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『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』が、7月24日よりついに公開された。原作はイラストレーターのナガノが2020年よりX(旧Twitter)にて連載した漫画。朝の情報番組『めざましテレビ』で放送された短編アニメにより子どもたちの人気も急速に拡大し、数えきれないほどのグッズ・企業コラボも展開し、今や国民的な人気を博している。
しかも、今回は人気の高い長編エピソード「セイレーン編」の映画化であり、入場者特典第1弾として全8種「チャームミニフィギュア」の特典配布もある。公開初日のTOHOシネマズ 池袋では41回の上映回数が用意され、満席が相次いだ。筆者が朝一番の回に劇場へ赴くと、グッズ購入の長蛇の列ができており、文字通り熱狂に包まれていた。
ライター:ヒナタカ
アニメとインディーゲームが好きで映画ならなんでも観る雑食系ライター。「All About ニュース」「マグミクス」「NiEW」のほか、新たに「ダ・ヴィンチWeb」でも連載を開始。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』
X:@HinatakaJeF
note:@hinatakajef
原作者・ナガノは総作画監督も務めていた!
今作は、原作者のナガノが映画の脚本を手がけているどころか、なんとエンドレクジットで総作画監督の一人に名を連ねていることも判明した。いわば『THE FIRST SLAM DUNK』にも近い「原作者がガッツリと関わったアニメ映画」でもあるのだ。
さらに監督の及川啓は『ヒナまつり』でコメディ作品との相性を良さを示していたし、アニメーション制作は『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』などのCygamesPictures(現:Cypic)が手がけており、作品としてのクオリティーは保証ずみと言っていい。
その上で、筆者は原作の「セイレーン編」を後述の理由で読まないまま、短編アニメをいくつか観ている程度で劇場へ足を運んでみた(おそらく、同様のライト層または親御さんは多いだろう)。
結論から申し上げれば、国民的な熱狂にふさわしい、素晴らしい作品だった。というか泣いた。ここでは、まずは観る前に知りたい「怖いと聞くけど子どもを連れて行って大丈夫?」「IMAXで観る価値はある?」といったことをまとめていこう。
怖いは怖いけど「少年向けのダークファンタジー」に収まる範囲だった
筆者が「初見」でこの映画を楽しみたかった理由は、原作既読者から寄せられる「警告」に、逆にワクワクしたことにもある。
それは「怖い」「精神的にしんどい」といった「かわいいだけじゃない」ことが伝わる意見の数々だった。他にも「2分くらいでわかる予習ムービー」では「かわいらしい見た目とは裏腹に、日々労働をして生計を立てています」といった衝撃的な設定が告げられている。
このゆるふわな見た目のキャラと世界観で、どのような重くて怖い話が展開されるのか……そこへの期待がとても大きかったのだ。
結論から言えば、確かにとても怖かった。
それでいて、もちろん子どもが観られないということもなく、レーティングはG(全年齢)指定であるし、何よりキャラのかわいさのおかげで恐怖表現はかなりマイルドになっている。しかしながら、驚異的な存在から追われるパニックアクション映画の王道的なハラハラドキドキの展開と、何より「業」と「罪」を克明に描いた物語は、大人こそが恐怖を覚えるのではないか。
似ている作品として、要素の一部が重なる映画『ミッドサマー』やゲーム『SIREN』といったガチのホラー作品が挙げられていたりもするが、個人的に印象が近い作品およびジャンルは『鋼の錬金術師』や『HUNTER×HUNTER』といった「少年向け漫画の範囲に収まるダークファンタジー』だった。それらとは違って血が飛び散るといった直接的な残酷描写はなく、怖い事実もやや間接的に「想像させる」塩梅ではあるので、むしろ親御さんは安心して子どもに見せやすいのではないか。
個人的には、「島民や船に乗り合わせたモブキャラが、顔がないシルエット状態になっている」「モモンガの言動があまりにサイコで、通常のパニックアクション映画では真っ先に死ぬタイプすぎる」といったこともまあまあ怖かったりしたが……まあ、それらは本質的な恐怖ではないだろう。
子どもにこそおすすめしたい「正しさ」を考え続ける物語
その上で、本作はぜひお子さんにこそ観てほしいと願う。なぜなら主人公のちいかわが「何が正しいのかを考え続ける物語」であるからだ。
対立や分断がはびこり、誰かを一方的に糾弾することも多い今の現実の世界では、「考えること」そのものを尊ぶ作品の姿勢は、教育上も素晴らしいと思えた。数々の怖いシーンも「それでも(だからこそ)主人公が考える」ことにつながっているので、間違いなく作品には必要だった
また、『ちいかわ』は子どもに絶大な人気を誇る一方で、もともとは13歳以上を対象としたSNSで連載されていた、つまりはある程度は大人向けに描かれた作品とも言える。逆に言えば、「大人にこそささる」「考察がはかどる奥の深さ」があるからこそ、もっと言えば「子ども騙しではない」「子どもを子どもだとみくびっていない」作品だからこそ、ここまで幅広いファンを獲得できたのではないか。
無理にIMAXで観なくてもいい、だがマナー違反を回避できる可能性は高いかも?
