学校へ行けなかった“僕”の、それから――そんなストーリーの漫画『学校へ行けなかった僕と9人の友だち』の単行本が双葉社から3月27日に発売されました。

作者は棚園正一さん。2015年に刊行された『学校へ行けない僕と9人の先生』(双葉社)は、小・中学校の9年間不登校だった自身の実体験を描いた作品で、学校の先生をはじめさまざまな人と交流しながら、閉ざされていた心の扉が少しずつ開けていく物語でした。
憧れだった漫画家・鳥山明さんとの出会い、というユニークな体験も目を引きますが、実体験に基づく当事者の心情が丁寧に描かれた同作は、同じように不登校に悩む子どもたちや、親や教育関係者からも支持を集めました。
“フツウ”なんてない
『学校へ行けなかった僕と9人の友だち』は、『学校へ行けない僕と9人の先生』の続編にあたり、中学校卒業後の作者がアニメの専門学校や大検予備校、大学などで出会った人々とのエピソードを描いたもの。

思い悩みつつも前向きに社会と関わろうとする主人公は、行く先々で居場所のなさや疎外感に悩みつつ、“フツウ”ではない自分が大人になれるのかといった葛藤を繰り返しますが、その姿は青年期の普遍的なドラマ性を帯びています。

自分が周りより幼く、周りは大人だと感じながら、自分も“フツウ”であらねばならないという思いが頭から離れない主人公。大人と子どものはざまで不安定に揺れながら、大人になるとはどういうことなのかと自問を繰り返していきます。
いつしか、学校に行けないころから心の支えだった「漫画を描けること」も、苦しい気持ちが先に立つように。漫画家になることが人生の意味だと思い込んでいただけではないかと思い悩みながら、“フツウ”でないことへの焦燥感に駆られる主人公ですが、学校で学ぶ学問のように、正解と不正解だけで構成されているわけではないのが人生です。

“フツウ”という概念も相対的なものでしかないことに徐々に気付いていくのは、おかれた場所ではなく、分かり合える友達の存在があってこそ。前作で描かれた鳥山さんとの運命的な出会いのようにドラマティックではないありふれた人付き合いを通じて主人公が気付き、人生は誰1つ同じものはないのだから悩みも迷いも受け入れて自分なりの人生を歩んでいこうと視界が開けていく様子は、ぼんやりとした生きづらさを覚える方にとってヒントになる考え方なのかもしれません。

(C) 棚園正一/双葉社
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