるところだ。
「私も男で、女の名前を名乗ってるから、同じようなものなのかも知れませんけど。人間の中には男であれ女であれ、ふたつの性があることは間違いないんですよね」
愛先生の見立ては、人間は多かれ少なかれふたつの性を持っているのが自然なことなのに、両親から「男らしく」と要求されて育てられたことで、バランスを崩しているのではないかというもの。
「もう一度『女性的な面を持つ自分をちゃんと認めてあげたい』という流れだから、全然おかしいと感じない」「もしこれ止めちゃったら、急に老け込むような可能性もあると思う」
基本的には「気にせず続ければ」というアドバイスだが、ここでマドモアゼル・愛の興味が変なところに向いていく。
「女装のレベルを知りたいんですよ、僕」
相談者も、ここぞとばかりにうれしそうに答える。「正直申し上げて、私が歩いている姿を見て、男性だと思う人はひとりもいないと思います」「男性からナンパされるってことはよくあります」。
65歳の女性がナンパをされること自体が珍しいだろうに、65歳の女装男性が頻繁にナンパをされるとは……!
マドモアゼル・愛は、歌舞伎の女形を例に出し、「(女装であっても)芸術性が高まれば誰も文句を言えない」と語る。
「例えば写真を撮って、写真集を自分なりに作ってみるとか」「(妻や娘にバレても)『この写真見てよ、面白くてしょうがないんだよ』で済む話じゃない?」
「……そうですかね?」
女装癖を持つ人がことさらさげすまれたりせず、自由に楽しむことのできる世の中であって欲しいとは思うものの、それが自分の夫だったり父親だったりしたら話は別。いくらハイレベルな女装であったとしても、「写真見てよ」で丸く収まるだろうか!? 相談者は、もっとうまく隠し通す方法や、妻や娘を説得する方法を聞きたかったんだと思うけど……。
「なんで喜びを、わざわざ取り去る必要があるの? その代償として、『ちょっとおかしい』ぐらい思われていいんじゃないの?」「私なんかもう、相当思われましたよ。『マドモアゼル・愛で男。何なんだ!?』って事ですよ」
「……なるほど」
女装に対してちょっとイケイケ過ぎるマドモアゼル・愛に、相談者自身も若干引いている感もあったが、自身の自虐ネタも交えた力強いアドバイスに、一応は納得した様子だった。
確かに50歳を過ぎてから、5年間の準備期間を経た後、10年間も楽しんでいる趣味。多少、妻や娘から冷たい目で見られたところで止まらないだろう。
「ちょっとおかしい」と思われても突っ走るしかない。他人から理解されづらい趣味嗜好を持つ人たちの胸にグサリと刺さる相談回だった。

【参考】東大卒の父親に見下されてきた19歳女性が周囲の友達を「あの子はバカだ」と見下す

【参考】42歳無職の弟が、両親の財布からお金を抜いてパチンコと酒に使っています。突きつけられた「家族の病理」
北村ヂン
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