ひりひりとしびれるような緊迫感がたまらない――映画的な演出が際立つサスペンスアドベンチャー「FAHRENHEIT」レビュー(1/4 ページ)

このゲームで、プレーヤーは冒頭から極めて奇怪な体験をすることになる。死体や凶器を隠し、手や衣服に付いた血を洗い流して、努めて平静を装いながらその場を立ち去らなければならない。なぜなら、主人公は“殺人犯”だから……。

» 2006年01月31日 14時51分 公開
[小泉公仁,ITmedia]

フランス発の新機軸アドベンチャー

 わたしとしてはまさに待ち望んだ日本版の発売だ。北米で昨年秋にリリースされた「INDIGO PROPHECY」というゲームがあって、そのミステリアスなタイトルや、どこかもの悲しさを漂わせるビジュアルに大いに興味を惹かれていた。いっそのこと海外版を取り寄せようかとも思ったが、内容がアドベンチャーらしいので、英語が苦手なわたしではストーリーや台詞のニュアンスが理解しきれないかも……とためらっていた矢先、日本でもアタリ・ジャパンから「FAHRENHEIT」(ファーレンハイト)という題名で発売されることを知る。(ちなみに、欧州でも日本と同名の「FAHRENHEIT」でリリースされている)

 調べてみると、これを制作したのはフランスのQUANTIC DREAMという会社で、欧州最大級のゲーム展示会「Game Convention 2005」では、もっとも革新的なタイトルに与えられる「Most Innovation Game Award」という賞を獲得したとか。ゲームではアドベンチャー系が特に好きなので(「○○賞受賞作」といった触れ込みにも弱い……)、今回の「FAHRENHEIT」には発売前から大いに期待を寄せていたところだった。

画像 海外では昨年秋にPS2版、Xbox版、PC版が発売され、ユーザーからの評価も高い「FAHRENHEIT」。“シネマチック・サイコスリラー”というジャンルを掲げたアドベンチャーゲームで、フランスのQUANTIC DREAMという会社が制作している

“主人公による殺人”というショッキングなシーンで幕を開ける

 冒頭からいきなり驚愕させられる……。このゲームの主人公が、あろうことか殺人を犯してしまうからだ。その事件は、例年にない寒波と大雪に見舞われたニューヨークの、小さなダイナーのトイレで起こる。物語の主人公“ルーカス・ケイン”は、手にしていたナイフでそこに居合わせた初老の男を刺殺してしまう。このあまりにショッキングなシーンを見ていると、「刑事ジョン・ブック 目撃者」という映画を想起させる。その映画では、駅のトイレで強盗殺人が起こり、アーミッシュの少年がその一部始終を偶然にも目撃してしまうのだが、ちょうどその少年になったような気分だ。ただ、あの映画と根本的に違うのは、プレーヤーが事件の目撃者ではなく、その殺人を犯したルーカス本人であるということ。

 とはいえ、この殺人には不可解な点がいくつもある。凶行に及ぶ際のルーカスは、まるでマインドコントロールをされているかのようなトランス状態で、その目つきや挙動が明らかに異様。自身の両腕にも、何かの紋様のようなものを自傷している。そもそも、殺された男とルーカスの間に面識はなく、殺害に至る動機もないのだ。しかし、現場を見ればルーカスが犯人であることは誰の目にも明らかで、事情を説明したところで理解してもらえるはずもない。正気に返った彼は、自分が置かれている状況が極めて困難であることに気付く……。

画像 被害者は、このダイナーの常連客“ジョン・ウィンストン”。彼がトイレの洗面台で手を洗っているとき、まるで何者かに操られるようにルーカスが背後から襲いかかる
画像 正気に戻ったルーカスは、どう考えても自分に不利な状況であることを悟り、誰かに気づかれる前にその場を立ち去ろうと意を決するが……

 ここから、プレーヤーは実に不気味な体験をすることになる。ダイナー店内にはまだ数人の客がおり、その中には警官の姿もある。誰かに見られる前に証拠の隠滅と逃亡を図らなければ、ルーカスは間違いなく逮捕されてしまうだろう。彼が無実であると頭ではわかっていても、殺人現場を後始末をしていることに後ろ暗い思いがして、何ともいえず厭な気分にさせられる。具体的に何をどうするかがプレーヤーに委ねられているというのも、余計に感情をかき乱す。ゲームの序盤から、罪悪感や焦燥感がないまぜになったような気持ちにさせられるとは思わなかった。

画像 普通(?)に考えると、まずは死体を隠すのが先決か。ゲームとはいえ、こんなことをしていると何とも後味の悪さを覚える……
画像 他にも、凶器をどうするか、手や衣服に付いた血をどうするかなど、すべてはプレーヤーの判断と行動に委ねられる。しかし、あまり悠長に構えているわけにもいかず、不安や焦りといった様々な感情が交錯する。まるで、本当に殺人犯になってしまったかのよう……?
画像 思いつくことはすべてやって、何事もなかったかのように店を出ようとした瞬間、ウェイトレスに呼び止められてドキッとさせられる。何か勘付かれてしまったのか?鼓動は高鳴り、手のひらの汗でコントローラーがじっとりと湿ってくる
画像 ウェイトレスに返事をすると、会計をまだ済ませていなかったことをたしなめられた。迂闊だった……

