ねとらぼ

サイコパス船長VSガッツのあるサーファーの対決カード

 そんな秀逸なオープニングを経てからメインの物語に移行するのだが、こちらの描写も存外よく出来ている。

 まず、主人公のサーファーであるゼファーは、何やら「過去の傷を癒やす」という目的のために、オーストラリアのゴールドコーストに逃れてきたようで、地元の不動産業者の青年モーゼズと出会い一夜を共にしているものの、どこか対応はそっけなく「ここではないどこか」を探しているように見える。

(C) 2025 ANIMAL HOLDINGS PTY LTD

 そんなゼファーは、突如してサイコパスの船長タッカーに拉致・監禁されるという極限状態に置かれてしまう。

 このあらすじからわかる通り、本作はそれなりにキャラクターの描写を見せてから、監禁からの脱出サスペンスへと転換していく。序盤のゼファーはややダウナーで消極的にも見えるからこそ、監禁されてからタッカーに「ガッツがある」と褒められるほどに精神的にも物理的にも強く戦うギャップが際立つ。さらに、彼女のことをわずかにでも知っているモーゼズに「お願いだから彼女のことを見つけてくれ!」と観客が願える効果も生んでいる。

 こうして「サイコパス船長VS(監禁されているが)ガッツのあるサーファー」の攻防戦が展開されるわけだが、もちろんサメが忘れられているわけではない。サメがどのように「利用」、いや「武器」にされるか、どのような事態が起きるのかは秘密にしておくが、人によっては本気で不快になってしまうかもしれないほどの、容赦なしの「サメ地獄」を体感してほしい。

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「ここぞ」という時のサメの活躍こそが見どころ

 ここまで書くと「サメよりもサイコパス船長のほうが目立ってね?」と思う人もいるかもしれない。実際その通りだ。サメはあくまで「利用される側」であり、サスペンスはサイコパス船長とのバトルが主体なのだから。ともすれば、サメを「添え物」のように感じてしまい、それをもって否定的な評価を下す人もいるかもしれない。

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 しかしながら、本作ではむしろそれこそが重要だったと思える。サメは多くの場面で「背景」であるが、その背景こそが「サメに取り憑かれた」船長タッカーのキャラクターに深み(あるいは浅はかさ)を与えているのだと、中盤のセリフからわかるようにもなっているからだ。

 何より、前述したオープニングシーンでサメの美しい姿も見せているし、クライマックスとラストではさらなる見せ場もある。サイコパス船長が目立っているからこそ、「ここぞ」という時のサメの活躍も見どころになっているので、このバランスも筆者は肯定したいのだ。

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サメに誤解を与えていた『ジョーズ』へのカウンター

 実際にショーン・バーン監督のサメ映画への向き合い方も真摯に思える(良い意味での軽さも見える)ものだった。プレス資料から引用しておこう。

「シリアルキラーものとサメ映画はこれまでにない斬新な組み合わせで、作品の核となり、確実に注目を集められるハイコンセプトだと思ったんだ。分かりやすい敵がサメではないサメ映画を作る機会に恵まれ、とてもワクワクしたよ。もし『ジョーズ』がサメを怪物に仕立てあげてしまったのなら、遅ればせながらこの映画で残酷な誤解を解くことができるだろう。真の怪物は人間だ!!」

 この言葉通り、サメが過剰に狩猟の対象となってしまったのは、サメを恐ろしい存在として描いた『ジョーズ』の影響が強いという見方があり、後年にスティーブン・スピルバーグ監督はそのことを後悔していると明言していた。

 前述したように本作でのサメは「武器」かつ「利用される側」のように描かれている部分も多いのだが、だからこその「それだけではない」姿も際立っているし、少なくとも『ジョーズ』のような“ただ人間を喰らうだけの怪物”になっていない。それをもって、作品自体が『ジョーズ』のカウンターになっているような構図もあるのだ。

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 また、「◯◯よりも人間が怖い」というのは、ホラーにおいては使い古された常套句のようではあるが、実際に本編でのサイコパス船長はサメよりも恐ろしく思えるし、その反面として「人間の気高さ」も讃えているように思えた。

 それを示したかのような、終盤の主人公ゼファーの「選択」と「変化」は涙が出てくるほどのものであったし、彼女のように「ここではないどこか」に逃避したいと考えていた人にとっては、本当に福音になり得るだろう。ぜひ、「意外な感動」にも期待して、この『デンジャラス・アニマルズ 絶望海域』を楽しんでほしい。

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