ねとらぼ
2025/11/11 08:15(公開)

「AIアーティスト」がビルボードでチャート入り AI音楽が波紋を広げる新時代【海外】

 AIが紡ぐ音楽が、現実の音楽チャートを揺るがしています。ここ数カ月、AI生成アーティストが次々とビルボードに登場。アメリカのビルボードで初めてチャート入りを果たした「ザニア・モネ(Xania Monet)」など、AIアーティストが台頭しています。

画像はYouTube「Xania Monet」からの引用
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人間とAIの共作が生み出す新しい「AI音楽」

 AI音楽とは、人工知能がメロディーや歌詞、リズムなどを生み出して創作される音楽のことです。近年では、AIが完全に楽曲を生成するだけでなく、人間のアーティストと協力して創作を行う“共作型”のスタイルも急速に広がっています。

 AI音楽の大きな特徴は、スピード・自由度・創作の民主化にあります。数分で一曲を生成できるスピード感、ジャンルや感情を自由に設定できる柔軟性、そして音楽理論を知らなくても作曲が可能になる手軽さ。これらの要素が、かつて一部の専門家だけのものだった音楽制作を、誰にでも開かれた創作活動へと変えつつあるのです。

 一方で課題も存在します。AIは大量の既存楽曲を学習して新しい音を生み出すため、著作権やクレジットの問題が避けて通れません。

 音楽ビジネス誌『Music Business Worldwide』によると、AI音楽制作プラットフォーム・Sunoは「生成された曲はサンプリングではない」と説明していますが、創作の境界は依然として曖昧なままです。

 しかし、こうした新しい技術は、すでに音楽シーンを大きく変えています。

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AIアーティストがヒットチャートを席巻

 ビルボード誌の報道では、過去5週連続で少なくとも1組のAIアーティストがチャートデビューを果たしており、AI音楽が商業的成功を収めつつあることが明らかになりました(本記事執筆時点)。

 特に注目を集めているのが、AIシンガーのザニア・モネ(Xania Monet)です。

AIシンガー
画像はInstagram「Xania Monet」からの引用

 モネはミシシッピ州の詩人・デザイナーであるテリシャ・“ニッキー”・ジョーンズ(Telisha “Nikki” Jones)が生み出したAIアーティスト。ジョーンズは自作の詩をAIツール・Sunoに入力し、AIと共同で楽曲を制作しています。

 このハイブリッドな制作手法が功を奏し、モネは米国ビルボードのエアプレイチャートに初登場したAIアーティストとなりました。

 さらにモネは、公式ストリーミング再生回数4440万回を突破し、わずか数カ月で5万2000ドル以上の収益を記録(いずれも本記事執筆時点)。音楽レーベル・Hallwood Mediaと数百万ドル規模の契約を結ぶなど、AIアーティストとして前例のない成功を収めています。

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賛否が分かれるAI音楽──創造か、それとも脅威か

 モネなどの成功が注目を集める一方で、AI音楽について業界内では賛否が分かれています。

 R&Bシンガーソングライターのケラーニ(Kehlani)は、TikTokで「音楽におけるAIの蔓延は制御不能だ」と強く批判。AIが既存の著作物を学習して新しい楽曲を生み出す点を問題視し、「この世の何物もAIを正当化できない」とコメントしています。

 また、マック・デマルコやSZAといった人気アーティストも懸念を表明する一方、ABBAのビョルン・ウルヴァースは「AIは創作を拡張する素晴らしいツール」と前向きに評価しています。

 AI音楽は、創造の可能性を広げる革新的な技術なのか、人間の表現を脅かす存在なのか──その議論は今も続いています。

業界の対応と未来への視界

 AI技術の急成長に対し、音楽業界も動きを見せています。Spotifyは先月、7500万曲ものスパム的AI楽曲を削除し、AIなりすまし対策を強化しました。

 それでもAI音楽の勢いは止まらず、AI生成のバンド「The Velvet Sundown」がわずか一カ月で月間40万人のリスナーを獲得するなど、新たな“デジタルスター”が次々に登場しています。

 一方で、ポール・マッカートニー、ケイト・ブッシュ、エルトン・ジョンらイギリスの音楽界の大御所たちは、AI時代の著作権保護を求める書簡を政府に提出。エルトン・ジョンはAIについて「若手アーティストの収入を希薄化し、脅かしている」と警鐘を鳴らしました。

 AIが生み出す音楽が本物の“芸術”と言えるのか──。その問いに明確な答えはまだありません。ただ一つ確かなのは、AIと人間の協働が音楽の新しい形を築き始めているということです。 

参照

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