究極のプログラマーは「真田さん」!?――技術者のあり方とは ヒライタケシの「投げる前から変化球」(その2)(1/3 ページ)

ちょっと間が空いてしまったが、ヒライタケシの「投げる前から変化球」第2回目をお届けしよう。今回はヘキサドライブの松下正和氏に登場していただこう。松下氏は大手ゲーム会社に在籍後独立。現在はゲームプログラマーの制作集団を率いている。平井氏との間で、どのような会話が展開するのか……。

» 2008年08月08日 16時00分 公開
[ヒライタケシ/ITmedia +D Games編集部,ITmedia]

運命的な出会い

画像 ヘキサドライブ代表取締役 松下正和氏(右)、キューエンタテインメントCTO 平井武史氏(左)

平井武史氏(以下、敬称略) わたしと松下さんの出会いは、1年半くらい前ですかね?

松下正和氏(以下、敬称略) それぐらいですね。

平井 きっかけはもともと、とある大阪のゲーム会社への入社が決まっていた新人の子が、アルバイトとしてうちの会社に半年ほどおりまして。その子がニンテンドーDSの「メテオス」を手伝ってくれてました。彼の就職後も1年ぐらいは話をしたりと、大阪−東京間での交流は続いてたんです。そしてたまたまうちがエンジニア集団を探しているところに「会社を辞めることにした」という話を聞いたんです。次の転職先を尋ねたら「まだ言えない」という答えが返ってきました(笑)

 それは一体どういうことだと思って、大阪へ彼を訪ねていった時に、松下さんと初めてお会いしました。彼が就職した、5人のプログラマー組織の代表が松下さんだったわけです。

松下 そういえば、ちょうどそのくらいの人数だったかもしれませんね。今はおかげさまで10人以上の組織になりました。

平井 第一印象ですぐに、「あ、自分と相性が合いそうな人だ」と思いました。かっこよく言えば、「キャプテン翼」の翼君&岬君の出会いみたいな感じです(笑)。

松下 ちょっとかっこよく言いすぎかと(笑)。でも確かに、技術者同士のなにか相通じるものは感じましたね。

平井 同世代というのもあるのでしょうが、実際にお話しても好印象だったので、ぜひ自分も一緒に仕事をしたいと思って行動を開始しました。かなり社内の交渉が必要でしたが、Xbox 360のXbox LIVEアーケード版「Rez HD」の開発を一緒にすることになりました。

松下 わたしのほうも、ほぼ同じ印象でしたね。プログラマーの人って“技術者”ですから、いわゆるとんがった人が多い中で、とんがった部分は持ちつつもまろやかというか、柔らかい部分も同時に感じました。

平井 一番最初に話をしたときに、会社の「ヘキサドライブ」という名前だけは決まってたんです。ただロゴが決まってないというので、僕がロゴを描きます!と。HとDとか適当に描いた気がします(笑)。「ハイデフだし」というのが印象に残ってますね。

松下氏 確か「H!」とかだったような(笑)。

平井 そうそう。(キューエンタテインメントのロゴ)「Q?」に対抗するとか言って(笑)。でも、出来上がったロゴを見てみたら、全く違うものでちょっとがっかりしました(笑)。

 :松下さんは今の会社を興されるまでは、大阪のメーカーにいらっしゃったんですよね。

松下 はい。20歳の時に宮崎の高専を卒業して就職してから13年間、ずーっとプログラム一筋でやってきました。ゲーム業界にいる期間で言うなら15年ぐらいです。いつの間にか、こんなに経っちゃったという感じですけど。

平井 そうか、松下さんは宮崎出身の関西在住プログラマーですよね。僕は関西出身で東京在住プログラマーですから。僕も大阪で5年ほど働いていたことがありましたけど、松下さんの職場と近くてニアミスがあったかもしれないですね。

 ところで、独立した経緯って教えてもらえますか?

