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» 2007年03月09日 16時54分 公開

GDC 2007:奥様メーターを上げることは誰でもできるはず――宮本茂氏基調講演 (2/2)

[加藤亘,ITmedia]
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宮本氏自身が持つビジョンとは?

 ここまでは任天堂のビジョンの説明。ここからは、ゲームは人が作るということを受け、ゲーム開発者である宮本氏が持つビジョンについて説明した。

 宮本氏は、よく「そのアイディアはどこから出たのか?」と聞かれることが多いが、ゲームを分析すればするほどゲームの本質から遠ざかるという。

 ゲームを開発するのに必要なのは、小さいことにこだりすぎてはならず、プレイする人の顔をイメージできるかどうかだという。要するに、さまざまな演出や意図はあれど、できればそれがポジティブにプレーヤーに伝わり、今までになかった体験であってもらいたいと思っているのだとか。プレーヤーにどういう印象を与えるか、どんな顔が思い描けるか。その時の顔を大事にしているので、時にはリスクを冒し納期は関係なく、「ちゃぶ台返し」をすることも厭わないと語る。

 「ゲームクリエーターは同じ間違いを犯しがちです。それは自分の作っているゲームをあまりに知りすぎているためであり、プレーヤーがゲームのことをあまり知らないということがわかっていない。極端に言えば、ゲームはプレーヤーの視点で開発したほうがいい」と自身の開発者としての基本姿勢を述べた。

反対を押し切って作られた名作「ゼルダの伝説」には、“コミュニケーション”を生み出す施策が盛り込まれていた

 さらにいくつかの側面として宮本氏は、「コミュニケーション」をするための方策として「ゼルダの伝説」を例に挙げた。作品は見ようによっては、シングルプレイ用のアドベンチャーゲームと言う人もいるが、開発当時から宮本氏はコミュニケーションを生み出すイメージを持っていたと振り返る。

 当初社内では、目的も分からないし、謎解きも難解で、日本では到底受け入れられないものとして評価されていた。いっそのこと1本道にしてはどうかと提案を受けるほどだったがすべて却下したと宮本氏。しかし、「ゼルダの伝説」は、寝る前や通勤中に攻略方法を考え、分からないことは電話などで情報の共有を試みるだろうと目論んだ。結果、これは的中。この考えは後に、さらにコミュニケーションだけで成立するソフトを作ろうと「どうぶつの森」に活かされることになる。

 また、ゲームデザインには「優先順位」をつけたほうがいいと語る。開発者はいつも“足りない”という不満を抱く。それは「人」であり、「予算」であり、「時間」であり。プレーヤーを喜ばせようと思うほど、そういう気持ちになるという。クリエイターはとかく楽しんでもらいたいと内容を豪華にし、失望されたくないと不安を抱くものなので、自身も任天堂代表取締役社長の岩田氏にスケジュールの変更など相談をすることもあるが、「たいがいは『それは残念だね』と言われるだけ。もしかしたらそれは“頭を使え”ということかもしれない」と、足りない不満はつきまとうと言う。

自身も野球好きなため、こだわりは人一倍あったとのこと

 「Wii Sports」では、野球場は1つしかないし、送りバントはできないし、野手は操作できないし、3イニングしかなく、非現実的なまるでコケシのようなMiiで遊ぶことを選択した。宮本氏は、投げて打つリアリズムにすべてを注いだ結果、このプロジェクトは期間内に完成し、さらにボタンを押すこともなく誰でも遊べるという副産物まで得たと、優先順位をつけたことの効果を説明した。


これが「ウルトラボール」

 最後のポイントとして、宮本氏の持つ「ねばり」を挙げる。Wii Sportsのベースボールは、以前からあった家庭で遊ぶピッチングマシン「ウルトラボール」のビデオゲーム化であり、技術が追いつくまで何十年と待ったように、“人の顔を作る”という行為をゲームに取り入れられないかと宮本氏はかなりの年月、そのことに費やしていたと資料を公開する。

 しかし、その度に不評を買い、宮本氏の執念は次の機会を待つことになる。それがWiiである。宮本氏がWiiで顔を使ったゲームができないものかと考えていた時、ニンテンドーDSのシステムを作っていたチームが今のMiiの技術を生み出したことを知り、悔しい思いをしたと明かす。20年も頑張ったのに形にできなかったものが、こうしてひょんなことから生み出されるのは、その使い処の見方が違ったからと分析する。

 「長年、ハードの進化に合わせ“人の顔を作ること”を複雑に作り込んできたが、しかし、それはプレーヤーにとってはやる気が起きないことだった。ユーザーの数を減らすだけかもしれません。幅広い人に触れるものとして、すべての回答がこのWiiなのです。Miiは、シンプルでパーツも少ないのですが、簡単な操作しか要求しません。こうして私の執念は形になりました」(宮本氏)

ディスクシステムで挑戦した“人の顔を作る”試みはその後、20年間試行錯誤を繰り返し、Miiで結実する
1990年「NINTENDO64」のディスクドライブ「タレントスタジオ」。ランドネットでサービスする際、山内氏が登場したムービーを上映
カードリーダーとゲームキューブを使用。2002年のE3で公開したもので、岩田氏が踊っている。このムービーでは会場が大盛り上がりに

 現在、宮本は新しいチャンネルを製作しているという。それは、Miiでコンテストをしたり、交換ができるというもので、世界中の人々が参加するだろうと今から楽しみにしてほしいと期待できるコメントも。その後、「スーパーマリオ ギャラクシー」のデモムービーを上映し、以前デモンストレーションしたこともある「スーパーマリオ128」の答えがここにあるとして、技術の向上についても言及した。

 最後に宮本氏は、「ゲームデザインにおけるビジョンというのは、ひとつの要素ではなくて、もっと本質的なものではないか。皆が一緒のビジョンであることはなく、それぞれのビジョンがどうやってビデオゲームの形になっていくのかが大事なのです。成功をはかる物差しのひとつともいえるが、自身のプロジェクトが社会全体に影響を与えるようになった時、ビデオゲームを怖がっている人が興味を持ってくれるかもしれない。ビデオゲームのイメージはWiiの登場で少しずつ変わろうとしています」と、ユーザー層拡大のために一緒に頑張ろうと呼びかける。

 宮本氏は、成功のヒントは「Wii Sports」に隠されていると語る。確かな成功を実感しているからこその言葉だと感じられた。事実、会場からはそのとおりとばかりに、割れんばかりのスタンディングオベーションで宮本氏を送りだしていた。そこには長年の確かな実績から得た経験則と、それを越えようとする挑戦者の魂のようなものを感じたからにほかならない。

 最後に壇上から宮本氏は、集まった開発者たちに英語で呼びかける。「僕が自分の妻にゲームを始めさせることができたのですから、あなたたちも誰かにゲームを始めてもらうことができるはずです」と。

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