 このように、序盤から非常に緊迫感に満ちた展開と、謎めいたストーリーにぐいぐい引き込まれていくのを感じる。また、プレーヤーの選択した行動や会話が、その後の展開にもつぶさに反映されていくのは興味深い。たとえば、上記のウェイトレスの件にしても、予めテーブルにお金を置いてから外に出れば引き留められることはなかったわけで、追い詰められた状況下で人は不用意な行動を取りやすいのだなあと、改めて思い知らされる。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2410/05/news022.jpg 「クレオパトラみたい」と言われ傷ついた55歳女性→カット&パーマで大変身! 「本当にびっくり」「素敵なマダムに」
  2. /nl/articles/2410/05/news040.jpg 伝説の不倫ドラマ「金曜日の妻たちへ」放送から41年、キャストの現在→75歳近影が「とても見えません」と話題
  3. /nl/articles/2410/02/news116.jpg 余りがちなクリアファイル、“じゃないほう”の使い方で食器棚がまさかのスッキリ 「目からウロコ」「思いつかなかった!」と反響
  4. /nl/articles/2410/05/news023.jpg 七五三で刀を持っていた少年→20年後には…… “まさかの進化”に「好きなもの突き進んでかっこいい!」
  5. /nl/articles/2410/05/news018.jpg 野良猫が窓越しに「保護してください」と圧をかけ続け…… ひしひし感じる強い意志と表情に「かわいすぎるw」「視線がすごい」
  6. /nl/articles/2410/05/news012.jpg 「あのお客さんに幸あれっ!」 小銭の出し方が完璧な“神客”にレジ店員感激 会計がスムーズになる配慮が参考になる
  7. /nl/articles/2410/04/news048.jpg 「こういうの好き」 割れたコップの破片を並べたら…… “まさかの発想”で息を飲むアート作品に 「すごいセンス良い」「前向きな考え」
  8. /nl/articles/2410/04/news040.jpg 50代女性「モンチッチみたいにしてほしい」→美容師がプロのワザを見せ…… 別人級の変身に「めっちゃお洒落」「すごい!」
  9. /nl/articles/2410/04/news025.jpg 「これが免許証の写真???」 コスプレイヤーが公開した“信じられない”免許証が話題 コスプレ姿との比較に「両方とも可愛いすぎる」
  10. /nl/articles/2410/05/news032.jpg 大型犬が18年間、ドアを開け続けた結果……そうはならんやろな驚きの末路に「どうしたらこんな風になるのよ」の声
先週の総合アクセスTOP10
  1. ネットで大絶賛「ブラウニー」にカビ発生 業務スーパーに7万箱出荷…… 運営会社が謝罪
  2. 「全く動けません」清水良太郎がフェスで救急搬送 事故動画で原因が明らかに「独りパイルドライバー」「これは本当に危ない!!」
  3. トラックがあおり運転し車線をふさいで停車…… SNSで拡散の動画、運転手の所属会社が謝罪
  4. 「ヤヴァすぎる!!」黒木啓司、超高級外車の納車を報告 新車価格は5000万円超 2023年にはフェラーリを2台購入
  5. そうはならんやろ “ドクロの絵”を芸術的に描いたら…… “まさかのオチ”に「傑作」の声【海外】
  6. 「ウソだろ?」 ハードオフに3万円で売っていた“衝撃の商品”に思わず二度見 「ヤバいことになってる」
  7. 「結局こういう弁当が一番旨い」 夫が妻に作った弁当に「最強すぎる!」「絶対美味しいビジュアル」
  8. “メンバー全員の契約違反”をライブ後に発表 異例の脱退騒動背景を公式が釈明「繋がり行為などではなく」
  9. 「言われる感覚全く分からない」 宮崎麗果、“第5子抱いた服装”に非難飛び……夫・黒木啓司は「俺が言われてるのかな?」
  10. 大沢たかお、広大プールを独り泳ぐ“バキバキ姿”が絵になり過ぎ 盛り上がる筋肉の上半身に「50代とは思えない」「彫刻みたい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. “緑の枝付きどんぐり”をうっかり持ち帰ると、ある日…… とんでもない目にあう前に注意「危ないところだった」
  2. 「しまむら」に行った58歳父→買ってきたTシャツが“まさかのデザイン”で3万いいね! 「同じ年だから気持ちわかる」「欲しい!」
  3. 友人に「100円でもいらない」と酷評されたビーズ作家、再会して言われたのは…… 批判を糧にした作品が「もはや芸術品」と490万再生
  4. 高校3年生で出会った2人が、15年後…… 世界中が感動した姿に「泣いてしまった」「幸せを分けてくださりありがとう」【タイ】
  5. 「ま、まじか!!」 68歳島田紳助、驚きの最新姿 上地雄輔が2ショット公開 「確実に若返ってる」とネット衝撃
  6. 荒れ放題の庭を、3年間ひたすら草刈りし続けたら…… 感動のビフォーアフターに「劇的に変わってる」「素晴らしい」
  7. 食べた桃の種を土に植え、4年育てたら…… 想像を超える成長→果実を大収穫する様子に「感動しました」「素晴らしい記録」
  8. 「天才!」 人気料理研究家による“目玉焼きの作り方”が目からウロコ 今すぐ試したいライフハックに「初めて知りました!」
  9. 「エグいもん売られてた」 ホビーオフに1万1000円で売られていた“まさかの商品”に「めちゃくちゃ欲しい」
  10. 義母「お米を送りました」→思わず二度見な“手紙”に11万いいね 「憧れる」「こういう大人になりたい」と感嘆の声