レビュー
» 2008年08月22日 00時00分 公開

アメリカンなハードにほとばしるジャパニーズ・サブカルチャー「テイルズ オブ ヴェスペリア」レビュー(1/2 ページ)

「テイルズ オブ」シリーズのマザーシップタイトルが、初めてXbox 360に登場。そこには日本独自のRPGと、さまざまな日本のサブカルチャーテイストが満載。米国人はこの作品で現代日本文化を知ることになる! ……かもしれない。

[水野隆志,ITmedia]

これこそまさに“J-RPG”

 コンピュータRPGの歴史を紐解けば、古くは「ウィザードリィ」にさかのぼる。そこからテーブルトークRPGをディスプレイで再現しようとする欧米、特に米国での努力が続き、それがやがて日本に輸入されてアレンジされ、ジャパニーズスタイルのRPGが作り出された。

 日本におけるRPGの特徴が何かと言えば、“主人公のキャラクターが明確に造形されている”“ストーリーがシナリオに沿って進んでいく”“主人公たちが若く、基本的に少年少女である”という3点に集約できるだろう。そして21世紀初頭の現在、このスタイルは逆に欧米へと輸出され、海外のゲーム事情に変化を与えるに至っている。

 そうした日本流のスタイルによって作られたRPGを、ここでは“J-RPG”と呼んでおく。J-POP、J-ホラーなどと同じ感覚の言葉だと思ってもらいたい。

 さて、「テイルズ オブ ヴェスペリア」(以下、TOV)は“これぞまさにJ-RPG”と呼ぶにふさわしい作品である。「テイルズ オブ」シリーズそのものがそうした伝統を持っているのだが、歴代の諸作と比べても、TOVはとりわけその傾向が強い。個人的には記念すべき第1作「テイルズ オブ ファンタジア」にも匹敵する。それはすなわち、シリーズ最高傑作と呼んでも過言でない出来栄えを意味している。

いきなりハートをわしづかみ。オープニングに刮目

photo 筆者はヒロインが振り向くところからオープニングが始まるのは、「イースII」以来のJ-RPGの伝統だと考えている。王道中の王道を行くという力強い宣言と感じた

 もういきなり、オープニングから“おっ!”と思わされる。

 ヒロインであるエステリーゼ、通称エステルが振り向くところから始まり、主人公であるユーリ、序盤で仲間になる魔物狩りギルドの少年カロル、魔導士の少女リタの3人が短いカットで続けざまに登場してくる。この時の彼らの表情を見れば、どんな性格をしているキャラクターなのか瞬間的に理解させてくれる。

 そして4人を紹介した後でタイトルが入る。この構成により、物語の中核にいるのが誰なのか、映像で説明してしまう。そう、これこそがオープニングムービーなのだ。どんなにキレイでも、あるいはどんなにカッコよくても、それだけでは何の意味もない。

 オープニングムービーとは、プレイヤーを世界に引き込むため、もっと言えばゲームに対する関心をあおるためにある。そのためには、これから操作することになるメインキャラクターたちがどんなパーソナリティを持っているかを示さなければならない。それを果たしてこそ、初めて役割をまっとうできるのだ。これほどのオープニング、そうはない。もうこの数秒で“いける”と思わせてくれる。


photo オープニングより、刺客と切り結ぶ主人公ユーリ。敵のファッションがヴィジュアルロック風なのは、このジャンルが海外でJ-ROCKとして日本以上に注目を集めていることと無関係ではないだろう。この辺りにも日本人が海外を意識して作ったJ-RPGという側面が現れている

 そして続くシーンからはアクションのつるべ打ちとなり、これまでに出てきた4人に加え、敵味方双方の主要キャラクターを交えた魅せるためのシーンが続く。これらのキャラクターの中には、プレイヤーが操作できる、いわゆるパーティキャラクターも含まれている。ただし、ユーリ、エステル、カロル、リタ、それとユーリの愛犬であるラピード以外はマニュアルにもキャラクター紹介はなく、その意味でバイプレイヤー的な扱いになっている。

 これに伴う形で、オープニングの後半部分は、メインクラスのキャラクターの格好よさを見せながら重要な脇役の紹介、さらには彼らが敵か味方かという情報を併せ持つ構成になっている。ある程度ゲームを進めてから見直せば、また違った面白さを発見できるだろう。この辺りにも熟練の技芸を感じさせる。

