「この仕事をしていると日本全体が見えてくる」――遺品整理人の小島美羽(こじま・みゆ)さんはそう言います。
住人が亡くなった部屋を清掃する。「遺品整理・特殊清掃」という職業を簡潔に説明すると、そういうことになるでしょう。状況は多岐にわたります。ごみ屋敷化した部屋、若い住人が餓死してしまった部屋、お風呂で孤独死して遺体がお湯に溶けてしまった部屋、飼い主が孤独死してしまい、飼いネコたちが2、3ヵ月にわたって取り残されていた部屋……。小島さんは年間370件以上の仕事をこなすなかで、孤独死が誰にとってもひとごとではないことを広く伝えたいと考えるようになったそうです。
そこで小島さんが選んだ手段が、孤独死の現場を模したミニチュアでした(関連記事)。

小島さんの作ったミニチュア
小島さんのミニチュアは大きな話題を呼びました。2019年8月には、ミニチュアの写真と小島さんのコラムが収録された書籍『時が止まった部屋 遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死のはなし』(原書房)を出版しています。こちらもすぐに反響があり、発売後2週間で重版されました。
今回ねとらぼ編集部は、小島さんの働く遺品整理・特殊清掃の会社「遺品整理クリーンサービス」を訪れ、直接お話をうかがいました。小島さんはどのような思いでこの道を選び、死者の部屋に向き合っているのでしょうか? インタビューとミニチュア写真を、全3回でお送りします。

小島美羽さん
この企画は全3本の連載記事です。
第1回
【試し読みあり】遺品整理から、日本全体が見えてくる 「孤独死のミニチュア」を作り続ける遺品整理人はなぜこの道を選んだのか?(2019年9月21日公開)
第2回
遺品整理ってどうやって頼めばいいの? 「孤独死のミニチュア」を作り続ける遺品整理人に聞く「現場」の話(2019年9月22日公開)
第3回
オタクの孤独死、現場に取り残されるペット…… 「孤独死のミニチュア」を作り続ける遺品整理人に聞く「終活」(2019年9月23日公開)
この仕事に就いた経緯
――改めて、遺品整理と特殊清掃のお仕事に就かれた経緯を教えていただいてもよいでしょうか。
高校2年生のころに父が脳卒中で倒れて、亡くなってしまったことがきっかけです。そのときに後悔する部分とか、失ってから気づいたものが多くて……。18歳で就職したのですが、後から特殊清掃というものがあると知って、自分も力になれたらなあと思いました。ただ「やりたいなあ」という気持ちだけではやれないので、いろいろ調べていくうちに、悪徳業者につかまってしまった遺族の方の話を目にして……「悪徳業者が許せない」という正義感が(今の仕事に就くことを)後押ししました。
あとは遺族側の人間がそういう遺品整理や特殊清掃の仕事をやったほうが、遺族の気持ちも理解できるのかなと思ったんです。ちょっとでも遺族の方や亡くなってしまった方に安心してあの世に行ってほしいと思って、この仕事をしています。
――ご遺族との共感を大切にされているんですね。先ほど出てきた「悪徳業者」というのは、具体的にはどのようなことをしているのでしょうか。
遺族の方に失礼なことを言ったり、遺品を全部捨ててしまったりする場合もありますし、不法投棄をしたり、(遺族の)目の前でものを投げたり壊したり……ただのごみ扱いって言うんですかね、貴重品が出てきても返さないで持って行っちゃうとか。あとは値段を勝手に上げていく業者もいます。後からオプションをつけていって、最終的には100万円近い請求をするとか、見積もりを項目ごとに細かく書かないで総額だけ書いて渡すとか。
なかなかなくならないんですよね……。やっと一社なくなったと思ったら新しいのがまた出てくる、いたちごっこ状態です。

孤独死で最も多いという、50〜60代男性の部屋をテーマにしたミニチュア
――特殊清掃のお仕事に就くまでに覚悟を決めるための時間があったと本でもおっしゃっていましたが、その間はどのようなことを考えていらしたんですか。
「もしかしたら遺体があるかもしれない」というのを前提に、イメージトレーニングをしていました。自分も最初からそういうものが平気な方ではなくて、どちらかというと苦手だったので、耐性を作っておかなければならないと思って、ネットで海外の事故や遺体の写真を見たりしていました。
それからほかの特殊清掃、遺品整理業者さんの本を読んで、どういう仕事なのか勉強しました。それでもまだ揺らがなかったし、よりいっそう「やりたい!」っていう気持ちが増したんです。
あとは匂いですね。想像できない匂いなんですけど、想像しました。これぐらいすごいんだろうなって。実際行ってみたら想像よりは大丈夫でした(笑)。まあすごい匂いなんですけど……。
――初めての現場ではどう思われましたか。
ごみ屋敷化していた現場でした。それも6か月ぐらい経過していたので、体液も出ていたし、蛆や虫もすごく湧いていて、すごい状態ではありました。でも想像のほうが勝っていたので、現場自体は「ああ、こういう感じなんだな」って。

ごみ屋敷化した現場
書籍化の経緯
――本になるにあたって、版元の原書房からはどんなお声がけがあったんでしょうか。
「本を出しましょう」っていう提案自体は何社かから来ました。他の出版社の方たちは「ミニチュアの写真集を出したい」という話で、下見に来て話をしてそのまま何もないことが多かったんですけど、原書房さんは来られてすぐ「こういう感じでやりたいんです」って最初から企画書を全部そろえてきてくれたんです。ここまで本気の出版社さんは初めてだったので「ここしかないな」「ここに全てを捧げよう」と思ってお願いしました。
――すごい熱意ですね……! 文章に書き起こすなかで心境の変化はありましたか。
心境はあんまり変化がないですけど、本を出してからは周りの反応が1〜2年前とがらっと変わりましたね。「自分の周りでもごみ屋敷や孤独死があった」って声をかけてもらったり、ネットでも「自分もこうなるかもしれない」ってコメントを見かけたり。「自分もこうなるかもしれない」と思ってもらいたいと思っていたのが現実になってきていて、本当に書いてよかったなって思います。

『時が止まった部屋』(書影はAmazonから)
――自分の体験に対する見方について、変わったところはありますか。
見方が変わったことはありますね。昔と今の感覚って全然違うので。
この仕事をしていると日本全体が見えてくるんですよ。このままいくと、餓死や貧困の問題は本当に大変なことになるんじゃないかと思います。例えば親の仕送りがなくなって餓死で亡くなった大学生とか、実際にいたんです。そういう……自分で生きていくことができない状態にある人、っていうんですかね、そういう現実があるんですよね。
――日本でも餓死が頻繁に起きているという事実には、私もおどろきました(関連記事)。
私もこの仕事を始めなければ全く知らなかったですし、それこそ孤独死やごみ屋敷なんか自分に関係ない、ぐらいだったかもしれないですよね……。
(続く)
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