松下 前の会社は、大手パブリッシャーだったので、色々な制限がありました。ただ、わたしはその中で、独自のやり方をさせて頂きました。例えば、普通はタイトルありきで人を集めるのに、わたしは社内で先に人を集めてしまう珍しいスタイルを取ったんです。その上で自分達のチームに何かやらせて下さいと言ったら、じゃあこれやってみる? とタイトルが後から来た感じで。そのチームでは、昼間から映画を皆で見に行ってみたり、合宿しようと提案したり、いろいろと新しいことにチャレンジしました。

 Xbox 360で出したタイトルの時にもメインプログラムとして入りましたが、最終的にはプロジェクトマネージメントとして、企画からサウンド、デザイナー、エフェクトに至るまで他セクションのスケジュール管理までやりました。

 なぜ、そこまでやったかと言いますと、結局ゲームを作っていくうえで、どんどん効率化を進めていかないとしんどいんです。プロジェクトが大きくなる傾向が強まっている時代で、開発期間が2年、3年かかるようになって。

平井 10億規模のプロジェクトの数が増えた頃でしたね。

松下 そうですね。メンバーも疲弊してくるし、そこに対してできるアプローチをしていかないと、ゲームそのものが良くなっていかないんです。ゲームとチームをより良くするために“プログラマー”という枠と関係なく色々チャレンジしていったら、手ごたえもあるし、効率をよくすることを追求していくと、人の評価やお金といった根本的な部分にも関わりたくなっていきました。

平井 コードの最適化だけじゃなくて、いろいろなところを最適化したくなっちゃったと。肩書きを聞かれたら「オプティマイザー」って答えるといいですよ(笑)。

松下 (笑)。自分ひとりがコードを一生懸命書くよりも、複数の人をよりよく回すほうが効率はいいわけです。さらに同じでプログラマーの中だけで最適化するよりは、デザイナーもプランナーも巻き込んで最適化をすれば、もっと良くなると。

平井 その考えをどんどん大きくしていった結果、独立と。

松下 そうですね。当時いたところは大きな会社ですから。社員の立場で「給与までいじらせてくれ」とは言えませんしね。

画像

平井 僕もセガという会社が好きで10年いましたが、元々独立志向が強かったんです。独立したらあんなことや、こんなことをしたいと思い続けて、その許容量がセガにいるあいだに一杯になってしまいました。

 で、たまたまチャンスがあったんです。ちょうど分社化していたユナイテッドゲームアーティスツをセガに再編・統合する流れがあった時期で、会社としてもその時手がけているタイトルが終ったら、独立してもいいんじゃないか、という話になりました。

 実際に再編・統合した際には、すでに退職届を受理されている状態で、アルバイトとして協力していました。そして深夜はキューエンタテインメントで業務を行っていました。

松下 それはセガさんもよく許してくれましたね。

平井 独立するという意向は、最初に伝えてありましたから、快く受け入れてくれました。気が付いたらキューエンタテインメントも6期目になっていて、ようやくここまで来たという感じですね。4〜5人で始まった会社も今や70名ですから。

 当時オフィスには夜中、僕1人しかいませんでした。冬だったので自宅からストーブを持ち込んでヘッドフォンをして、サーバ構築をしていました。そのうち楽しくなってきちゃって歌を口ずさんでいたのですが、ヘッドフォンをしてるから気が付かないんですよね(笑)。いつの間にか後ろに水口(キューエンタテインメント代表取締役CCO 水口哲也氏)がいて笑われたり。ちなみに昼間の打ち合わせなんかは、料金が安いカラオケボックスでしましたよ。防音で環境がいい上にフリードリンクだったので(笑)

松下 その時期があるから今があるわけですね。

平井 まだまだ発展途中ですよ。将来的にみんなが望むタイトルが出せればいいなあと思っていますが。

プログラミング――チームでの開発には情報共有が何よりも大事

平井 松下さんとせっかくお話できたので、「プログラミング」と言うカテゴリでお話をさせてください。自分がプログラミングする時に心がけていることってありますか。

松下 ありきたりな話ですけれど、なるべくシンプルに、“可読性”という点を重要視しています。始めのうちはそうでもなかったんですが、最近は特に設計をしっかりしてから書くために、皆と相談を重ねてから書き始めることが増えました。複雑な処理を書くときは「こんなのどう思う?」と数人に相談しますね。ただ、コーディングする時は1人というスタイルですけど。相談しながら作り上げるというのは、わたしだけじゃなくて他のスタッフも多いです。こうして作り上げると、客観的な意見が出た上でのコーディングになって、効率がいいです。

