「音楽」はゲームに命を与える――任天堂サウンドはこうして作られたGDC 2007(1/2 ページ)

現地時間の3月7日、GDC 2007において、「スーパーマリオブラザーズ」や「ゼルダの伝説」などの音楽製作に携わった任天堂の近藤浩治氏によるセッションが開かれた。近藤氏の音楽に対する考え方から、ゲームだからこそできる音楽の関わり方が見えてくる。

» 2007年03月08日 18時29分 公開
[加藤亘,ITmedia]
任天堂 サウンド統括グループマネージャー 近藤浩治氏

 現地時間の3月7日、北米サンフランシスコで開催されているGame Developers Conference 2007(以下、GDC)において、「スーパーマリオブラザーズ」から最新作の「ゼルダの伝説:トワイライトプリンセス」まで、ゲーム音楽のあり方を提唱し続けている任天堂のサウンド統括グループマネージャー・近藤浩治氏によるセッション「インタラクティブな音風景を描き出す(Painting an Interactive Musical Landscape)」が開かれた。

 テレビゲーム界のスティーヴン・スピルバーグが宮本茂氏ならば、近藤氏はジョン・ウィリアムズだと称されるほど、業界で知らぬ人のいないゲーム音楽の大家である。

 近藤氏は大学を卒業後、1984年に任天堂に就職して以来、「スーパーマリオブラザーズ」を手始めに、「ゼルダの伝説」シリーズや「スターフォックス」シリーズなど、誰しもが聞いたことがあるゲーム作品の音楽作りに携わっている。

 現在のゲーム音楽の製作現場での作業は分担されているが、スーパーファミコンの時代までは作曲、サウンド統括、効果音製作もすべて担当していたと近藤氏は振り返る。ファミコンの時代にはたった3つの音源で音楽と効果音を作り、スーパーファミコンではメモリー容量の制限などに苦労してきたが、一環として気をつけていたことがあると、3つのポイントを切り出す。それが、「リズム」であり「バランス」であり、「インタラクティビティ」なのだとか。

まずはゲームそれぞれの持つ「リズム」をつかめ

 ゲームに表れる「リズム」を的確に捉えることは、サウンド製作者にとってとても大事なことだと近藤氏は分かりやすく例を出す。キャラクターの動きであったり、ボタンを押すタイミングであったりと、ゲームそのものにはそれぞれに何かしらかの特定のリズムを持っており、製作者はプレイしていて一番気持ちのいいリズムで曲を作らなくてはならない。それには何度もゲームを触ってみないといけない。

近藤氏は「スーパーマリオブラザーズ」を何度も触り、そのゲームの持つリズムを体感していったと語る

 1985年に発売された「スーパーマリオブラザーズ」では、マリオの走る姿やジャンプして飛んでいる時間を感覚的に捉えた結果、あのリズムになったのだとか。ハイハットの音はただのノイズのようで、3連符でバウンスしているのだが、メロディは八分音符のイーブンで流れている。その組み合わせによって、この曲はドライブ感が出せていると自ら分析する。

 このようにゲーム特有のリズムに合っていないと、ただのバックグラウンドミュージックのようになり、どこか別の部屋から流れているように聞こえてしまうからと、近藤氏は長年、内蔵音源でシーケンスミュージックにこだわっているのだとか。それは、生のバンドやオーケストラでは、その演奏者のリズム感になってしまい、ゲームと合わなくなることが多いからということもある。コンピュータのクロックに合わせてキャラクターが動き、ゲームが進むのであれば、音楽もそのクロックに合わせるのがしっくりくるという持論だ。

 こうして的確にリズムを捉えたら、そのリズムからよりゲームに活きるような音楽を作るわけだが、印象に残り飽きのこないものを作るのにやはり難しいと、いつも終盤の締め切り間際までかかってしまうことを明かす。

 ここで近藤氏は、マリオシリーズはアクション・操作感の気持ちよさを感じてもらえるように、「ゼルダ」シリーズは情景や場所ごとの空気感を重視していると、「マリオ」シリーズと「ゼルダ」シリーズの音楽の作り方の違いに触れる。どちらも共通点としては、その曲ごとの特徴がすぐに分かるように、他の曲との違いが2〜3秒で判別できるようにしており、新しい場所に来た時のワクワクを感じられるよう、記号として製作していると言う。

音楽とゲームのバランスを感じ取る

 次に効果音と音楽の「バランス」について。何気なく普段は聞いているが、非常に細かいバランス調整がなされているのもゲーム音楽なのだとか。それは、音量であったり、音の長さであったり、また左右のバランスであったりと挙げるときりがない。

 例えば、効果音で地響きや溶岩が流れる時は、あまり音楽では低音を流さないようにしたり、ゲームの主人公が大体画面の中心に位置していることから、そのキャラクターが出す効果音は真ん中から出るようにすべきで、必然的に音楽は中心には配置せず、左右に振った楽器配置にするようにしていると解説。常に重要な効果音が一番よく聞こえるようにバランスを考えており、前の曲のつながりもさることながら、もっとも気にすべきことは全体から見た各曲のバランスであると説明する。

 近藤氏はほかにもゲームセレクト面ではメロディは控えめで、短いループの繰り返しにしているのは、ゲームセレクト面での曲はゲーム開始前の準備であったり、途中の休憩の曲でもあるからと理由を述べる。また、前作のテーマを使用したり、同じテーマでアレンジを変えたり、ゲーム内容に則した関連性を加味することで、ゲーム内容は音楽で見て分かりやすくなりより楽しめると言う。

「スーパーマリオブラザーズ」でスターを取得した際のいわゆる“無敵”状態の音楽は、その後「スーパーマリオ64」でのメタルマリオでも“無敵”を同じテーマのアレンジで表現した

 ここで、また映像でマリオがスターを取得した際の“無敵状態”を例にとり、常に同じテーマを使っていることを紹介する。「スーパーマリオ64」では、メタルマリオの時もそのテーマをアレンジして使っている。一定時間にパワーアップするという共通点を同じテーマにして分かりやすくしているというわけだ。

 このように、ゲーム音楽は1つの曲の中に、いろんな曲が入っているが、1曲1曲で完結しないで、ゲームソフト全体で1曲とする意識が大事と、開発者に改めて問いただす。普通、1曲の中にはイントロ、サビ、エンディングがあるものだが、ゲームではイントロ部分がタイトル曲であり、テーマへ入る導入部がセレクト面であり、サビや盛り上がりの曲がボス面など、そうした全体を見渡し調整する意識が求められるのだとか。

 ここで、近藤氏は会場に聴講に来ている開発者に、曲を製作する際、ディレクターに1曲が完成次第すぐに聞かせているかどうかを質問する。けっこうな数の手が挙がるのを確認すると、自分ならばすぐには聞かせず、並行して作った他の曲とのバランスを見ながら修正し、4〜5曲できてからまとめて聞いてもらっていると明かす。

 なぜこうするかというと、1曲ごとでは独立してその完成度を問われてしまうからなのだとか。どれも重要度が高く、主張が強い曲となり、全体としてのバランスが悪くなるという理由だ。自分で作る時にバランスを考えるのはもちろんだが、ディレクターにも各曲のバランスを意識するべきと提案する。最近はチームで分担して音楽を担当するようになっているが、やはり他との綿密な意思統一が必要であり、そこができているかどうかでゲームの質が決まると明言した。

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