マウント取り放題の知り合い夫婦も最悪(褒め言葉)だった。
娘の彼氏はまとも! だと思ったら……
とはいえ、劇中に出てくるのは過激派ヴィーガンやクソみたいなマウントをしてくる夫婦だけではない。例えば、娘が連れてきた彼氏もまたヴィーガンなのだが、彼は「僕は店を襲うような連中とは違います。個人的な信条を他人に押し付けたりはしません」と言ってくれる。
そうだよね、お肉を食べる人も、ヴィーガンも、それぞれが自分の信条を大切にしつつ、他人に押し付けたりしなければいいんだよね! なんだまともな人もいるじゃないか! と、安心したのもつかの間。彼は「肉食の人とキスしたら肉も食べたも同然です」「ぶどうをつぶす時だって葉虫が入っているかもしれません」など、いくらなんでもそれは厳しすぎると思ってしまうルールを次々に話し出すので、肉屋夫婦となんだかギクシャクしてしまうのだ。
こうした展開により、過激派ヴィーガンを次々に殺害するという飛躍の激しい場面だけでなく、現実にもありそうな、肉食をしている人とヴィーガンとの気まずい関係性も描いているというわけだ(それにしたって極端だが)。また、夫婦はそれでも彼に歩み寄ろうとしたり、娘の幸せを願う様を見せる(裏では過激派ヴィーガンをハムにしているけど)。
こうした視点を挟むことで、本作はただヴィーガンを敵視したりさげすむような内容にはなっていない。

(C)2021 – Cinefrance Studios – TF1 Studio – Apollo Films Distribution – TF1 Films Production – Chez Felix Cinefrance SAS – Cinefrance Plus – Cinefrance 1888
また、先にも触れた『ジョジョ』では、15巻においてインドに訪れた一行が、現地の人々に囲まれ「バクシーシ」と言われ、金銭などをせびられるシーンがある。バクシーシとは、中東・東南アジアなどで根付いている、富める者が貧しい者に金銭を施すのを良しとする風習。
「ヴィーガンズ・ハム」劇中では、このバクシーシという言葉が、貧乏人を蔑む、差別的な文脈として出てくる。それもまた作り手が差別を、前述したマウントよりもさらに悪しきものとして捉えているからこそのものである。殺人もマウントも差別もダメ絶対。

(C)2021 – Cinefrance Studios – TF1 Studio – Apollo Films Distribution – TF1 Films Production – Chez Felix Cinefrance SAS – Cinefrance Plus – Cinefrance 1888
本作は、「不幸の連鎖が続きすぎると、人は間違った方向にエスカレートしてしまうかもしれない」という寓話的な構造をしており、不寛容や排他主義についての普遍的な風刺が込められている。ここから反面教師的に、他者の主張を認めつつ自分の信条を持ち続けることや、お互いを尊重し合った上で話し合う重要性も学べるだろう。勝手なレッテル貼りなどよりも大切なことは、絶対にあるはずだ。
夫婦は連続殺人を繰り返していくのだが、夫のほうはあることをきっかけに、さすがに良心の呵責に耐えきれなくなる一幕もある。そうした視点から、「なんだ一定のモラルもあり、ちゃんとしているじゃないか!」と思わせるところもあった。そう、決してインモラルで不謹慎なだけの内容ではないのだ。9割5分くらいがインモラルで不謹慎だけど。ぜひ、笑うに笑えないけど笑ってしまうことも含めて、楽しんでほしい。
(ヒナタカ)