平井 実際コードを書いている途中で、こう書いたほうがいいんじゃないだろうか。システムも変えたほうがいいかも? と思うことありますよね。設計が変わるときにはどうしてるんですか。

松下 わたし個人としては、最初の一発目ってそれほど精度が高くないんです。アーケード出身のせいかもしれませんが、作ったものに対して後から修正を入れるスタイルを取ります。

平井 僕はコーディングスタイルに関して“枠”で考える傾向があります。「こういうものをインプットしたら、こんなものをアウトプットすべきだろう」という設計をしっかりとたてて、それを企画やデザインと共有するという。枠組みの中でブロックをパズルのように組み立てていく感覚を大事にしていますね。そうすれば何かあったときに、モジュールとなるブロックだけを変えていく、あるいは追加すればいいわけです。プログラムがパズルのように、頭の中に浮かんでいる形で設計しています。まあ、よく組み間違えたりするわけですが(笑)。

 そのブロックが色分けされてるんです。ここは青いシステム部分、こっちは赤でグラフィックス部分となっていて、それをどこで割ったらいいのかを、頭の中の色で判断してますね。

松下 かっこいいなー。わたしのほうはそこまでシステマチックな思考はしてないですよ。もっとベタベタです。

平井 松下さんは大枠をきちんと見られる人なんですよ。僕は細かく分けておいて、部分的に見ていかないと大枠のサイズに負けてしまいそうなので。小さいブロックなら頑張れそうでしょう。

 そのほかに物づくりで常に意識して大切にしているのは、作っている最中からユーザーが楽しみにして待っている、自分もこのゲームのユーザーである、という感覚ですね。実際には小さいプログラミングで大した部分じゃなかったとしても、これを作ったら効果が出る、喜んでもらえるという意識を忘れないようにすると、完成したときの出来上がりが違いますよ。

松下 ユーザーを意識するというのはわたしも一緒です。ツールを作る時でも、使う人のことを考えます。

平井 自分もユーザーである意識を忘れないと、独りよがりにならない、幅広いユーザーにとって使いやすい幅広いエリアを取れて、バランスが良くなります。

松下 いいプログラマーですね。わたしはいいプログラマーについて話すとき、“あうんの呼吸”じゃないですが、こんなものがあったらいいなあと思ったときに「実はここに……」と出してくる、「宇宙戦艦ヤマト」の真田さん(※)みたいな人だと言ってます(笑)。あれがプログラマーに必要なものですよね。

※編集注:真田さん
「宇宙戦艦ヤマト」に登場する工場長兼技師長・真田志郎(声:青野武)。さまざまなメカを開発し、ガミラスとの戦いでピンチに陥ったヤマトを何回も助けることになる。編集担当としては、本文に出てくる「実はここに……」の最たるものは「アステロイド・ベルト」だと思っている。


平井 確かにあれは技術者としての、一つの要素ですね。

松下 もちろんプログラマーに限らず、クリエイターならば誰しも理想であり、よいクリエイターになるための条件として心がけたいことです。言われてからやるのではなく、常に前向きでどんどん先に作り上げていくというのが。