筆者はIMAXで本作を鑑賞したが、結論から言えば、無理にIMAXを選ぶ必要はまったくない。「このデフォルメ表現の効いた絵を、微細な描写を克明に映すIMAXで……?」という疑問はつきまとったし、具体的にはチラシの文言の「〜〜(波ダッシュ)」の省略された表現が、よりはっきり見えて気になったりもした。
しかしながら、本作の重大な魅力に「音」がある。主題歌や挿入歌は言うまでもなく、漫画という媒体では表現しきれない「耳で聴いてこそ」のものであるし、さらには「打撃音」にかなりの迫力がある。IMAXで観ると、それらの音がよりダイレクトかつ全身に届く感覚もあったのだ。
しかも、絵柄はシンプルでかわいい一方、アクション場面の作画のクオリティーはしっかり「劇場で観るべき」ものだった。IMAXで端から端まで広がる大画面で、入魂のアニメーションを堪能する価値もあるはずだ。
何より、IMAXでは通常の上映よりも座席に余裕がある印象の上、筆者が観た回では誰一人、劇場マナーに反する行為をする者はいなかった。もちろん一概に言えることではないが、「上乗せ料金も払って作品を楽しみたい人」が集うIMAXでは、マナー違反の客に遭遇する可能性は低いのでは……とも思う。
また、エンドロール後に重大なおまけがあるので、最後まで席に座っておいてほしい。
さてさて、これ以上の予備知識はなくてもいい、というくらいであるし、原作者のナガノも「(何も)知らなくてもいい」ことをアピールしている。
それでも、筆者が大いに感動した理由を、本編の内容に触れつつ記していこう。
※以下、『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』の決定的なネタバレは避けていますが、一部の重大な要素と展開に触れています。
『火の鳥』のアンサーというべき「永遠のいのち」をめぐる物語
本作のあらすじは、島へ招待されたちいかわたちが楽しい時を過ごす……ものの、伝説の生物・セイレーンと出会い、「仲間の人魚の1匹が島民に食べられてしまったので、その犯人探しをしている」事実を知らされる、というのものだ。しかも、人魚の1匹が食べられた理由として推測されるのは、「人魚の肉を食べると永遠のいのちが手に入る」といううわさだった。
それは若者たちに人気の「謎解き」「推理要素」とも言えるが、物語の本質ではない。必然的にちいかわたちはセイレーンと島民たちの「仲裁」に近い立場に置かれ、複雑な心境に追い込まれ、重大な選択に迫られるというドラマこそが、真に重要だったのだとわかるだろう。人によっては松本清張や横溝正史原作の映画のような趣も感じられるのではないか。
そして、「永遠のいのち」をめぐる物語の代表例には、言わずと知れた手塚治虫の代表作『火の鳥』があり、その中でも特に『未来編』は生き続けなければならない苦しみが克明に描かれている。その他の作品でも、不老不死は「人間の悪しき欲望」のように否定的・批判的に描かれることも多い。
この『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』でも、セイレーンから「犯人への罰」として「カラダピッタリのオリに入れて、深くてくらーいとこで、『永遠のいのち』を味わってもらうの」ということが語られており、不老不死であることの恐ろしさをはっきりと示している。
しかし、ネタバレになるのでここでは伏せておくが、本作は「永遠に生き続ける」ことについて、ただ怖いだけではない、とても複雑にして深淵な価値観を投げかける物語を展開していく。それは『火の鳥』および数多の「永遠のいのち」の物語に対する、意外でありながら誠実でもあるアンサーであり、だからこそ筆者は涙したのだ。
アニメ映画化のための演出や工夫も完璧
そのように素晴らしい物語と思えたのだが、アニメ映画化にあたっての工夫や演出も完璧としか言いようがない。
劇場パンフレットでは「原作と映画の比較」が掲載されており、ただ漫画をトレースするだけではない、アニメだからこその「構図」や「描き込み」のこだわりがあり、種々の場面の迫力やエモーションがより高まっているのが、明確にわかるはずだ。
声優陣も最高で、特に観る前は「なんだこいつ?」と思うばかりのルックだった「島二郎」が、「こ、こんなにかっこいいの?」と戸惑いつつも惚れたのは、最上嗣生の声と熱演の功績があまりに大きい。
そして、「ある場面でほぼセリフがない」ことも、映像化作品だと、より際立ってエモーショナルになることも思い知らされた。『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』のラスト、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』のひろしの回想、『カールじいさんの空飛ぶ家』の冒頭、『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』のクライマックスに並ぶ、「サイレント」の名場面だった。
何より、原作漫画でも明確に歌詞が書かれた「あの曲」を実際に聴いてこそ、物語と画のシンクロがあってさらに涙腺を刺激されるのだと、映画を観た後に原作を読んだ身であっても、大いに伝わったのだ。
実は似ていた『映画キミとアイドルプリキュア♪ 』
最後に、本作を楽しんだ人におすすめの映画を紹介しておこう。それは『映画キミとアイドルプリキュア♪ お待たせ!キミに届けるキラッキライブ!』だ。
こちらと『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』とは、「島に招かれる」が物語の発端であることや、特定のキャラクターが「長く生きる」事実が示されるなどの共通点がある。しかも、脚本を手がけたのは『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の吉野弘幸であり、悲劇性が強い『ゲ謎』へのアンサーというべき感涙の作劇も、『映画キミとアイドルプリキュア♪ 』にはあったのだ。
その「長く生きる」ことが果たして幸福なのか不幸なのか……それに対しての答えは単純ではない。少なくとも1つに限らないということも、両者の物語を追えばこそわかるだろう。
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