奥様メーターを上げることは誰でもできるはず――宮本茂氏基調講演GDC 2007(1/2 ページ)

北米サンフランシスコで開催されているGDCにおいて現地時間の3月8日、任天堂の宮本茂氏が基調講演を行い、ゲームクリエイターにとってのビジョンとはいかなるものなのかを解いた。ところで、奥様メーターってなに?

» 2007年03月09日 16時54分 公開
[加藤亘,ITmedia]
Wiiの写真チャンネルを使用して講演を進める宮本茂氏

 現地時間の3月8日、アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコで開催されているゲームクリエイター対象のカンファレンスイベント「Game Developers Conference 2007」(以下、GDC)において、任天堂の宮本茂氏の基調講演が行われた。

 昨日行われたGame Developers Choice Awardの授賞式で、Lifetime Achievement Awardを授与された宮本茂氏は、Miiを製作する画面とシンクロし、そこから抜け出してきたという演出で登場。8年ぶりとなるGDCでの講演ということもあり、会場に集まった観衆を一気に引きつけてみせる。会場は立ち見が出るほどの賑わいをみせ、開始予定から30分以上押してのスタートとなった。

任天堂にとってのビジョンは3つ

昨日のGame Developers Choice Awardもそうだったが、今年のGDCでの注目度は一番。胸元にリンクとトライフォースが輝く宮本茂氏

 今回の基調講演は、「A Creative Vision(創造的ビジョン)」と題されており、宮本氏が思うゲームデザイナーが持つビジョンと、任天堂の持つビジョンについて、3つの要素を挙げ説明するというもの。

 まず宮本氏は、自身がゲーム開発に携わった25年前に遡り当時のビデオゲームの状況を振り返り、ビデオゲームをするプレーヤーの姿は健康的だったと切り出した。自身がゲームをする写真などを見せつつ、前回の公演からここ8年で状況は変化したのだという。

 宮本氏はここ数年、取材を受ける度にゲームの内容を聞かれるのではなく、社会状況について聞かれることが増えたのだとか。「ゲームがプレーヤーをゾンビみたいに変えてしまったのではないか?」と質問される度に不安になり、ゲームが取り巻く状況は悪くなっていると気がついたと言うのだ。売上げは上がっているが、ゲームに対する評判は落ち、プレーヤーの求める方向も一緒になりつつある現状で、任天堂は岐路に立たされていた。このまま任天堂が従来から続けているビジョンのままでいくか、それとも現状に迎合してビジョンを改めるか……。そんな岐路に立った宮本氏がいかにして、今こうして自身の持つビジョンと会社のビジョンを共存してきたのか。幸運にも合致していたビジョンの下、何を大事にしてきたのかを解いた。

 それが前述した3つの要素となる。すなわち「ユーザー層の拡大」、「バランス」、「リスク」となる。

ユーザー層の拡大

宮本氏のここ最近のゲーム開発は、いわば「奥様メーター」をいかに上げるかだったといっても過言ではない?

 宮本氏はユーザー層拡大について、極めて身近な尺度として奥さんの存在が大きいと明かす。宮本氏はそれを「奥様メーター」と呼び、彼女の満足度でユーザー層拡大の目安とできると例を挙げていく。曰く、「テトリス」や「スーパーマリオブラザーズ」などゲームに興味がなかった奥さんが、「ゼルダの伝説 時のオカリナ」を宮本氏の娘さんがプレイしているのを後ろで眺め興味を抱き、さらに敵が登場しないと「どうぶつの森」を渡してみるとコントローラーを持つようになり、メーターがググっと上がったのだとか。


投票チャンネルの結果、犬好きが63.7%、猫好きが36.3%となったと余談として報告

 ここで気をよくした宮本氏は、顔の形がギターのピックに似ているからと名付けた愛犬“ピック”を飼い始めたことで、奥さんが犬好きになり、さらに犬を飼っている知り合いも増えていき話題に事欠かないことを受け、ユーザー層の拡大につながると「nintendogs」開発のきっかけになったと紹介。「nintendogs」のおかげで、奥さんはまったく違った視点でゲームを捉えるようになり、「脳トレ」でゲーマーになったと報告。身近なものとしてゲームをとらえ、インタラクティブの面白さに気がついたことで、メーターはさらに上がっていったという。今では投票チャンネルをダウンロードして楽しみ、宮本氏にゲームの勝負を挑むほどになり、親戚やご近所のMiiを作るなどクリエイティブ性も発揮するようになったと驚くほどの成長を短期間で見せていると宮本氏。ユーザー層拡大の確かな根拠とした。

バランス

和歌をテーマにした時雨殿にも触れ、ここでの開発がいい経験になり、さらにニンテンドーDSで若い人も和歌に興味があまりない人も、世代の壁を越え、ゲーム感覚で学べるということで、ユーザー層拡大に一役買っていると余談

 任天堂はひとりでゲームを作るのではなく、何人かのチームで作るものとして、すべてのスタッフが遊び方を知るようバランスよくそろっていると宮本氏。同じビルで仕事をすることで、どこでも話せる環境でゲームを作ることができているのが強みなのだとか。

 そんな環境でも、Wiiのコントローラに関しては苦労したといくつものプロトタイプを試作した時のことを振り返る。元々、大学で工業デザインの勉強をした宮本氏は、ファミコンの頃からコントローラのデザインに携わっており、Wiiリモコンもチームで製作。製作過程において、さまざまな意見があったが、結局デザインやシステムなどバランスを取った結果、シンプルな今の形になったのだと説明する。

コントローラのプロトタイプの中には、あまりにも突飛なものも

リスク

 任天堂前社長の山内溥氏から宮本氏は「新しいことをする際は、人と違うことをしなさい」と言われてきたが、それにはリスクが伴うことだと、Wiiを例に挙げる。リスクを覚悟してビデオゲームはどうあるべきかを考えて来たが、ゲームキューブは人口拡大と命題を果たすことはできず、中途半端な結果となり、コントローラも変えてみたがゲームをしない人には波及することはなかったと吐露する。任天堂はWiiでは、リスクを覚悟して新しいチャレンジに取り組んだからこそ、今があると解説する。

 ゲームを両手で遊ぶものとして10年以上も継続してきた慣習をふりほどくためにも、宮本氏の開発中当初の任務は、いかに社員にWiiのよさを伝道するかであったと振り返る。これにより自分自身も説得していたのだとか。

 しかしそれも、2006年5月に北米ロサンゼルスで開催されたE3でのユーザーの笑顔がすべてを払拭してくれたと明かす。

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