いろいろ言ってきましたが、「チームで情報共有する。楽しんでいただくユーザーを見据える。周りの要求の先を読んで動く。」結局、技術は人間に使われるために生み出される、という、技術が本来あるべき姿というのを常に忘れないようにすることが大事ですよね。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2410/03/news172.jpg 「驚愕の修理代」の金額明かす お見送り芸人しんいち、約2000万円の愛車が故障で「終わった」「お金がないです」
  2. /nl/articles/2410/04/news022.jpg カインズの「撒くだけで防草できる砂」本当かどうか検証してみたら…… 驚きの結果に「魔法のような砂、買いに行きます!」「これさえあれば」
  3. /nl/articles/2410/03/news184.jpg “超高額タワー”に1000万円分の祝花…… 一条響の“引退イベント”が規格外すぎて最後まで伝説だった 「最強最高のキャバ嬢!」
  4. /nl/articles/2410/01/news047.jpg プロ警鐘「エアコン、夏が終わったらコレやらないと……」が530万再生 水漏れや“内部のスライム化”を防ぐコツが目からウロコ
  5. /nl/articles/2410/03/news185.jpg 「これはすごい」「博物館レベル!!」 草なぎ剛、愛用する大量のお宝を公開 展示会に向け準備中「お楽しみに!」
  6. /nl/articles/2409/18/news105.jpg 「信じられない」 正体不明な“巨大な茂み”をカット → 現れた“まさかの正体”に456万回再生【海外】
  7. /nl/articles/2401/26/news015.jpg スーパーで買ったレモンの種が1年後…… まさかの結果が635万再生「さっそくやってみます」「すごーい!」「手品みたい」
  8. /nl/articles/2410/03/news186.jpg “日本では50台限定”のレア車 大倉士門、愛車でサーキットを走行 「うちの子が一番かっこいい」
  9. /nl/articles/2410/04/news020.jpg モンプチの箱に謎の切り取り線が…… かわいいサービスに大反響「どうやって使うのw」→販売元ネスレに聞いてみた
  10. /nl/articles/2410/02/news120.jpg 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
先週の総合アクセスTOP10
  1. ネットで大絶賛「ブラウニー」にカビ発生 業務スーパーに7万箱出荷…… 運営会社が謝罪
  2. 「全く動けません」清水良太郎がフェスで救急搬送 事故動画で原因が明らかに「独りパイルドライバー」「これは本当に危ない!!」
  3. トラックがあおり運転し車線をふさいで停車…… SNSで拡散の動画、運転手の所属会社が謝罪
  4. 「ヤヴァすぎる!!」黒木啓司、超高級外車の納車を報告 新車価格は5000万円超 2023年にはフェラーリを2台購入
  5. そうはならんやろ “ドクロの絵”を芸術的に描いたら…… “まさかのオチ”に「傑作」の声【海外】
  6. 「ウソだろ?」 ハードオフに3万円で売っていた“衝撃の商品”に思わず二度見 「ヤバいことになってる」
  7. 「結局こういう弁当が一番旨い」 夫が妻に作った弁当に「最強すぎる!」「絶対美味しいビジュアル」
  8. “メンバー全員の契約違反”をライブ後に発表 異例の脱退騒動背景を公式が釈明「繋がり行為などではなく」
  9. 「言われる感覚全く分からない」 宮崎麗果、“第5子抱いた服装”に非難飛び……夫・黒木啓司は「俺が言われてるのかな?」
  10. 大沢たかお、広大プールを独り泳ぐ“バキバキ姿”が絵になり過ぎ 盛り上がる筋肉の上半身に「50代とは思えない」「彫刻みたい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. “緑の枝付きどんぐり”をうっかり持ち帰ると、ある日…… とんでもない目にあう前に注意「危ないところだった」
  2. 「しまむら」に行った58歳父→買ってきたTシャツが“まさかのデザイン”で3万いいね! 「同じ年だから気持ちわかる」「欲しい!」
  3. 友人に「100円でもいらない」と酷評されたビーズ作家、再会して言われたのは…… 批判を糧にした作品が「もはや芸術品」と490万再生
  4. 高校3年生で出会った2人が、15年後…… 世界中が感動した姿に「泣いてしまった」「幸せを分けてくださりありがとう」【タイ】
  5. 「ま、まじか!!」 68歳島田紳助、驚きの最新姿 上地雄輔が2ショット公開 「確実に若返ってる」とネット衝撃
  6. 荒れ放題の庭を、3年間ひたすら草刈りし続けたら…… 感動のビフォーアフターに「劇的に変わってる」「素晴らしい」
  7. 食べた桃の種を土に植え、4年育てたら…… 想像を超える成長→果実を大収穫する様子に「感動しました」「素晴らしい記録」
  8. 「天才!」 人気料理研究家による“目玉焼きの作り方”が目からウロコ 今すぐ試したいライフハックに「初めて知りました!」
  9. 「エグいもん売られてた」 ホビーオフに1万1000円で売られていた“まさかの商品”に「めちゃくちゃ欲しい」
  10. 義母「お米を送りました」→思わず二度見な“手紙”に11万いいね 「憧れる」「こういう大人になりたい」と感嘆の声