ねとらぼ
2025/09/22 20:15(公開)

「配属どうする?」 ミドル社員の再配置に、ChatGPTがくれた“再発見の視点”【AIよもやま話】

 エンジニアリングマネージメントの久松です。レンタルEM(エンジニアリングマネージャー)として、常時20社以上のお客様とご一緒しています。

 社外の立場から開発組織に伴走し、必要に応じてマネジメントを代行する。それが私の仕事です。 

 本連載では、実際に支援してきた現場でのエピソードをもとにしていますが、登場する方々や企業が特定されないよう、一部内容をアレンジしてご紹介します。

 AIを用いた組織運営のリアルなヒントを、できるだけ生々しさを残しつつお届けできればと思います。

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40代ミドル社員の「配属どうする?」問題

 今回取り上げるのは、あるお客様の開発部門での出来事です。 

 現状のポジションでは力を発揮しきれていないミドル層の社員について、「この人をどこに配置するべきか」で責任者たちが悩んでいました。

 早期退職や人員整理といった現実的な選択肢が視野に入る時代だからこそ、「再配置」という判断は難しさを増しています。何度も議論を重ねたものの、明確な結論にたどり着けずにいました。

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「いったんAIに聞いてみませんか?」

 そこで私が提案したのが、生成AI「ChatGPT」に壁打ちしてみることでした。

 こちらの企業では法人契約を通じてセキュリティや情報管理に配慮した環境で活用しており、個人が特定されない範囲で情報を入力し、第三者的な視点を借りることができます。

 入力したのは「対象メンバーの強み」と「課題だと感じる点」です。

 そして最後にこう問いかけました。

「あなたはキャリアアドバイザーです。この人に向いている職種やポジションを提案してください」

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ChatGPTの答えに“再発見”があった

 ChatGPTは数秒でこう返してきました。

  • 「この方は、中長期的に安定した成果を求められる領域や、既存システムのリファクタリング・最適化業務において力を発揮できると考えられます」
  • 「また、経験を生かし、若手エンジニアのレビューやメンタリングを担うポジションも適しています」

 開発部門の責任者は、その答えを見てうなずきました。

「確かに、新規開発のスピード勝負には向かない。でも、改善や育成なら、この人にしかできない強みがある」

 長年一緒に働いてきたからこそ見えづらくなっていた“良さ”を、AIがあらためて言葉にしてくれたのです。

ミドル社員こそ、“リセット視点”が必要

 若手であれば「伸びしろ」で語れます。

 一方で、長期在籍した社員は「制約」や「できないこと」に目が行きがちです。

 「もう新しいことは厳しいのでは」「柔軟性に欠けるのでは」──そんな先入観が議論を覆ってしまうこともあります。

 ですが、積み重ねてきた経験や知識は必ず生かせる場所があります。

 それがいまの環境と合わないだけの可能性はあります。

 ChatGPTに強みを言語化させたことで、「課題」からではなく「良さ」から再配置を考えるという視点を取り戻せました。

AIは「判断」しない。でも「整理」をしてくれる

 もちろん、最終的に配置を決めるのは人間です。AIに任せることはできません。

 ですが、情報を“言語化”して整理してくれることで、議論は驚くほど前に進みます。

 今回もChatGPTの提案をそのまま採用したわけではありません。

 しかし「この人の強みをもう一度見直す」という気づきが、責任者にとって再配置を前向きに検討する材料となったのです。

再配置は“手放す”ことではなく“次を見つける”こと

 最終的に責任者は、メンバーの業務を一部調整しました。新規開発のリードから外し、既存システムの改善や若手のレビューを主な役割としたのです。

 すると徐々に状況が変わりました。

 若手から相談を受ける場面が増え、成果物の質も安定。本人も再びやりがいを感じている様子が伝わってきました。

 異動や再配置という言葉はネガティブに響きがちですが、実際には「輝ける場所を再発見する」前向きな選択肢です。

AIは“フラットな再発見のきっかけ”になる

 早期退職や人員整理が進むなか、40代のミドル社員をどう生かすかは多くの組織にとって課題です。

 強みを持ちながらくすぶっている人材は少なくありません。

 ChatGPTのような生成AIは、その強みを言語化し、再配置を検討する上でのきっかけをくれます。

 「配属どうする?」と悩んだとき、AIに整理を手伝ってもらうことで、見えなくなっていた良さにもう一度気づけるかもしれません。

 その小さな気づきが、本人にとっても、組織にとっても、大きな一歩になるのです。

著者プロフィール

久松剛
合同会社エンジニアリングマネージメント社長兼レンタルEM


IT開発組織づくりの水先案内人。合同会社エンジニアリングマネージメント社長兼レンタルEM。博士(政策・メディア)。IT研究職(動画転送、P2P)からビジネスに転身。ベンチャー3社で中間管理職を歴任。2022年に現職創業。大手からスタートアップに至るまで常時約20社でITエンジニア新卒・中途採用や育成、研修、制度設計、組織再構築、DevRelなどを幅広く支援。人材紹介会社やフリーランスエージェント、RPOの顧問も手掛ける。

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