 さらには背後に流れるBONNIE PINKの曲も王道を行くJ-POP。このように見てくると、TOVのオープニングはクオリティの高さもさることながら、J-RPG、ジャパニメーション、J-POPの要素を融合した構成になっていることが分かる。これはXbox 360というハードゆえに海外のプレイヤーを意識した選択といえるが、同時に日本人自身が日本のサブカルチャーを意図的に見せているという点で興味深い。


過不足のない絶妙の説明。技芸が冴えるプロローグ

 そしてオープングを受けて続くプロローグがまたよい。

 最初にテルカ・リュミレースという世界の名前が示される。これは一種の儀式なのであまり気にすることはない。それよりも注目すべきは続きである。要約すれば、以下のようになる。


 この世界では人間の力が非常に弱く、大地や海の大半は魔物が支配していること。人間は街の周囲に“魔導器(ブラスティア)”と呼ばれる装置で結界を張り、どうにか安全を守っている。しかし、大多数の人々は結界内部の快適な環境に慣れてしまい、自分たちの境遇を忘れかけている。


 いかがだろうか。

photo 結界の外は未開の荒野で魔物の領域。結界の中は繁栄した街で人間の領域。これがTOVの世界だ

 エンターテイメントの基本は、普段できないことを疑似体験させることにある。見たことのない世界を旅して、見たことのない事物に触れる。RPGが根強い人気を維持している背景には、人間が本来的な欲求としてセンス・オブ・ワンダーを持っているからにほかならない。TOVはそれに応えることを、プロローグのセリフひとつで明らかにしているのだ。

 テルカ・リュミレースにいる住民の大半は、自分が生まれ育った街しか知らない。もちろん世界全体がどうなっているかなど知るはずもない。この設定を示すことで、まだ見ぬ世界を探訪する面白さがゲームにぎっしり詰まっていることを教えてくれている。これはJ-RPGの枠に留まらない、RPGというジャンルの根源的魅力に関わってくる。TOVの作り手が、RPGの楽しさがどこから生まれるのかを熟知している証といえるだろう。

 そして魔導器の設定。圧倒的に弱者である人間がかろうじて文明社会を保てるのは、すべてこのテクノロジーのおかげである。もし魔導器が失われ、結界が機能しなくなれば、その街は壊滅の危機にひんしてしまう。

 プロローグではそうした変動の兆しをも示し、世界が危機に向かっていることを伝えている。これにより目的意識が明確になる。世界を支える根本的なテクノロジーを示し、プレイヤーにゲーム世界にいる間、もっとも重要視すべきことが何かを教えてくれているのだ。これもRPGというゲームを楽しむためには不可欠な情報である。


photo 当然のことながら通信や交通は未整備。そのため各地を回って異変に対処するのが騎士団の役割になっている

 こうした一連の情報を与えた後、いよいよゲーム本編がスタートする。最初に起こるのは、主人公ユーリが暮らす帝都ザーフィアスの下町で、水を管理している魔導器が壊れたという事件だ。

 プロローグがまだ頭に残っているこのタイミングで聞けば、どれほどの一大事なのか即座に理解できるだろう。それだけに主人公が行動を起こすに値するだけの動機付けになる。いかにしてプレイヤーを冒険に出すかはキャラクターをあらかじめ設定しているJ-RPGではもっとも難しい部分なのだが、それを鮮やかに解決している。この辺りも実にすばらしい。

 なお、プロローグから本編へのスムースな移行も見逃せない。一瞬プロローグが終わったことに気づかないほどで、これ以降も操作時のキャラクターがそのまま動いてイベントに入るという作りは崩れない。すなわちTOVは、プレイヤーが自分で動かすアニメというスタイルを採っているのだ。これがプレイ時の感情移入を高めるのにどれだけ有効かは、改めて言うまでもないだろう。


       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10

  1. /nl/articles/2208/07/news049.jpg 木下優樹菜、元夫・フジモン&娘たちとディズニーシーを満喫 長女の10歳バースデーを祝福
  2. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  3. /nl/articles/2208/07/news048.jpg カナダ留学中の光浦靖子、おしゃれヘアのソロショットに反響 「お元気そうでなにより」「別人のよう」
  4. /nl/articles/2007/15/news150.jpg 子「ごめん、もう仕事できない」→母「はぁい了解っっ」 退職を明るく認めた家族のLINEが優しい
  5. /nl/articles/2208/06/news014.jpg 飼い主が大型犬たちに“犬語”で注意した結果…… 即座に言うことを聞く姿に「まさかのネイティブw」の声
  6. /nl/articles/2208/05/news021.jpg 「若い君にはこの絵の作者の考えなんて分からない」→「それ俺の絵」 ギャラリーで知らないおじさんから謎の説教を受けた作者に話を聞いた
  7. /nl/articles/2208/07/news007.jpg 黒柴の子犬が成長したら…… 頭だけ赤色に変化した驚きのビフォーアフターに「こんなことあるんですね」「レアでかわいい」の声
  8. /nl/articles/2208/07/news043.jpg “無限に転がり続けるウソップ”で上映中断 劇場版「ONE PIECE」TOHOシネマズのシュールな機材トラブル話題に
  9. /nl/articles/2208/07/news009.jpg 元警察犬のシェパード、無防備におなかを見せてすやぁ…… 穏やかな表情に「お疲れさまでした」「ゆっくり過ごしてね」の声
  10. /nl/articles/2208/05/news018.jpg やたら緑の幼虫を発見→1カ月育ててみた結果…… ため息が漏れるほど美しいチョウの羽化を見届けた観察日記に「感動する」

先週の総合アクセスTOP10

  1. DAIGO、姉・影木栄貴のシニア婚に感慨「アスランが好き過ぎて」「人生何が起こるかわからない」 義妹・北川景子が後押し
  2. 大阪王将「ナメクジの侵入があった」と認める 告発者は「ナメクジが6匹並んでいた」と発言
  3. かわいすぎるおっさんだな! 橋本環奈、23歳にして自宅にビールサーバーを設置 すっぴんで「ぷはー……うまっ」「おいしすぎてビックリ」
  4. 「お先にどうぞ」で歩行者妨害は不成立 道を譲られたドライバーの交通違反が撤回へ 警察が謝罪
  5. 大型犬「こわいよぅ!」→先生「震えすぎて心臓の音が聞こえません笑」 診察を必死に頑張るハスキーが応援したくなる
  6. 益若つばさ、休業を宣言 骨折直後の“死体みたい”な写真とともに「命が危なかったか下半身不随」の可能性あったと告白
  7. 坂口杏里さん、夫の前で“推し男性”に抱きつく画がカオスすぎる 「本当にこんなに好きになった人、7年間の元カレと王子だけ」
  8. スタッフが掃除していると、ウミガメたちが列を作って…… 甲羅磨きをねだる姿が「かわいいw」「気持ちいいのかな?」と話題に
  9. 「担保に傷いったのがショック」 粗品、535万円したレクサス白に擦り傷 購入報告からわずか2日の惨事に落胆
  10. 柴犬さんが「じいじとばあばのお布団の間」に一番乗り! 最高にいとおしい寝姿に癒やされる

先月の総合アクセスTOP10

  1. 安倍元首相、銃で撃たれて意識不明か 事件時のものとみられる映像投稿される
  2. 野口五郎、20歳迎えた娘と誕生日デート 家族同然の西城秀樹さん長女も加わり「楽しい時間でした!」
  3. 「大阪王将」店舗にナメクジやゴキブリが発生? 元従業員の“告発”が衝撃与える 大阪王将「事実関係を調査中」
  4. この画像の中に「さかな」が隠れています 猫に見つからないように必死! 分かるとスッキリする隠し絵クイズに挑戦しよう 【お昼寝編】
  5. ダルビッシュ有&聖子、ドレスアップした夫婦ショットに反響 「ハリウッド俳優やん」「輝いてます」
  6. 「auの信頼度爆上がり」通信障害でも社長の“有能さ”に驚く声多数 一方で「まだ圏外だぞ…」など報告続く
  7. スシロー、“ビール半額”で今度は「ジョッキが小さい」との報告? 運営元「内容量に差異はない」と否定
  8. スシロー「何杯飲んでもビール半額」開始前にPOP掲示 → 注文したら全額請求 投稿者「態度に納得いかなかった」 運営元が謝罪
  9. TKO木下、海外旅行先で総額270万円のスリ被害に エルメスの財布奪われた“瞬間映像”も公開「くっそ〜……」
  10. パパが好きすぎて、畑仕事中も離れない元保護子猫 お外にドキドキしながら背中に乗って応援する姿があいらしい